春十七番 フェロモン、発情、マジですか!?
華やかな体育祭が終わって、今度は何事か!?
芽吹の身体に新たな異変が!?
男子達が芽吹を廻って暴走!?
どうなる芽吹ちゃん!
体育祭が終わってもう1週間。
あれ以来芽吹は、男子達からあの手この手で告白やラブレターがひっきりなしに続いていた。
学校敷地内のいろんな場所に呼ばれては、その度に兄筑紫が乱入し、男達に鉄拳制裁を喰らわせていたのだった。
芽吹を守ろうとする人は、何も兄だけではないが。
「芽吹ちゃん、今日も朝から罪だよねぇ」
「秋人にも八乙女さんにも言われた通り、知らない振りしてるんだけど、さすがに全部は無理だよ」
「芽吹ちゃんにはもう秋人君がいるんだし、キモい男子なんて平気で振っちゃえば?」
「なんでそこで秋人が出てくるんだよぉ!?」
「しつこく言い寄ってくるクソ虫どもは私が死ずめておくから、春風さんは安心していいぞ」
そう言って殺気のオーラを放つ八乙女さん。
八乙女さんはここ最近、男子達の芽吹に対する視線、行動を不快に思い、芽吹の用心棒をかって出たのである。
芽吹が避けきれないと八乙女さんが判断すれば、素早く排除に動く。
「ねぇねぇ春風さん、今日俺部活休みなんだ。だから今日学校終わったら一緒にさぁ……」
「1人でも部活に行けぇ。クソ虫がぁ!」
「めぇぶっきちゃん!メアド交換してよ。あわよくば俺とデート……」
「このゲロ虫がぁ。身の程を知れぇ!」
「は、春風さん、あ、あの、ぼ、僕と……」「言いたいことはサッサと言えぇ!」
最近はこんな感じで、芽吹が一言も発する間もなく、八乙女さんに玉砕されていく男子達。
八乙女さんがこんな調子なため、芽吹が通った後には、玉砕のショックで倒れ伏した男子達が転がっているという有り様である。
この現状を端から見ていた秋人、夕夏、有馬。
「八乙女のやつ、ありゃやり過ぎだろ。見ろ、ハルの顔引き吊ってるじゃねぇか」
「芽吹ちゃんの純情な貞操を守るためよ!」
秋人に対して胸を張って否定する夕夏。
(ハルの貞操……。俺なら良いのか?)
一瞬、芽吹のあられもない姿を妄想してしまう秋人。
(って、何てこと想像してんだ俺は!?)
床に倒れていた男子の中から一人、ムクリと起き上がった者がいた。
そしてその第一声が、
「芽吹ちゅあ~ん、ハグしてくりゃ~せぇ~!」
「あ、出島だ」
3人の声が重なった。
出島は唇を突き出しながら、芽吹に抱き付こうと迫って来た。
「げっ、それは絶対嫌だ!」
芽吹は咄嗟に目を瞑って腕を突き出した。
八乙女さんも同時に、
「いい加減しつこいぞ、このクソ虫がぁ!」
出島の顔面にグーパンチを放った。
ズムッ
出島の顔面にめり込む二人の拳。
出島は再び床にベたりと倒れた。
ホッとため息をつく芽吹と八乙女さん。 だったが、気付くと倒れていたはずの他の男子も、のそりのそりと起き上がって来ていた。
それはまるで、墓地の地面から這い上がってくるゾンビのように。
「芽吹ちゃ~ん、俺のお嫁さんにならないかぁ~い?」
「オ~、白銀の姫よ、この俺と愛の接吻を!」
「へっ、ひぃ、いぃやあぁぁぁ!」
急に更に激しさが増した男子達の求愛行動。
これには流石の八乙女さんも後ずさった。
「な、何なんだ!?」
芽吹に執着した男子達がどんどん迫って来ていた。
「春風さん、ここは逃げて!」
「え、でも……」
「いいから。ここは私が……って、きゃっ!」
八乙女さんを押しのけて芽吹に群がってくる男子達。
「にゃあぁぁぁ、秋人ぉヘルプーー!」
その頃。
「もうバタバタうるっさいわねぇ。まぁだ体育祭気分なわけ?」
廊下の騒々しさに、保険医の天海先生は、ドアを開けた。
「盛りのついた思春期は騒々し……って何事!?」
天海先生の視線が向く先では、銀髪の少女が、必死な顔で大勢の男子から逃げているという、文字通り¨盛り¨の光景であった。
「芽吹ちゃん、ハグしょう!」
「無理ですぅーー!」
「芽吹ちゃんが好きだぁーー。付き合ってぇ!」
「それも無理ぃーー!」
「芽吹ちゃんとチューがしたぁい!」
「絶対無理ぃーー!」
(何なんだこれーー。僕本当は男だからなんて言えないし、でも実際今の体は女の子だし、でも男と付き合うなんて絶対無理ぃーー)
その時、芽吹に追い付いた秋人が手を掴んできた。
芽吹は一瞬ドキッとした。
何故ならたった今、付き合っても良い対象に、秋人の顔が浮かんでいたからである。
「ハル、とりあえずこっちだ」
1年生の春風芽吹と柊秋人が、こっちに向かって来る。
「ちょっ、何、まさかこっちに逃げて来る気?」
先生が避けると、その直後に2人が保健室に飛び込んで来た。
開いたままのドアを、暴走した男子達が迫って来るところ、間一髪でドアにカギを掛けたのだった。
ひとまず、ということで、芽吹と秋人は保健室に籠城することにしたのだった。天海先生に心なしか睨まれている気はするが。
「アンタ達いったい何したのよ。男子達のあの乱れ様は何なの?」
半べそを掻きながら分からないと訴える芽吹に変わって、秋人が事情を説明した。
その頃廊下では……。
「お前ら俺の妹にいったい何をした?盛ってんじゃねぇぞ貴様らぁぁぁ。全員血祭りじゃコラァ!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
「ほぅほぅほぅ。なるほどねぇ」
「あ、あの、先生、もう服着ても良いですか?」
「えぇ、良いわよ。だいたい分かったわ」
秋人が事情を話し終えてから5分程、芽吹は診察を受けていた。
ベッドから起き上がって服を着る芽吹き。
(はぅ~。診察するためだけど、女の先生の前でも裸になるのはやっぱり恥ずかしいよ。人に胸触られるのって、すごく、変な感じするし。カーテン越しだけどすぐそこに秋人もいるし)
〈秋人サイド〉
秋人は事情を話した。もちろん、芽吹が以前男の子だったということは言っていないが。
話し終えると、
「じゃあとりあえず診察してみよっか。上の下着まで脱いでそこのベッドに寝てくれる?」
その時、ふと芽吹と目が合った。
「…………」
「…………」
(何でこっち見て来るんだ?)
そう思って見詰めていると、芽吹の方が先に顔を逸らした。
気のせいだろうか、芽吹の顔がなんとなく赤かったような。瞳も一瞬だけど潤んでいたような。
ほんの一瞬だった。しかしその表情は、秋人の胸に微かなショックを与えた。
(何で今こんなにドキドキしてんだ?)
自覚のない妙な感情に少し困惑気味の秋人だった。
現在芽吹は、天海先生の車で帰宅途中である。
(どうしようこれから、これは笑えない。あの日体が女の子になってた時以来に笑えないよこの状況!?)
保険医の天海先生の診察を終えた芽吹。そして秋人は、驚きの診断結果を聞かされた。
「春風芽吹さん?」「は、はい!」
天海先生は方眉を上げて、睨むように芽吹を見詰めて来た。
そして、
「アナタ今日はもう、すぐ早退しなさい」
「え!?」
「は!?」
「芽吹さんアナタ……」
言葉を選んでいるのか、少しの間を置いた。
「アナタ今、とんでもないくらいの濃度のフェロモンを分泌してるわ」
「フェロモン?」
芽吹が首を傾げる。
天海先生は今度は秋人に鋭い視線を向け。
「!?」
「柊君、貴方こんなにこの子の側にいるのに、何故そんな普通でいられるの?」
「はぁ、言ってる意味が……?」
「これほどの女性フェロモンに当てられたら、並みの男性なら血に飢えた猛獣よ。まして思春期真っ只中の高校生なんて発狂して人格崩壊でしょうね」
無言の2人に、天海先生は大きくため息をついて、ハッキリと言った。
「春風さんは今、生物学上、尋常ではない¨発情状態¨にあります。フェロモンはだだ漏れ。雄を無差別に誘惑、発情させている状態です。男子にいつ襲われてもおかしくない。むしろ襲ってくれと言っているようなものですっと。こんだけハッキリ言えば理解出来たかしら?」
2人は言葉を発せなかった。
頭の中で情報が整理されていく。
青ざめていく2人。
「フェロモン、発情、マジですか!?」
周りの男を常に無差別に誘惑し、発情せてしまうていう恐るべきスキルを、いや、呪いを、芽吹は図らずも得てしまったのである。
ホルモンバランスと関係があるため、必ず波があるはずらしい。でもいつ治るかは今のところ不明。よって、芽吹は明日から外出禁止自宅待機ということになってしまったのだった。
続く…
女体化発覚以来の大事件。芽吹のピンチ!
俺も芽吹ちゃんのフェロモンに当てられたい!
次回…芽吹と秋人の秘められた心情が!?