春十五番 着てみたはいいけど…
今回はいつもより長くなりました。なんといっても体育祭ですから。イベントですから。
夕陽ヶ丘高校体育祭、後半へ突入。
午後の競技は、借り物競走、仮装障害物競走、そして、審査員と観客から最も得点を獲得出来る花形競技。応援合戦である。
現在、借り物競走の順番が芽吹に回って来たところである。
スタート地点から10m先に、お題が入ったケースがあり、それを4人の走者が取り合う。そして書かれているお題に従いゴールする。
因みに障害物競走は男女混合である。
芽吹と一緒に走る者、後ろから順番を待つ者、女子はともかく、男子は芽吹の纏うカワイイオーラにほぼ戦意を喪失していたりする。
そんな中、普通にスタートが切られ、芽吹は普通に走り出した。当然一番にお題を引いたのは芽吹だ。しかし、お題が書かれた紙を見た芽吹は、そこで完全に止まってしまった。ほぼ一緒に来た女子はすぐにお題の物を見付けて行ってしまい、遅れて来た男子も、なんとなく芽吹の様子を気にしつつ行ってしまった。
その時芽吹は、
(『アナタのダーリンorハニー〔候補〕を連れて』ってナンデスかこのお題は!?こんな恥ずかしいの誰が…ってかいない人はどうするの?僕にはそんな人…!)
芽吹は一瞬八乙女さんを思い浮かべ、走り出そうとした。が、
(ちょっと待てよ、八乙女さんは綺麗だしカッコいいし、タイプだけど、僕今女の子だよね。ってことは百合になるの?いやいやいや、ってかお題の内容八乙女さんにバレたら、僕が八乙女さんに気があるってバレちゃうじゃん!)
他の走者は皆もうゴールしてしまい、芽吹だけが未だにコース上にポツリと突っ立っている。
周りが若干ざわつき始めて、心配になった教師が芽吹のもとに駆け寄って来た。
「春風さん大丈夫、もしあれならお題取り替えてもいいのよ?」
すると芽吹は急に顔が赤くなり、
「うにゃあぁぁぁ!!」
突然奇声を上げて、生徒席の方へと走って行ってしまった。
〈秋人サイド〉
秋人は次の競技まで出番が無いため、席に座って見ていた。
「お、次はハルの番か。どんなお題引くんだろうな?」芽吹が何か面白い事になるのを期待して見ていた秋人。だったがお題を見詰めたまま動かなくなった芽吹を見て心配になる。
「どうしたんだハルのやつ、そんな変なお題引いたのか?」
すると横から、
「あれれぇ、秋人くんは紅組でありながら、白の姫様が心配ですかな?」
「誰だよお前!変な言い回しはやめろ。つーか誰が見てもあの状況は心配だろ」
周囲からも芽吹を心配する声が呟かれる。
「何やってんだアイツ?」
少し苛立ち始める秋人。
教師が芽吹のもとへと駆け寄る。遠目にではあるが、この時はほとんど皆、芽吹のリタイアを予想した。
ところが、芽吹はいきなり動き出したのだ。そして生徒席に向かって走って来たのである。
(えーい、お題がバレなきゃ問題ない。こうなったら…)
芽吹は一気に走り出した。
そしてまず向かったのは、白組の生徒席。
そして借りる物とは、
「八乙女さんゴメン。一緒に来て!」
〈秋奈サイド〉
(春風さん大丈夫なのか?…おっ、走り出した。おっ、こっちか、何だろう?)
そんな風に軽く客観的に見ていると、芽吹の視線が明らかにこっちに向けられていることに気付いた。そして、
「八乙女さんゴメン。一緒に来て!」
「えっ、私!?」
まさかのご指名である。
芽吹は八乙女さんを連れて、次のミッションにうつるべく走った。向かう先は、
「大丈夫かハル、顔真っ赤だぞ?…て」
「秋人¨でいいから¨一緒にゴールして!」
「え、俺か!?ってか‥でいいから¨って何だ!?」
「うっ…、い、いいから早く!」
少し顔を赤くしながら、秋人と八乙女さんを連れてようやくゴールとなった。
席へと戻りながら、秋人が聞いてきた。
「さっきのお題の内容ってなんだったんだ?」
ギクッ
芽吹の動きが一瞬止まる。
「俺と八乙女さんって何だ?」
更に聞いてくる秋人。
「………それは、えっと……」
「ん、春風さん凄い汗だが、大丈夫か?」
答えに困っている芽吹の顔を覗き込む八乙女さん。
(言えない。絶対言えない。僕が八乙女さんのこと好きだなんて。それ以上に、僕なんであのお題で秋人も選んじゃったんだろ。秋人はただの友達で…)
しかし芽吹の頭の中では、頼りになる秋人のカッコいい姿が思い浮かんでいた。更に恥ずかしさが湧き上がり、たまらずこう叫んだ。
「た、たよりになる友達ってお題だったんだよ!」
「お、おぅ」
「そ、そうか。そういうことか」
急に喋ったことに驚きつつ、少し照れながら納得する秋人と八乙女さんだった。
続いての競技は全員出場の仮装障害物競走である。ルールはこうだ。
スタート→フラフープ5回→網潜り→?ボックスを開けて仮装→グルグルバット10回→ゴール。
まずは1年生からスタート。
皆それぞれ障害物に苦戦したりラクラクでクリアしたり。面白い仮装でグルグルバットは、目を回した走者がとんでもない方向へ行っちゃったりするのが、会場を盛大に笑わせていた。
因みに、芽吹達仲良しグループメンバーは、出島が全身グリーンタイツのカッパになり、グルグルバットの後ゴールまで根性で爆走しようと頑張ったが、コースを逸れて女性群の客席にダイブしてしまった。(実は狙ってやったことがあとで判明した。)
クールキャラ有馬は、小麦粉パックにちょんまげ長靴というよく分からない恰好で、難なくクリア。
秋人は軍服にちょび髭軍曹で、何度もコケながらなんとかゴールしていた。
夕夏は普通に笑える出来だった。障害物は高速でクリア。しかし仮装で時間を取ってしまった。全身タイツのサルだったからだ。?ボックスを開けてとにかく着てみた途端、
「えー、ちょっと何これ最悪ぅ~。いやぁー最悪ぅ~!!」
ワンワン喚きながらもなんとかゴールした。
八乙女さんは網潜りで若干苦戦したようだったが、仮装もシンプルに。グルグルバットでは、10回転目でバット投げ飛ばし、そのまま遠心力に任せて審査員席にすっ飛んでしまった。仮装はボンタン、タンランにリーゼントカツラであった。
芽吹曰わく、「八乙女さん格好良く似合ってた!」そうである。
そして誰より喜ばれたのは、やはり芽吹だった。
フラフープで腰を回せば、男女問わず、
「カワイイー!」
網潜りをすれば、
「芽吹ちゃん頑張ってー!」
と会場全体からの熱い声援。
芽吹と同じく網を潜っていた男子は、這いずる芽吹のプリッとしたカワイイお尻を見てフリーズしていたり。
そして芽吹がとった?ボックスの中は、チョッパーハットとヒヅメグローブだった。
頭に被り、手に装着。
「よし。あとは回ってゴール。よし、いくぞ!」
ファイトの雄叫びを上げるそのなんともプリちぃな姿に、男子は鼻血をだして歓喜し、女子は百合バッチコイとばりに悶絶していた。
グルグルバットは5回転目で一気に失速したが、なんとか10回回り切った。しかし、そこからが問題だった。
回り切った時点でもう地面にへたり込んでしまい、他の走者が次々追い付いてしまった。
「芽吹ちゃーんしっかりー。頑張ってー!」
「立ち上がれー!」
いろんな声援が芽吹に向けられる。
「ふぇへぇ~…どこがどこだか分かんないよ~」
フラつきながらもなんとか前に走ろうとする芽吹。 芽吹の正面に2人の走者が重なった。その時、
「うぅ~おりゃあ~、チョッパーパァ~ンチ!」
「うげっ!」
「おがっ!」
前方の2人の走者を押し倒して芽吹もそのまま倒れてしまった。
「うぅ~ぎもぢわる~い」
完全にグロッキー状態である。
見ているみんながヤキモキしている中、なんと、芽吹に倒された2人の走者が、芽吹を担いで一緒にゴールしてくれたのだ。紅、白関係なく湧き上がる会場。
そのあと芽吹が回復するまでにしばらく掛かったのだった。
なんやかんやと遂に応援合戦の順番がやって来た。先制は紅組から。
「我は紅蓮の若武者、真田幸村。紅蓮のごとく燃える闘志で、紅組を勝利へと導かん!」
そう高らかとセリフを決めたのは、紅組のイケメン花形。3年の坂口隼人である。
その出で立ちは、真田家の家紋、六紋銭が入った赤い鉢巻き。紅色の鎧兜と十文字槍を構えた、大河ドラマ並みの衣装だった。
全校イケメンランキングのトップ10の上位に選ばれている彼は、漏れなく女子達の悲鳴にも似た歓声を浴びていた。
そんな興奮している女子の中にあって八乙女さんと芽吹は違っていた。
八乙女さんは男嫌いだから当然無反応だ。そして芽吹の場合は、
「うにょぁーなんですとぉー。あの戦国の¨紅い彗星のシャア¨こと真田幸村さん。十文字槍キター。幸村さん最高ォー!!」
ただ一人全然違うところに興奮している芽吹を見て、他の女子生徒達は、
「芽吹ちゃん、坂口先輩じゃなくて武将にドストライクなんだ…」
苦笑い。
男子の反応は、
「芽吹ちゃん赤い彗星のシャア知ってんだ。ガンダムとか好きなのかなぁ?」
芽吹の隣に座っていた夕夏が、
「アハッ。芽吹ちゃん大興奮じゃん。目キラキラさせて超カワイイ!ネ、秋奈っち?」
「い、いきなり私にふるな!」
そうこうしていると、白組応援団員の先輩が芽吹達を呼びに来た。
「白組応援団員は準備するから私達について来て」
芽吹、夕夏、秋奈は、先輩の後に続いて校舎へと入っていった。
紅組の戦国風の猛々しく華やかな応援パフォーマンスが盛り上がりを増していく。
その頃芽吹達は…
皆、応援合戦の衣装に着替えるため、せわしなく準備していた。
皆慣れない衣装の着付けに手間取っていた。そんな中八乙女さんが先に着替え終えたようだ。
「何故、わ、私がこんな…。かなり恥ずかしいのだが…」
「うわぁ、超ビックリ。秋奈っちカワイイよ。なんか巫女さんみたい!」
「私はいったい、これは何役なのだ?」
「貴女の役は式神よ!」
白組応援団長である姉崎先輩が、今回の設定を企画したのである。
珍しい衣装に皆落ち着かない雰囲気の着替え室。
そんな中、
「そういえば芽吹ちゃんは?」
夕夏は辺りを見渡す。
「芽吹ちゃんなら、そこのカーテンの中だよ。なんか恥ずかしいからって。フフ。可愛いね」
それを聞いてニヤリと笑う夕夏。
それに気付いた八乙女さんが止めに行こうとしたが、
「芽吹ちゃんってば、女の子同士で着替えが恥ずかしいだなんて。どれどれ、私が芽吹ちゃんの痴態を見てあげま…」
シャァッ
カーテンオープン。
「しょ………!!!!!」
〈芽吹サイド〉
今さっき係に渡された衣装をじっと見つめる。
(こんなに大勢女子だらけの前で着替えるなんて、僕にはまだ出来ません。毎日下着のことだけで神経すり減らしてるのに。もう、男の子だったあの頃の僕は…)
芽吹は咄嗟に、カーテンで仕切れる部屋の隅を見付けてそこに入った。
(よし。とりあえずここなら)
深呼吸して、再び衣装を見詰める。そして散々悩んだ末に、とにかく着てみることを決断した。
…………………………
(こ、これは…着てみたはいいけど…、これでみんなの前で踊るのぉ~!?)
その時、
「私が芽吹ちゃんの痴態を見てあげま…」
夕夏の声が。
「あっ、ちょ、ちょっと待って…」
シャァッ
カーテンオープン!
「しょ……!!!!!」
その場にいた皆が、芽吹の姿に絶句した。
「え…、何…??」
芽吹は軽く怯えつつも、皆の反応にキョトンとした。
紅組の応援パフォーマンスは、真田幸村役の坂口隼人が格好良く決め、終わりの挨拶をしていた。
紅組応援団が退場し、程なくして、今度は白組応援団が姿を現した。
皆平安時代を思わせるような白い着物を纏って登場。
綺麗に整列すると、太鼓と笛の、それも平安時代を連想させる音楽が流れ出して来た。音楽がすこし荒々しくなると、隊列が二つに別れて、中央に3人の人影が現れた。
続く…
今後準レギュラー候補の先輩が二人登場しました。
美少女芽吹ちゃんのカワユさに翻弄されるキャラにしていく予定です。