♂♀⑰ 走りながらじゃ無理ぃー!
だいぶ不定期で申し訳ないですが、ようやく芽吹ちゃん投稿です。
「秋人」
「ん?」
「僕、また女の子に戻っちゃったんだけど……。どうしよ?」
「なんだって!?」
芽吹達の修学旅行二日目ー
奈良東大寺。
「こちらの柱の穴を御覧ください。こちらが、くぐり抜けると御利益があると言われる『大仏様の鼻の穴』です」
ガイドさんが大きな穴の空いた大きな柱の前で生徒達に説明する。
「通れたらどんな御利益があるんですか?」
女子生徒が質問した。
「主に言われているのは『無病息災』『願い事が叶う』『福を招く』あとは『頭が良くなる』ですね」
「来年からお前らは勉強に本腰入れなきゃならない受験生だ。いい機会だから神頼みくらいして行け。成績の悪い奴は得にな!」
引率の先生が生徒達に軽く活を入れる。
「これ通り抜ければ特に勉強しなくても頭良くなるってことだよな?ヨッシャ。余裕で通り抜けてやらぁ!」
「ぁい、こーゆーバカは特にだ。三回ぐらいくぐっておけ!」
「ハハハハ。だっさぁ~!」
「質もーん!恋愛にも御利益ありますかぁ?」
「女子の皆さんはやっぱりそこは気になりますよね。はい、お答えします。『願い事が叶う』とも言われているので、本気で願えば『恋愛成就』も含まれるかもしれませんね」
修学旅行生にはよくある質問なのか、ガイドさんは馴れたものである。
神社仏閣や歴史の勉強なんて、と侮っていた生徒達にとっても意外に盛り上がっていた。
ところが、そんなみんなとは少し雰囲気が違ったのが芽吹と秋人だった。
「戻ったって、どういう事だ?」
「う~ん……、分かんないけど朝起きたら、ち、ち○こが……」
「マジか……!?」
秋人は困惑を隠せなかった。
「てか、お前そのカワイイ見た目でち○ことかあんまり言うなよ」
「だ、だって……。て、てか、秋人もすぐカワイイとか言うな!」
「ハルがカワイイのは仕方ないから置いといて」
「だぁかぁら~!」
「夕夏と八乙女さんにはまだ教えてないのか?」
「あ、うん。意外とタイミングが無くて……」
「まあ、アイツらならハルの姿が見えなくなれば全力で探し出すだろ。自由行動になれば嫌でも絡んで来るさ」
その後、神社仏閣巡りの修学を終えると、今度は物産館などが集まる大きな道の駅までバスで移動して、お土産品の買い物なり、昼食にするなりの自由行動になった。
「えっ……、マジで芽吹ちゃん……。どういうこと!?」
「ついこの前芽吹ちゃんは本来の男の体に戻ったのに、今朝になってまた女の体に!?」
「はい。そういうことです。二人にはもっと早く知らせるつもりだったんだけど。ごめんね」
「それは全然いいんだけど。摩訶不思議過ぎてリアクションとれないんだけど……」
「何故芽吹ちゃんにだけそんな魔法みたいな事が……?」
芽吹、夕夏、八乙女の三人は、フードコートに落ち着いていた。
基本入浴から寝食までを共にする修学旅行。みんなには女子として認知している芽吹。目に見えて発育が良いわけでは無い部分は幸いと言えるが、下半身が男の子の状態で、浴衣あるいはパジャマという無防備な就寝時などはかなり危険。とはいえ、今また芽吹の体は女の子の体に戻った。幸運にも。しかし、いつまた変わるか。変わるタイミングや原因が分からない。芽吹達三人は頭を抱えていた。
「買って来てから聞くのもどうかとは思うけど、ソフトクリーム食べるか?」
秋人が四人分ソフトクリームを買ってきてくれた。
「ま、とりあえず今は外見通り今まで通りの美少女芽吹ちゃんなんだから、問題無しってことで。秋人君ご馳走さまぁ~!」
「秋人は気が利くな。溶ける前に有り難く頂きます」
買い物兼昼休憩を終えると、芽吹達を乗せたバスは次の観光名所に向かった。
「さっきの見た!?鹿の親子がちゃんと並んで横断歩道渡ってね!」
「あぁ~、早く鹿せんべいあげてみたぁ~い!」
「あれって人も食えるのか?」
「お前らぁー。食い物が入ったカバンはバスに置いてけー。匂いで鹿にカバンごと食われるぞー!」
「あと女子も、髪はちゃんと結い上げてねー。鹿に髪の毛食べられちゃうから!」
「ウソっ、マジで。嫌だ!」
「私ショートだから余裕ぅ~」
「先生、結いゴムとか持ってないですか?貸して下さい」
みんな班も関係なく各々が鹿公園のあちこちに散らばっていった。
早速鹿せんべいを買って鹿にあげに行った者。野生の鹿は怖いからと周辺のお店で買い物を楽しむ者。鹿せんべいを食べて見たら意外と食べれるからと食べていたら鹿にド突かれている者。鹿せんべいの袋をうまく開けられず、鹿に群がられ、終いにはバーティー開けしてしまい、鹿にモミクチャにされる者。まあ様々。
「ねぇ秋人、僕達も鹿せんべいあげに行こうよ。夕夏と八乙女さんも行こ!」
「一応野生だって聞いてるけど、見た感じ思ったよりもカワイイじゃん」
「私も前から鹿に触れて見たかったんだ」
「危険なのは9月~11月頃までの繁殖期らしい」
「へぇ~。秋人詳しいね」
「いや、ネットで調べただけだ」
「へぇ~。そんなんだ」
「そうなのか」
秋人の情報に芽吹、夕夏、八乙女は素直に頷いていた。
そこへ突然、おじさんが話し掛けてきた。
「今は12月。この時期に修学旅行生が多いんは、鹿の繁殖時期を避けとるから」
「うわっ。ビックリしたぁ~……!」
驚いた夕夏が八乙女に抱き付く。
「いきなり抱き付くな。こっちがビックリした!」
「もしかして鹿公園の係りの人ですか?」
「いやいや、近所に住んでるただのおじさんや。まあ、係りっちゃぁ~係りとも言えるやろか?」
芽吹が恐る恐る聞くと、おじさんははんなりとした京都弁で答えた。
「せやけど気ぃ付けやぁ。たまぁ~に人間の雌に残業かます雄鹿がおるからなぁ~。はっはっはっはっは!」
「残業……?」
おじさんはそれだけ言って、笑いながらどこかへ行ってしまった。
芽吹、夕夏、八乙女は意味が分からず首を傾げていたが、秋人だけはなんとなく意味が分かっていた。
もう12月半ば近いし、たまにっつったって、流石にもうないだろ?
秋人は、芽吹と周りの鹿と観光客の様子を見渡して、大丈夫だろうと予想していた。
しかし、その数分後―――。
「うにゃあぁぁぁぁぁ。もうせんべい持ってないよぉー。何で僕だけ追っ掛けて来るのぉー!?」
芽吹が鹿の群れに追い掛けられていた。
「よく見たらあれさ、全部オスじゃない?」
「今私達の鹿せんべいに群がっているのは?」
「……メスだね」
「何で!?」
「あれだけのオス鹿の群れからどうやって芽吹ちゃんを助ける?……にしても、この子達も無視し難いな」
夕夏と八乙女は芽吹ちゃんを助けたいと思いながらも、せんべいを食べに来るメス鹿達の可愛さに翻弄されていた。
「芽吹のやつ、もしかしてまた……?」
「秋人君、″また″ってどういうこと。なんか原因解るの?」
「あっ、いや~……。なんつーか……。お前らには話すべきだな」
夕夏にそう問われた秋人は、少し躊躇ったが、二人を信頼して、芽吹のとある生理現象について説明した。
「突然の謎の性転換で、ホルモンバランスが正常じゃなくなって、フェロモンのコントロールが出来なくなった……。なるへそねぇ~」
「つまり今芽吹ちゃんは、自分の意思とは関係無く、オスの鹿を誘惑してしまっているという訳か」
「そういうこと。前回は校内の男子どもが暴走しただろ?でもあの時は芽吹の兄の筑紫さんがいたから沈められたけど」
今回は神様の遣いと言われる奈良の鹿たちが相手。命の危険がない限り、人間は鹿に手を出してはいけない。鬼神の変態紳士、芽吹の兄筑紫もいない。
「ひぃぃぃぃー。コワイコワイコワイコワイ。ムリムリムリムリ。秋人ぉぉぉー、助けてぇぇぇぇー!」
「ちょっ、待てハル。……ってさっきより数増えてねぇかこれ!?」
「なにこの数。コワッ!?」
「芽吹ちゃんすまないがこっちに来ないでくれないかー!?」
「夕夏と八乙女さんにお裾分けするか助けてー!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
「ハル、ケツだ。ケツ穴閉めろ!」
「なっ、なんでお尻ぃ!?」
「いいから早く穴引き締めろぉー!」
「走りながらじゃ無理ぃー!」
「チョットォォ、アンタらこの状況でなんて会話してんのよぉー!?」
「秋人貴様、芽吹ちゃんになんて破廉恥なっ!?」
芽吹はたまらず秋人に助けを求めて来た。オスの鹿の大群を引き連れて。
鹿公園内を、大量の鹿の群れを引き連れて激走する美少女とその友達。その光景は後に海外旅行者によって、ティックトックに投稿されるのだった。
芽吹達のそんなハチャメチャな光景を遠目から見詰める、美少年が一人。
「あの子が噂の″春風芽吹″ちゃん……。ただの人間には到底あり得ない愛のフェロモン。必ず僕の妻にしてみせる」
ハムハムハム……。
何やら熱い視線を芽吹に向ける謎の美少年。その美少年の頭にピョンと立つケモミミを一頭の鹿がしゃぶる。
「ん~……。鹿君鹿君、僕のやんごとなき耳をしゃぶらないでもらえるかな?」
……ペロッペロッペロッペロッ!
「ダァーもう、やめんかワレェ。しゃぶるな。舐めるな。あっちに行け!」
苛立たしげに鹿を追い払うケモミミの美少年のお尻からは狐のような尻尾が……!?しかし、直ぐに霧のように見えなくなった。
「春風芽吹ちゃんは必ず僕の妻に……」
続く……
とりあえず一話だけですが、新作の
「ぷりてぃふぇいす生雲さん」も、暇だったら読んでみて下さい。暇だったらでいいんで。