♂♀⑯ ぼ、僕早くカラオケし、したいなぁ~
今回は宿泊あるあるのラッキースケベ展開は無しです。
道頓堀でのお昼の自由行動を満喫した芽吹達の次の行き先は、これまた大阪名物の代表名所吉本新喜劇である。
テレビでもお馴染みの吉本芸人の漫才と新喜劇コントを見て腹を抱えて笑う、大阪を代表する一大イベントだが、たまにこんな落とし穴にハマる者もいたりする。
「しまったぁー、自由時間でお土産買い過ぎたぁー!」
「いやお前それ、買い過ぎだろ!?」
「新喜劇見るスケジュールは分かってたんだけど、つい。あぁ、しかもここはここで新喜劇スタジオ限定のお土産もあったのかぁ~。うわぁ~!」
「やっちまったなぁ」
なんていうパターンだったり。はたまた、
「ぎゃははははは!ヤバッ、爆笑、爆笑、爆しょっ……ゲップうッぷ……!?」
「うぉい、マジかお前!?」
「あっぶねぇ~。笑いすぎてマジで吐くとこだったわぁ……」
とか。
男子の中にはこうして、まさに文字通り食い倒れる勢いで食い過ぎた者は、ここで一度後悔するのが意外とあるあるだったりする。
(因みにだが、『食い倒れ』の意味には諸説あるらしい。その一、無一文の者がこの町に入り、街中に溢れるご馳走の匂いに堪えきれず餓死する。その二、財布が空になるだけ店側からいっぱいご馳走させてもらい、終いには無銭飲食の容疑をかけられ、身ぐるみも剥がされて、全裸で路地に捨てられる。等々)
道頓堀グルメと新喜劇を楽しんだ芽吹達は、次なる目的地への移動となった。今夜宿泊するホテルである。
午後4時頃。ホテルへ移動するバスに乗た芽吹達、夕陽ケ丘高修学旅行生一行は、移動中のバスの中で道頓堀でのいろいろな出来事を思い思いに話して盛り上がった。
生徒の中には座席から立ち上がって新喜劇のワンシーンを真似する者もいたり。
「いや、ちょっと待てやオバハン。あんたそれ巨乳やのぉて腹の肉ですやぁ~ん!」
「アホ抜かせ!腹の肉ちゃうわぁ!私の立派な乳……肉や!?」
(ブルンブルン!)
ぽっちゃりな男子生徒が自分の腹を掴んで揺らして見せ、それを見た女子が軽く悲鳴をあげる。
「やめぇーい!揺らすなぁ!気色悪いわボケェ!」
「あんたも好きねぇ~。おにぃさんのスケベ」
「じゃぁがしゃぁー!ド突いたろかぁ!」
ホテルまでの道中、ほとんどの生徒のテンションは一向に冷めなかったのだった。
午後5時過ぎ。ホテルに着いた頃には日は既に暮れ、街は夜のネオンで彩られていた。バスから降りてすぐ正面に見えた、ホテルの玄関と、その向こうに見えるロビーのシャンデリアや、壁や床のちょっとリッチに見える景色に、“学校の仲間とホテル“という非日常に、生徒達の鎮まりかけていた興奮が再燃。教師や各クラスの委員長らが静まるよう号令をかけても、なかなか全体がまとまらなかった。
教師の一人の表情がそろそろ我慢の限界というのが分かった秋人と出島は、一瞬目配せを交わして頷き合った。
秋人は芽吹の側まで移動した。
「おい、ハル、ちょいちょい」
「ん?」
秋人は芽吹の耳元でコソコソと何かを伝えた。出島はミヅキに、同じように何かを耳打ちしていた。
「もう~、みんな言うこと聞いてぇー!」
芽吹達のクラスの学級委員長、小野さんはもう泣きそうになっていた。
「コイツらぁ~、いい加減に……」
一人の男性教師が一発怒号を張ろうとした時だった。
「みんな聞いてぇー!夕食の宴会場でカラオケ出来るんだってぇ~。ぼ、僕早くカラオケし、したいなぁ~!」
微かに秋人に目配せをしながら、若干棒読みで、芽吹はみんなに向かって叫んだ。
「オイヨロコべ、男子ドモ、コンヨクろテンぶろも、アルらしいぞぉ~!」
今度はミヅキちゃんが腹話術の人形の様に……というよりは、まるで金魚のように、ムッポァ、ムッポァと口を開閉して喋った。
その裏では出島がミヅキちゃんの頬っぺをぷにょぷにょと押して操っていた。プラチナブロンドヘアーなロリエルフの外見のミヅキちゃんのその様は、近くで仕掛けを見ていた生徒からすれば震える程のカワ面白い光景だっただろう。
「あんま先生とホテルに迷惑かけると混浴露天風呂入れないってよぉー!」
最後に出島がそう言い加えたことで、ようやく生徒全員がまとまったのだった。
ロビーで芽吹が言ったカラオケの件は、秋人と出島のその場しのぎの出任せ作戦だったため、当然そんな会社の忘年会のような展開は無く。当然混浴露天風呂などという風呂が高校生の修学旅行にあり得るはずもなく。(のちに秋人と出島は一部の生徒により枕投げで集中砲火という制裁を喰らう羽目になるのだが)
だがしかし、幸いな事に、初日の宿泊ホテルの夕食はすき焼き定食だったため、生徒の気分が大きく落ち込むことはなかったのである。
「ふぅ~。すき焼きマジ旨かったぁ~!」
「出島君の食いっぷり凄かったね。ご飯何杯おかわりしたの?」
「いやぁ~、たぶん6杯ぐらいかな?」
「その後の〆のうどんも凄かったね。星のカービーみたいだった」
「オス!オラ島のカービー!」
「なんだそれ。俺は最後うどんより残ったタレでTKGが最高だったなぁ。ハルも最後デザートめっちゃ食ってたな」
「えへへ。気付いたら5人分食べてた」
食後に出たデザートは、抹茶アイスの白玉あんみつだった。
何人かの生徒が満腹ギブアップで残したのを、芽吹がありがたくペロリ。
味の濃いすき焼きの後のそれは甘味別腹の芽吹にとって最高の至福である。また、それをひたすらに美味しそうに食べる芽吹の様子を眺める者達にとっては物理的な満腹感とはまた別に、メンタル的満腹感を味わえる光景だった。
「はぁ~……。スイーツでデレデレになってる芽吹ちゃんヤバいわ!」
「もういろんな意味でお腹いっぱいだよ芽吹ちゃん」
「ぱハァ~。ご馳走様でした」
長時間の移動の疲れと、修学旅行初日という非日常のスタートで、テンションのコントロールが皆無になった芽吹達は、枕投げ夜更かしも早々に諦め、教師達の予想よりも早く就寝に付くのだった。
――― 夢の中 ―――
気が付くと、僕はどこか知らない住宅街の十字路に立っていた。どの家も高い塀に囲まれて、二階の部分しか見えない。
右を見ても左を見てもどっちを見ても、どこまでも同じ、塀に囲まれた住宅街の道。全部同じ景色だから、さっき自分はどっち向きで立っていたのかもう分からない。映画「Dr.ストレンジ」に出てきた『ミラーディメンション』を思い出した。
「よく分かんないけど、とりあえず……」
僕はとりあえず、回れ右をしてから前進してみた。
50メートルくらいは歩いたかな?また十字路に出た。今度はそのまま左。
また十字路だ。じゃあ今度は右。と思って右を向いたら、正面に猫ちゃんが一匹いた。綺麗な真っ白い猫ちゃんだった。僕は無意識に首を傾げた。
この子なんか知ってる気がする……。誰だっけ……?
(いつもそばにいる。でもねぇ……そろそろかねぇ。春風芽吹、君を守ってやれるのもこれが最後かも……しれないねぇ)
芽吹には聞こえていない。が、白い猫はそう呟いてから、いつの間にか出来た靄の中へと消えていった。
「ねえ秋人、秋人はあの白い猫見たことある?」
いつの間にか横にいた秋人に、僕は当たり前に訪ねていた。でも、それは秋人じゃなかった。
(誰っ!?)
と、言葉にする寸前で、夢は終わっていた。
目が覚めてから数秒。意識がしっかり覚醒した途端、いきなり腹痛に教われた僕は、急いで部屋のトイレに向かった。でも何故か一瞬迷ってから部屋の外へ。各階のフロアにもトイレがあって、僕はそっちへ向かった。
―― 1分後 ――
(…………………!?)
「……もとに……戻ってる?」
続く……
ホントはもっとカットしてテンポ良く奈良の鹿公園編に入るつもりだったはずだったんが……。はずだったんだが……(ループ)
次回……芽吹ちゃん貞操の危機!?