♂♀⑭ 絶対エロいやつ!
2年ぶりですいません。ようやく描きたくなれたので投稿します。キャラ設定とか思い出すのに全部読み返してみましたが、ポンコツ文章に泣けてきます。
遂に修学旅行当日。芽吹達夕陽ヶ丘高校二年生一同を乗せた新大阪行きの新幹線のぞみは、時速280kmで目的地大阪へと向かっていた。
「さっきのミヅキちゃんのはマジでウケたわ!」
「ビャアアッ!だって」
女子の1人がその時のミヅキの真似をした。
「いきなりでビックリしたけどね」
「い、いきなりあんな速さで目の前を横切られたら誰だって驚くじゃろぉ!」
二十分程前にさかのぼる。
東京駅のホームで大阪行きの新幹線を待つ芽吹達。その中に、プラチナブロンドの髪を靡かせ、腰に手を当てて奮然と仁王立ちする海月冬耶の姿が。
ミヅキは町の普通の電車は知っていたが、新幹線という物は初めて見る物だった。勿論乗るのも今回が初なのである。故に……、
「ふむ……。“シーカーセン“とはどんな電車なんだ?兎に角速いとは聞いているが……?」
「こらこら、海月さん、黄色い線から出ちゃだめだよ!」
引率の教師から注意の声があがる。それにつられてみんなの視線もミヅキに集まる。
「ん、黄色い線?」
「足元のその黄色いデコボコした床だよ」
芽吹が優しく教える。
「ほう、これか」
足元のそれに気づき、下を見たその時だった。
遠くから聞こえて来た轟音があっという間に目の前を高速で通過。いきなりのスピードと轟音に、息が止まり、硬直するミヅキちゃん。そして更に、高速の物体が今まで切り裂いていた空気の膜が、風となってホーム内を切り裂いて行く。その風を至近距離で受けたミヅキちゃんは、
「ビャアアッ!?」
悲鳴を上げながら後ろに吹き飛ばされたのだった。
「帰りも新幹線だから、今度は気を付けてよ?ほら、髪解かしてあげるからこっち座って」
「か、カタジケナイ」
「お~……。さすがリーダー」
「ビックマザー吉澤!」
「ちょっと、誰がビックマザーよ!?」
今回、芽吹達のグループのリーダーになった吉澤唯。少々ポッチャリ体型ではあるが、世話好きで女子力も高く、大人になれば深田恭子ばりの美人になりえると噂される人物である。
「吉澤さん、和服来たら絶対似合うと思うなぁ~」
「着ません!」
「うんうん!老舗旅館の女将みたいな!」
「それは盛りすぎ!」
「浴衣は見れるじゃん!きっと妖艶だろうねぇ~」
「絶対エロいやつ!」
「どこがよ!?芽吹ちゃんまでやめてよ!」
女子通しでそんな会話で盛り上がる。
「あんたら、私を何だと思ってんのよ!?男子に聞かれたらめんどくさいんだけど!」
「浴衣イイー!」
「早速男子黙れ!」
「俺ドロンジョ!」
「知らん。死ね!」
そんな盛り上がりを笑って眺めながら、
「八乙女さんと吉澤さんの湯けむりツーショット……」
「やだっ。芽吹ちゃん、ちょっと、鼻血出てるって!」
邪な妄想を発動させてしまう芽吹だった。
走り初めて約2時間30分。芽吹達修学旅行生を乗せた新幹線は大阪に到着した。到着早々みんなあることに圧倒された。人混みこそ東京駅とほぼ変わらない光景だが、圧倒されたのは飛び交う大阪弁である。これは飛び交うというより、もはや吹き荒れるという言葉の方が合っているだろう。
人の波に飲まれたりしてはぐれたりしていないか、幾度かの人数確認をしながら無事バスに乗ることが出来た一行。
修学旅行のしおりではまずこれから、道頓堀で昼食を取り、次になんばグランド花月で吉本新喜劇などを見て、最後はアメリカ村でぶらり。
「前半の道頓堀と新喜劇は分かる。大阪っつったらまずこれ絶対的名所だろ。んで最後のこれなに?」
「大阪といったらアメリカ村も有名だろ?知らねぇの?」
「いや、知ってるよ。そうじゃなくて、俺が言いたいのはこの“ぶらり“って何?予定内容が中途半端にざっくりしてなくね?何“ぶらり“って」
一部の生徒からのそんな疑問に、先生が1人、こう答えた。
「詳しくはGoogleで」
「……ウザ」
午前11時。道頓堀に到着した芽吹達。
「うおぉー。すげぇ。道頓堀だぁ!」
「テレビで見たまんまじゃん!」
「これが食い倒れの町……!」
ここに来てまず目に入るのは、道頓堀川と橋。そしてその直ぐ横にそびえ立つグリコのオッサンのドでかいネオン。少し遠くに見えるのは通天閣。他にも、でかい動く蟹の看板で有名なカニ道楽。足を触ると御利益があるで有名なビリケンさん。
「テレビで見たのよりちょっと迫力足んなくねぇか?」
「夜になっていろんなネオンでいっぱいになればまた違うんだけどね。残念ながら今日の今しか来れないんだよ。ホント残念だけど」
そう説明をしてくれた先生も残念そうな顔をしていた。その表情に軽く同情してくれる生徒が何人かいたが、後に、『修学旅行の引率の仕事をサボって飲み歩きがしたかった』という本心がバレて、もう1人の引率者、美城雪花先生に怒られるのだが、まあ、たいした話では無いからカットにしておこう。
「14時まで自由時間にします。皆さんぞれぞれ、昼食を取るなり買い物をするなり自由です。13時45分にまたこの場所に集まって下さい。時間厳守でお願います」
「遅れた生徒は所持金半分没収だからね!」
美城先生の容赦ない警告が生徒達の鼓膜に響いたのだった。
「よっしゃ!大阪グルメ食いまくるぞぉー!」
「おおー!」
出島の掛け声に珍しく芽吹もノッて拳を挙げた。
「みんなで食い倒れよー!」
「「オオー。芽吹ちゃんに続けけぇー!」」
男子メンバー、出島、府川、藤田が芽吹の掛け声に続き、女子メンバーは、
「うん。まあまずはちょっとした物で食べ歩きしながら、お昼ちゃんと食べられるお店を探すのがベストだよね」
班長の吉澤の冷静な意見。
「あとでお土産の買い物もするんだから、飛ばし過ぎで早々に動けなくなるとかは無しで」
城内要からも冷静な忠告が入る。
「大阪といえばタコ焼き。食べ歩きといえばそりゃあもうタコ焼きが一番簡単だ」
「じゃあ出島くんは、渋くて頑固そうで、(おっ?ありゃ、奴さんカタギじゃあねぇな~)って感じの人のお店のタコ焼き探してきて。僕は肝っ玉母ちゃん的なグイグイ来るタコ焼き屋さん探すから」
「なんだ、その絶妙に難易度の高い店主像の指定は?」
城内さんから静かなツッコミが入る。
芽吹は目付きや眉毛をグリグリ動かして精一杯厳つい兄ちゃんの顔を真似ながら言った。
「め、芽吹ちゃん変な顔作らないの!」
吉澤さんが微かに体をプルプルと震わせながら注意する。
「カワイイ娘が変顔をすると=カワイイになるのは何故?」
城内さんがぼそりと疑問を呟いた。
そんな冷静な2人に芽吹は振り返り、
「みんなで美味しいものいいっぱい食べよ!」
春の一番清々しい太陽のようなその笑顔は、見た者にマイナスイオンを吹かせる不思議な笑顔だった。
「いざ、食い倒れの町へ!」
続く……