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Young and Unexperienced 命を革める

 世界平和の実現と維持を謳う組織の長である男が壇上で熱弁を振るっていた


「今日のこの日を迎えて、私の胸には希望と喜びが満ちています。

 かつて空想の産物、夢物語(フィクション)に過ぎなかった宇宙への移民がついに現実のものとなるのです。これは、人類史上における最大の記念碑とも呼べる出来事です。科学技術の発展が人間の想像力に追いついたからということだけではありません。


 移民船に乗り込む人々の顔をご覧下さい。

 白い肌、黒い肌、黄色い肌。目の色も髪の色も様々です。出身国も、民族も、奉じる宗教も違います。かつては呼び名も様々でした。国や民族の名を冠してなんとか人と言ったり、信じる宗教の開祖がその集団の呼び名となったり。決して口にしてはならない差別的な表現も、残念ながら多々見られました。


 しかし、今や彼らは総称としてこう呼ばれます。新しい人類、と。


 人類が種として年老いた、滅ぶべき罪深い種族だ、などと一体誰が言ったのでしょう。

確かに我々の歴史には対立と戦争に彩られた忌むべき頁も多くあります。ですが、同時に愛や友情、芸術、たゆまぬ発展への努力といった輝かしい面も枚挙に暇がありません。過度に悲劇的・自虐的な観点から必要以上に先祖を貶めることは、彼らの功績に対する侮辱に他なりません。


 何よりもあの人々の顔! 怒りや憎しみなど欠片もありません。彼らは父祖の不和を赦し合い、共に手を携えて進む未来を選んだのです。

 今日という日は、過去の多くの過ちに対する人類の勝利として刻まれるでしょう。憎しみは忘れることができる。対立する人々も必ず和解できる日が来る。彼らの笑顔はその証明なのです。


 新しい種族として、彼らはまた若く未熟です。行く先には苦難も多いでしょう。ですが、人類が今まで築いた叡智、そして団結し助け合う意思によってあらゆる試練を乗り越えられると信じています。

 あの船は現代のメイフラワー号、彼らは現代のピルグリムファーザーズです。彼らが築く新天地の繁栄を、彼らの未来が実り豊かであることを、この母なる地球から祈り、見守ろうではありませんか。


 私はここに宣言します。特定の宗教に基づいた西(After )(Christ)を過去のものとして廃し、新たに宇宙(Universal)紀元( Era)の幕が上がることを!」




 その演説は様々な媒体で様々な人の目と耳に届いた。


 机を並べて教室の前に設置されたテレビを凝視する子供達。

 飢えと病で死にゆく子供を励ます看護師の声。

 恋人と肩を寄せ合ってPCを見つめる若い女性。

 チューブに繋がれた老人の耳に届くラジオの音声。

 移動中に携帯端末の画面を注視するスーツ姿の男。

 直立して放送を傾聴する兵士の列。

 店頭のニュース映像を盗み見るホームレス。


 希望に目を煌めかせた者もいれば、懐疑に澱んだ目もあった。自身の未来を重ねて胸を躍らせる者も、無関心に通り過ぎる者も。


 しかし、その演説は見聞きした者の胸に炎を呼び起こした。燃え盛るもの、熾火、火花。規模も形も様々だったけれど。ある者は祈り、ある者は決意を込めて。ある者は盲信し、ある者は皮肉げに。強さは違えど、世界中の人が同じことを胸に抱いた。




若く未熟な彼ら(人類)の子らが、彼らと同じ過ちを犯すことのないように。

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