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Überraschungseier 誰が殺した

「このケンキュウジョではキュウジダイのセイタイケイのカイフクのため――」


 白い服の人の話はむずかしくてつまらない。僕は下を向いてあくびをかくした。にじんだ涙をそででぬぐっていると、隣に座っていたジークが服のすそを引っぱってきた。


「あれ、見ろよ」


 僕はジークがこっそりと指さす先を見た。よく分からない話を続ける白い人、その隣に置かれたとうめいな箱を。もっと言うなら、その中にきれいに並べられた、たくさんのまるいカプセルを。


「すげえな」

「きっとレアなのが入ってる」


 先生に気づかれないように、僕たちはひそひそ声で話す。

 僕とジークが思いうかべているのは、僕たちが大好きなお菓子のことだ。

 少しつぶれたまるい形のチョコレート。チョコレートも大好きだけど、僕たちはその中身の方がもっと好きだ。うすいチョコレートを食べると出てくるのは、ひと回り小さい黄色いプラスチック。それを二つに割ると、いろんなオモチャが出てくるんだ。

 月よう日から金よう日まで。宿題をちゃんとやって、手つだいもして。それでやっと土よう日に一つだけ買ってもらえる宝ものだ。飛行機や船のモケイ。バネのしかけで動くやつ。めずらしい木でできた生きものたち。同じのが出たときは取りかえっこすることもあるけど、それだってどれを出してどれを残すかにはものすごくなやむ。


 そんな僕たちのあこがれの、みりょく的なまるいカプセル。それがたくさん並んでいる。それも、今まで見たことのない色やもようのが。

 ゲームだってハデな色のカプセルからは強いモンスターが出てくるんだ。あいつらの中には、いったい何が入ってるんだろう?


「ちょうどフカするタマゴがありますね、ちょっと静かにして見てみましょう」


 白い服の人が、たくさんのカプセルの中から青いのをつまみ上げて透明な箱の中に入れた。ママの大切にしてる宝石みたいな色。スーパーに並んでいるチョコのカプセルより小さそうだけど、てかてかして安っぽいプラスチックじゃなくて、何ていうか高そうな感じがする。そう、あれだ。おばあちゃんの家にあるアンティークのカップ。あんな感じだ。


「何が入ってるんだろう……」


 また、ひそひそ声でジークに言う。それともジークが僕に言った? あまりにドキドキするから分からなかった。


 僕たちがこんなにドキドキしているのに、白い服の人はカプセルを割ろうとしない。ただ青いカプセルを見るだけだ。僕は、いつの間にか前のめりになってこぶしを握っていた。手のひらが汗ばんでしめってくる。早く早く、中を見せてよ!


「うわ……」


 僕、あるいはジークが小さな声で叫んだ。僕たち、僕とジークとクラスメイトの見まもる中で、カプセルに小さなヒビが入った。ひとりでに!


 いつもはうるさいみんなも今はしずかにしている。心ぞうがバクバクいうのが聞こえそうなくらいしずかだ。カプセルのヒビが大きくなっていく音も聞こえそうだった。


 大きくなったヒビから「何か」がのぞいた! 思わずジークをこづくと、ぼくもこづき返された。

 ソレはカプセルの内がわから少しずつヒビを広げて、最後にはカプセルを二つに割った。僕らが毎週やるように。きれいな二つではなくて、さかい目はギザギザしていたけど。


「アメリカンロビン――コマツグミのヒナです」


 白い服の人が言うことはやっぱりよく分からない。でもそんなことはどうでもいい。僕らはカプセルの中から出てきたオモチャに目をうばわれた。

 ネジをまいたようでも電池が入っているようでもないのにソレは勝手に動いていた。毛はほとんど生えてなくてちょっと気もちわるい。小さいのに黄色い口がやたらと大きくて何でもまる飲みにしそうだ。育てたら強くカッコよくなるのかな?


「ここからは自由時間です。エンナイを好きにケンガクしてください。色々なドウショクブツが暮らしていますよ」


 やっと分かる言葉が出てきた。自由時間。遊んでいいってことだ。クラスメイトたちがつぎつぎ立ち上がって、仲の良い友だちどうしでちらばっていく。僕はジークをつつくと、前に出て白い服の人に近づいた。


「やあ、こんにちは。ヒナを近くで見たいのかな?」

「はい!」


 さっきひとりでにカプセルから出てきたオモチャは、重そうな頭を地面につけて手足をばたばたさせていた。毛はかわいてきていて、ふわふわした感じがなんだか少し可愛い。


「それ、さわってみても良いですか?」


 僕は箱に並べられたカプセルを見て、聞いてみた。近くで見てみると、やっぱりいつものチョコのカプセルよりずっと小さかった。それなのにあんなオモチャが入ってるなんてすごい。ケーキが切り分けられるのを待ってるみたいな気分だ。クリームに指をつっこんでなめたい。箱に手を入れてカプセルを割ってみたい。


「これはダメだよ。コタイスウのカクホのためにゲンジュウにカンリしているからね。でも、あっちで探してごらん。放しているやつらがエイソウしているからね。運が良ければホウランしているところを見られるかも」


 大人ってなんでわざとむずかしい言葉ばっか使うんだろう。だからって子どもあつかいもイヤなんだけどさ。

 白い服の人が言ったことは、僕には半分も分からなかった。でも何となく分かったこともある。


「あっちに行けば、同じのが見つかるかもしれないんですね?」

「ああ、木の上を気をつけて見てごらん。スがあるかもしれない。ワラを集めた……そう、茶色っぽいボールみたいなやつだ」


 木の上にあるボールを探せ。ミッション発動だ。僕とジークは顔を見合わせてうなずきあった。


「行こうぜ」

 

 ジークが僕の手を引っぱって走り出す。僕も足を大またに出しながら、首をひねって白い人に向かってさけんだ。


「ありがとうございました!」




 僕たちのミッションは成功した。

 ケンキュウジョの中は思ったよりもずっと広くて、石ころだらけ雑草だらけの地面にはとても苦労したけど。木の上を見ながら歩いていてころんでしまったのも一度や二度じゃないけど。ジークをふみ台にして木にのぼった僕は、やっと見つけたのだ。小枝をくみ合わせて作ったボールのようなもの。その真ん中に置かれた青い小さなカプセルを。


「二つある!」

「俺の分も取ってくれよ」


 ジークがちょっと苦しそうに言った。もちろんだ。僕を乗せてがんばってくれてるんだから。僕は二つのカプセルをそっと持ち上げると、ズボンのポケットに入れた。




「何が入ってるかな」


 僕たちは青いカプセルを陽にすかしたり、耳のそばでふって音で中身を当てようとしたりした。何も分からなかったけど。でも、太陽にすかすと青なのに燃えてるみたいで、とてもきれいでワクワクした。


「つぎ目もないし……」


 そう、このカプセルはいつものやつと違ってつなぎ目がない。だからさっきのオモチャは自分の力で(!)中からこわしたんだ。


「でも、何かスイッチがあるはずだ」


 だって、店先でオモチャが勝手に出てきたら大変だから。何かすれば、さっきみたいにオモチャが出てくるはずなんだ。


 地面に置いて待ってみたり、手の中であたためてみたり。でも、何も起こらない。カプセルはだまったままだ。さっきみたいにヒビが入ることはない。


「なんだよ、もうっ!」


 ジークがイライラしはじめた。ジークはいつものカプセルを割るときみたいに、強くつまんでひねって開けようとしてる。


「やめろよ」


 こわれちゃうかも。そう思って声をかけたのに、


「ああ――」


 カプセルはジークの手の中でぐしゃりとつぶれた。中に入っていたのはオモチャなんかじゃない。黄色っぽいどろっとしたナニカだった。


「うえ、気持ち悪い」


 ジークはナニカごとカプセルをなげすてた。僕はそれに当たらないように体をよじってよける。

 僕の持っているカプセルも同じなのかな? 急に気味が悪くなって、僕はカプセルを地面にたたきつけた。くしゃっ。軽い音がしてカプセルの中身があらわになった。


「これもだ……」


 とうめいなナニカと黄色いドロドロ。それだけだった。

 カプセルはきれいな石みたいな見た目とは逆に、とてももろかった。この黄色いドロドロは、もしかしたらいつものカプセルの材料だったのかな? 何かの理由でうまくカプセルができなかったのかな? 僕はソレをふまないようにそっと遠回りでジークに近づいた。


「不良品だったのかな」


 ジークはイヤな顔をすると、よごれた手をズボンでぬぐった。


「べたべたする、水道探そうぜ」

「さんせい」


 こわれたカプセルはそのままに、僕たちはその場を後にした。

Überraschungseierとは「チョコレートでコーティングされたカプセルに玩具が入っている」あの商品のことですが、登録商標ではありません。

ドイツでの登録名はKinder Überraschung、日本でもキ○ダーサ○ライズで登録されており、商品名を直接使っている訳ではないので権利的にはセーフと考えております。

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