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忍耐の限界
桜が海女としてその日の漁を終え、船へと上がるのを見届け、彼も身を翻し深海へと姿を消した。
その後ろ姿を追うように細かな気泡が筋を描いていく。
深海に存在する自身の国へと戻った彼は、周りの者を意にも介さず、自室へと引きこもってしまった。
「……」
寝台の片側に腰を沈め、頭をぐしゃぐしゃと掻いて顔を手で覆うと嘆息した。
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あの日。それは三年前に遡る。
その頃は、まだ彼女も潜りがそこまで上手いわけでもなく、少し潜っては浮く、を繰り返していた。
そして漸く岩場まで辿り着けるようになった頃、桜は誤って水を呑んでしまったのだ。
浅いとは言え……身の丈以上の水深でパニックになり、海底で気絶してしまった彼女を助けたのは、他ならぬ彼だった。
その日から、彼は桜に心奪われてしまった。
毎日欠かさず、海女として潜る彼女を見つめにギリギリの水深まで浮上し、桜が去ると国へ帰る日々。
その恋慕は一年二年と経る程に深くなり、三年経った今日も想い続けている。
「……もう、限界だ」
彼は、周りの者の諌めるのも聞かず、居城から去って行ってしまった。