3/152
想いを寄せる者
透明度が高く、何処までも澄んでいる海中。
桜は、貝を獲る為の道具を手に岩場まで下りて来ると、ひとつ手を合わせてから岩牡蠣を剥がして、ふわりと水面へと戻って行く。
そしてまた岩場へと来ては、貝を手に海上へと。
桜には分かるはずも無いが、それを遥か数kmも離れた所から見ていた者がいる。
白銀の長髪を後ろで緩くまとめ、揺らめかせながら彼女を愛おしげに見つめる。
端正な顔立ち。筋骨隆々とは言わずとも、程良く鍛えられたかの様な引き締まった上肢。
だが、その下肢は異様であった。
下腹部から本来脚がある筈の部位は、煌めく無数の鱗で覆われ、瑠璃色の光を放つ。
そして先に行くにつれ細くなり、先端には薄く透けるような尾ひれが続いている。
遠く、更には桜よりも深い暗い所から眺めていても、彼の眼にはしっかりと映っていた。
艶やかな黒髪を靡かせ、感謝の意を示して貝を獲る、微笑みを浮かべた彼女を。
「こんなにも愛してしまったのに……私には、貴女に近寄る事すら出来ないのか」
彼の悲痛な声は、桜には届くはずも無かった。
……第三者視点、やっぱり苦手かも。。