異種族
自分を見て、恐らく本人も気付いていない畏怖と驚愕を瞳に滲ませ、固まったのを見たイグレーン。
それは逃げられるより、悲鳴を上げられるよりも辛い思いにさせた。
「……あ、危ないっ」
思考回路がショートし、ふっと意識を無くして倒れる桜を慌てて抱きとめる。
「他の人間なら、幾ら嫌われようと怖がられようと構わない。……だけど、貴女だけには恐れられたくは無いのです」
そのつぶやきは、尾を引く悲しみを纏い、重く部屋に吸収され消えた。
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「人間というのは、たくさんある種族の一つに過ぎません。この世界には、本当に沢山の生き物が居るのです。私達は、“人魚”と呼ばれる種族です」
「……にん、ぎょ……ですか……」
途切れながらも、オウム返しで反応を示す桜。彼女にとっては大き過ぎる寝台の上で、イグレーンと距離を取って座る彼女はずっと硬い表情のままだ。
イグレーンは少しでも桜に近付きたくて仕方がないのだが、彼女は必ず一定距離を置く。
その結果が1.5mの距離を生んでいた。これは皇子が手を伸ばしても、桜には届かない距離。しかも律儀と言えば良いのか、正座を崩そうとはしない。
そして何より、桜は一度たりとて皇子を直視しようとはしないのだ。目覚めたあの時以降、一度も。