皇国の国難
「私はあの娘を愛しているのです!父上。どのように言われようと、止めようとしても無駄です。私の心は変わりません。
それに我々人魚は、それよりも深刻な問題を抱えているではありませんか!」
息子の言葉に、ぐっと詰まる父王。人魚は他種族に比べ、極めて繁殖力が低い種族である。
人間同士で有れば病気等、特殊な事でも起きない限り、一定の齢までは複数人、子を成すことが出来る。
人魚はそうはいかなかったのだ。彼らは数世紀もの長命と引き換える様に、繁殖力を低下させていた。
例えて言うと、人間が行為を成し、一年で身籠る確率を100%とするならば、人魚は実に2%を切るのである。
このイグレーン皇子は、望まれながらも中々恵まれず、漸く誕生した待望の嫡子だったのだ。
人間と交わるなどと前代未聞の事ではあるが、繁殖力の高いヒトとならば、との意見も今までに出なかった訳ではない。
が、結局は掟を重視し、僅かながらも衰退に向かっているのが現状。
それを皇子は、父に突き付けたのだ。
それでも掟を持ち出す父を廊下で振り切り、イグレーンは自室へと向かった。
誰も部屋に入ることの無いよう、施錠していた扉を開けて寝台へと目を向ける。
ところが、寝台に愛しい人の姿が無い。
「?!」
だが窓も施錠されたままなのだから、桜が何処かへ行けるはずも無い。
逸る気持ちを抑えて部屋を進むと、寝台の陰に、縮こまる彼女の姿を見つけて安堵の息が漏れた。
「目が覚めたのですね」
「ッ!?」