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No.2

気がつくと緩やかな丘を下っていた

周囲では同じように人々が丘のふもとを目指して歩いている

寡黙な集団は後ろを振り返ろうともしない


最初はまばらな集団も丘を下るにつれて数を増し

濃密な空気を漂わせながら これは死びとの集団だと気づかせる


癌細胞は死への過程を十分に学習する時間を与え

心臓が停止する瞬間まで鮮明な意識というおまけまでつけた挙げ句には

ささやかな楽しみさえ もたらすことなく人生はあっけなく幕を閉じ

迷うことなく魂だけをここに運び込んだ


誰かを傷つけた訳でもなく

カゾクノタメ カイシャノタメ マジメニ ガムシャラニ イキテキマシタ


さらに歩くと やがて眼下に大きな黒い穴が待ちかまえ

とてつもなく大きなその穴は 活火山の噴火口より巨大で威厳に満ちている

中ではどす黒い障気がごうごうと音を立てながら渦を巻き

ドーナツに群がる蟻のように 死びとは後から後から押し寄せる

馬鹿々しいがこの景色が見られただけでも得をしたような気持ちにさせる


大半の死びとは後から来る人の波に押され はらはらと枯れ葉のように穴の中へ落ちてゆく

自分とて例外なく 暗黒の世界へ向かう最後の旅立ちは恐れもなく

涙するほどの恍惚と興奮に満ちあふれ 静かにただ静かにふもとを目指す


突然静寂を打ち破り 落ちることを免れようと抗う集団が行く手を遮る

人の波に逆らって何やら大声で喚きながら上へと昇ろうとする

小奴らはここまで来て何を今更求めるのか


何かがはじけ飛ぶように苛立ちと怒りが津波のように全身を駆け抜けた瞬間に

体は急速に変化を遂げはじめ 全身の筋肉はめりめりと音を立て何倍にも膨れ上がり

口元に伸びた牙を隠す気持ちも瞬時に失せ 今怒りは頂点に達し炎の角となり吹き出す


咆吼を放ち湧き上がる怒りに身を任せ 容赦なく抗う死びとを穴目がけて叩き込む


鬼に変貌した己を誰が責められようか

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