大地に立つ
「お願いでしゅから、ひぐっ、一度ゲートで通過登録をしてくだしゃいましぇんか、えぐっ」
なんということでしょう、あの強気だった戦乙女が今ではこんなに泣きじゃくって
・・・やり過ぎた、いやむしろこうなるまで耐えたアイレスの忠誠心を誉めるべきだろうか。
流石に彼女を可哀想に思った俺は、言う通りに天界と現世を結ぶゲートへと向かうことにした。
「ただし道中は語尾に”にゃ”を付けることな」
この男、鬼畜である。
鈴蘭の草原とゲートは徒歩1時間とそれほど離れてはいない、それも相まって俺はアイレスに見咎められたのだろう。
俺はてくてくとゲートの方に向かって歩く、アイレスはおっかなびっくりひょこひょこと体を潜めながらついてくる、語尾ににゃを付けて話したくないのだろう。
全く、会ったときはあんなに堂々としていたのに、どうしてこんなにオドオドする子に・・・。
俺がにっこりと笑いかけると、アイレスは体をビクリとさせて渋々と俺の左後ろにつく。
いかん、これでは話どころではない。
暫く歩いて、アイレスも少し落ち着いたころに、彼女に色々と質問をすることにした。
「この世界にはプレイヤーって居ないのか?」
彼女は首を傾げながら答える。
「さ、先程も言っていた・・・ましたが、プレイヤーってなんですか?・・・にゃ」
まだちょっと怯えているようだ、猫語尾を使うことで少しは落ち着けば良いのだが。
え、お前の趣味だろって? んなこたーない。
「プレイヤーっていうのはだな、スキルとか・・・はNPCも使うか、自由行動・・・はNPCもするようになったのか。死んでも・・・あれ? この世界って死んだらどうなるんだ?」
俺はプレイヤーの説明をできずに、逆に質問をする。
「死は死ですよ、動けなくなり、肉体と魂に分離し、肉は朽ち果て魂は別な層に行きます、にゃ」
「でもゲームだと死んだNPCは元の場所に復活するよな?」
「・・・何を言っているのかは分かりませんが、私が復活できるのは、主神であるオーディン様の加護、リサシテーションの魔法のお陰です、にゃ。」
リサシテーションとは、死んだらオートで復活させてくれる魔法のことである。
別名リレイズあるいはリヴァイヴァ、ファイナルアタックに蘇生のマテリアを連結させても同様の効果が!
まあ、復活するのは特に珍しいことじゃなく、リサシテーションかけたら死なないのがわかった・・・あれ?
俺は立ち止まり、アイレスの方を振り向いて疑問に思ったことを口にする
「ってことは、現世の人間は普通に死ぬの? 」
「もちろんです、死んだ勇者の魂を天界へ誘うのが私の仕事ですからにゃ!」
うーん、それだと現世のNPCやプレイヤーはどうやって復活してたんだ?
実はオーディンの加護を受けていたとか?
とりあえず、俺の命はリサシテーションかけとけば大丈夫なことがわかったから良いか。
俺は再度歩き出し、質問を続ける。
「そういえば、天界の戦況ってどんな感じなの?」
FQ17はプレイヤー達のクエストの選択と進行状況によって世界の状況が様々に変わる。
例えば天界ではアース神族とヴァン神族が争っており、初期状態では戦力比2:1と圧倒的にアース神族が有利である。
しかし沢山のプレイヤーがヴァン神族寄りのクエストを受けることでヴァン神族が優勢となり、しまいにはゲートがヴァン神族に落とされて、アース神族であるアイレスの代わりにヴァン神族のグルヴェイグという長身褐色のねーちゃんがゲートキーパーになったりする。
説明長いよ、何やってんの!
「ヴァン神族との戦争の話ですか? 今のところ我がアース神族が有利ですよ、私の勇者選定のおかげですね!」
アイレスは手を腰に当てドヤ顔で言う、そしてにゃを付けるのを忘れている。
「ちなみに、戦力比はどれぐらい?」
「2:1ぐらいですけど」
俺のアイレスを見る目が更に生暖かくなったのは言うまでもない。
話が一段落したところで丁度ゲートが見えた。
ゲートは入り口は名前通り門の形をしているのだが、中身はただの超でかいエレベーターで、100畳ぐらいの四角い部屋がフリーフォールのように現世へと落っこちていく仕組みになっている。
タイミングを見計らっておもむろに呟く。
「やべ、小手と兜置いてきた。」
「え、もしかして戻るんですか?・・・にゃ」
アイレスが露骨に嫌そうな顔をする、そしてにゃを付けることを思い出す。
大分立ち直ってきているようだ。
「そだな、ちょっと取ってこよう」
アイレスがやだなぁ・・・と言いながらうなだれ、俺から目線を外す。
俺はGMメニューから場所指定移動を選び、鈴蘭の草原へと戻って兜と小手を手に取った後、またゲートへと戻ってくる、この間2秒である。
アイレスが俺が手に持っているものに気付き、見る。
俺の顔を見る。
もう一度手に持っているものを見る。
俺の顔を見ながら話しかける。
「なんで、持ってるんですか・・・にゃ」
「場所指定のワープできるんだ、俺」
「なんで、ここ来るとき使わなかったんですか・・・」
「旅したかったからかな」
「・・・うわぁっぁああん!」
アイレスが走ってゲートの中に入っていく。
いかん、やりすぎた。
俺は頭をかきながらアイレスを追いかけゲートの中に入っていった。
部屋の隅で丸まりながらぐすぐす泣いてる空色の鎧をつけた女の子を見つける。
俺が彼女の肩に手をかけると女の子は振り向く、何か言葉を待っているようだ。
だから俺はにっこり笑ってこう言った。
「早くゲート動かして」
分かってましたー!と叫びながら入り口近くにあったスイッチに走り寄ったアイレスは、叩くようにボタンを押す。
するとゲートの入り口が閉じて、高度100kmからの2分間のフリーフォールが始まった。
さて諸君、慣性の法則を知っているだろうか、エレベーターが下に降りるときに体が軽くなるアレである。
先程も言ったように、ゲートはぶっちゃけてしまえば巨大なエレベーターである。
そんなエレベーターが突然自由落下を始めたら中の人はどうなるだろうか?
俺とアイレスはゲートの中でふわふわと浮いていた。
「おー、やっぱゲートは良いな、このふわふわ感は他では中々味わえない。」
俺が竜巻旋風キックやスピニングバード脚をしながら言うと。
「まあ、無重力体験は、ある種名物と化していますから」
と苦笑いしながら同意してくれた。
しかし俺は無重力を全力で楽しんでいるのに、彼女はそれを眺めているばかりなので少しちょっかいを出すことにした。
「アイレスも、もっと楽しめよ」
「え? ちょっと待って・・・」
俺は彼女の制止の声も聞かず、手をつかんで上に回したり、横に回したり、無重力でしかできないダンスだ。
「いつもより余計に回しておりまーす」
「おー、これは中々、あれ、上下がわからなく・・・」
アイレスがわたわたとしている。
さて、そろそろ2分経つし、出ようかな。
「あれ?地面側ってこっちであってる?ねえ、あれあなた名前なんて言うんだっけ? っていなくなtt」
ビターン!
さて諸君、慣性の法則(略)
そんなエレベーターが最高速から突然停止したら中の人はどうなるだろうか?
ゲートはブレーキなんてついていないので最高速を維持したまま地面にぶち当たる。
衝撃を抑える仕組みはあるのでゲートは壊れないし、中にも衝撃はいかない。
ただし、慣性は別だ。
先程無重力のせいで上下を見失ったアイレスは哀れ2分の1の確率を外して天井側にいってしまったために、慣性の犠牲になったのだ。
ゲートの扉が開く。
そこには車に潰されたヒキガエルになったアイレスがいた。
「うぅ・・・もうゲートキーパー辞めたい・・・」
地面に叩きつけられたアイレスが涙を堪えながら言う。
思えば可哀想な奴だ、毎回誰かが現世に行く度に地面に叩きつけられる恐怖と戦っているのだ。
しかし彼女より上位の神族にこの役は押し付けられないし、彼女より下位の神族では衝突の衝撃で死んでしまう。
中間管理職は辛いね。
アイレスが扉の向こうの俺を見つける。
「なんであなた、ゲートの外にいるの・・・?」
「いや、場所指定ワープ使えるって言ったじゃん」
今度こそアイレスは泣き崩れた。
よくRPGで、天界に行くために門番を倒さなきゃいけない、みたいな設定があります。
FQ17でもプレイヤーは天界に行くのにアイレスを倒す必要があるが、その理由がアイレスに勝てないと移動時に死ぬという現実的な問題がある、という設定を書いてる最中に思い付いた。




