因果応報を受ける
「さて、もう良いかな」
俺はジュディアが見えなくなったことを確認して指をならす。
「きー、ぎゃー、ぎゃー!」
俺にのし掛かっているゴブリンが騒がしい。
「うっせーよ!」
ブォン!
ベチャッ
上にのし掛かっていたゴブリンを指でつまんで投げ捨てる。
壁に花が咲き、投げられたゴブリンが光になって消える。
余裕の表情をしていたゴブリン達から笑みが消える。
俺は話の通じないであろうゴブリン達に朗々と説明しながら剣を抜く。
「そもそもよぉ、レベルマックスの俺がゴブリンの体当たりで倒れるわきゃ・・・ねーだろ!」
ヒュンッ
力を込めてそのまま一度薙ぐ、風切り音が聞こえる。
ドドドドドドッ
腕の落ちる音がする。
「「「ぎゃー、ぎゃぎゃー」」」
ゴブリン達の悲鳴を合唱する、壁に反響してやかましい。
一拍置いて、薙いだ方角に直線上の光が上がる。
ゴブリン達の命の灯火だ。
一瞬の静寂が訪れる。
カシャン
俺の剣を構え直す音がやけに響く。
そして俺は、ゴブリン達に最期を通告した。
「有象無象の区別なく、俺の剣は逃しはしない。帰り道に邪魔なんでな、露払いだ」
その後、大広間に光が満ちた。
さて、賢明な読者諸君はもうお気づきだろう。
俺はわざとジュディアをゴブリンに浚わせたのだ。
作戦の概要はこうだ。
まずゴブリンの洞窟に入り、俺が強いところを見せ、好感度を上げるとともにジュディアの警戒心を下げる。
そして中間層手前で彼女の持っている転移アイテムを全てスり、そこに置いていく。
ゴブリンの洞窟の中間層にはキルゾーンであるモンスターハウスが必ず設置されており、そこで俺が麻痺にかかった振りをしながらジュディアが逃げるのをジムバインドで足止めし、ゴブリン達にジュディアを連れ去らせる。
そして、洞窟の奥に連れ去られ、大変なことをされそうになっているジュディアを、俺が颯爽と助けに来てハッピーエンドと言うわけだ。
この男、外道も良いところである。
ちゃり、ちゃりん
両手両足に着けられた鎖が鳴る。
「うう、外れん、このままやと・・・」
着けられた鎖を外そうと引っ張るが、そう簡単に鎖は外れてくれない。
横を見る、人骨らしき骨が転がっている。
自分が同じ姿になることを想像する、いやそれだけならまだマシだ。
ゴブリンの特徴と言えば異常な繁殖力である。
ゴブリンに捕まった女の末路と言えば、子供の産み過ぎによる衰弱死である。
首を振り、鎖を引っ張り暴れる、そんな死に方はいやや!
ちゃりんちゃりんと鎖が鳴るが、外れる気配は一向にない。
ドスン、ドスン
何かが近づいてくる音が聞こえる。
今いる空洞の入り口から、巨大なゴブリンが入ってくる。
頭に王冠を被っている、キングゴブリンだ。
キングゴブリンはドスンドスンと足音を鳴らしながらジュディアに近づいてくる。
後ずさろうとする、だが鎖に引っ張られこれ以上逃げられない。
キングゴブリンの持つ杖が、ジュディアの履くショートパンツにあてがわれる。
力任せにショートパンツごと貫くつもりのようだ。
どうにもならない、歯をかみしめ、目をギュッと瞑り、予想される痛みに耐えようとする。
「ボルテッカァァァアアア―――!」
閉じたまぶたの上からでもはっきりとわかる、暖かい明るい光。
ひかりが収まると、キンッと言う金属音が聞こえ、後ずさろうと力を入れていた体が後ろに滑る。
目を開ける、そこにはさっき助けに来ると約束した彼が立っていた。
あっぶねぇ、まさか杖で服ごと貫こうとするとは思わなかった。
俺はジュディアに手を差し出す。
「すまん、遅くなった、立てるか?」
ジュディアは地面に手を突き立とうとする、が、腰が抜けたらしく上手く立てない。
無理もない、危うく子供が作れなくなるところだったのだ。
俺は軽く鼻を鳴らすと、彼女に背中を向ける。
少し待つと彼女も意図を察したのか俺の首に腕を回し、体を預ける。
彼女の胸が当たる、柔らかい。
俺は立ち上がり、彼女を背負いなおすと、出口に向かって歩き始めた。
「助けてくれてありがとう、ウチ、手伝うつもりやったのに、役に立たんかったね」
ジュディアが腕に力を入れ、悲しそうな口調で言う。
俺の背中にジュディアの胸が押し付けられる、柔らかい、これは不味い。
「いや、そんなことはない、道中は大分楽ができたよ。それよりこんなことになってしまってすまないな。」
「ええよ、最後には助けてくれたし。それよりゴブリンのお宝は良いん?」
俺はすっかり偽の目的のことを忘れていた。
だが、背中に当たる柔らかいものの存在を思いだし、告げる。
「・・・お宝はもう背中いっぱいに背負ってるから、今度また取りにこよう」
俺が下ネタ気味なことを言うと、彼女は良く勘違いしてくれたらしく、はにかみながら
「じゃあその時はまた呼んでや、荷物持ちぐらいならできるさかい」
と、次の冒険も手伝ってくれる約束をしてくれた。
洞窟の真ん中あたりで、転移石を回収した俺達は、その転移石を使ってラグナに戻った。
転移石を使うと直前に居た都市の大通りまで転移できる。
ジュディアが俺の背中から降りる、俺はジュディアに礼を言う。
「今日はわざわざありがとうな。こんなことになっちまったけど、また誘ってもいいか?」
ジュディアはニッと歯を出して笑い
「さっきも言ったやんか、荷物持ちでもなんでもするからまた呼んで、て」
と言って、俺の目をじーっと見つめる。
これは、良い雰囲気なんじゃないだろうか、明日あたりデートにでも誘ってみようか。
「なあ、明日って時間空いてるか」
「ん? 明日はなんも予定はいっとらんよ、冒険者やさかい」
ここが勝負どころだ。
俺は意を決して告げる。
「じゃあ明日、俺と「スタァァァァップ!」」
俺とジュディアの体が跳ねる
ガードが俺達のもとにすっ飛んでくる。
そして俺に命令する。
「お前は罪を犯した、服役しろ」
俺は唖然とする、次は何をやらかしたんだ俺は。
国王殺しの件なら、もう服役は終わっているはずだ、まさか工作がばれたか?
いや、まだそうとは限らない、俺は彼に質問する。
「俺が何の罪を犯したというんだ?」
俺が聞くとガードは素直に答えてくれる。
「窃盗だ」
窃盗で思いつくのはジュディアの転移石だ。
だがあれはもう手元に無いから罪としてカウントされないはず。
ジュディアが俺の代わりに反論してくれる。
「彼が人のもんギるわけないやん、ギったっちゅうなら、何をギったか言うてみい!」
俺の心が痛む、あれ、作戦ミスったかな。
衛兵がどこぞの弁護士のように大きく頭を振ってから、ジュディアを見て言う。
「あなたの心です。」
「お、お勤め、ご苦労様でした」
前回と同じように、ガードが歯軋りを立てながら俺を見送る。
だが俺の顔は前回と違い、眉間にシワを寄せていた。
どうやら、この世界では運命の相手、つまりカップリング相手の居る女性キャラを攻略すると罪になるらしい。
なんて理不尽な世界だ、運命、運命か。
俺はバベルの塔のように伸びるゲートを睨みつける。
「運命なんて糞くらえだ」
俺は、運命の3姉妹の一人であるヒキガエルの女を思い出しながらそう呟いた。
この男が一番理不尽であるのは言うまでもない。




