プロローグーバイトしてたら処刑される
昨年発売された”First Quest XVII”(略称FQ17)は長年続いた超人気作"First Questシリーズ"の最新作であり、世界で始めてのVRMMOゲームである。
トリアン・フォクス社(通称△狐)の通算1000作目となる本作品の開発は、ゲーム業界を牽引してきた△狐社の乾坤一擲の大勝負であった。
総制作費2000億、製作期間3年、正に捨て身の大勝負を賭けた△狐社は、全世界でFQ17を同時発売し、発売後の僅か2か月で制作費を回収するほど売り上げを伸ばし、マンネリ化で死に行くゲーム業界を救った。
FQ17の熱狂は留まることを知らず、発売から半年がたっても大半の店で売り切れ、プレミアがつくほどであった。
そのようなVRMMO熱も、発売から1年経ち少しは落ち着いてきた。
FQ17のサーバーには世界中から常時1000万人ものプレイヤーが詰めかけ、VRの世界を楽しんでいる。
そしてここまでの話は本編とはあまり関係がない。
”Call start or continue”
FQ17のタイトル画面が浮かび上がる。
「コンティニュー」
弱く赤い光が目の前を通過していく、虹彩認識だ。
声紋と虹彩認識により自動的にIDを取得し、ログインする。
目の前に閃光が煌めく。
気づけば俺は鈴蘭の咲く草原に立っていた。
「懐かしいな」
特に懐かしくもなんともないが、とあるゲームを思い出し、そう呟く。
そういえば昨日はここで最後の仕事を片付けたんだったな。
ぴー、ぴー
コールがかかる、ログインしてすぐに呼び出しがかかるなんて、人気者は辛いね。
ぴー、ぴー、ぴー、ぴー、ぴー、ぴー
迷惑メールかの如く沢山のコールがかかってくる。
やだ、俺へのコール多過ぎ!
口に手を当ててそんなアホなことを考えていると、ログインしたときと同じように目の前が光る。
処刑人みたいな格好をしたキャラクターが立っている。
彼は俺に一言
「早く仕事しろ」
と告げ、来た時と同じ光を出しながら消えていった。
そう、俺はFQ17の世界に遊びにきている訳じゃない。
何故なら俺はFQ17世界における管理者、いわゆるGMだからである。
ちなみに処刑人みたいな格好してるのは俺も一緒で、通称GMセットと呼ばれている真っ黒な装備を全身に着ている。
「うし、じゃあやりますかぁ」
俺がそう言いながら伸びをして”コールリスト”と脳内で告げると、GMコールをしているプレイヤーのリストが目の前に現れる。
コールリストにはプレイヤー名と呼び出しの用件が書き込まれている。
「んー、MPK、釣り、RMTにセクハラか、まったく、ここらへんはMMOもVRMMOもやっぱ変わらんね。”埋まった、ボスけて”は早めに助けてやらなきゃな、可愛い娘が埋まってるといいなぁ」
そんなことを考えつつリストを眺めていると、一つだけキャラ名も用件も文字化けしている項目を見つけた。
「なんだこれ、これじゃ用件も何もわからんじゃないか。・・・とりあえず見に行ってみよう」
俺は文字化けしている項目を指でポンとタップする。
GMの機能で、コールリストをタップするだけでプレイヤーのいるところに飛ぶことができるのだ。
ぴゅいー、がりがりがりがり
古いパソコンが頑張っている時のような音が耳元で聞こえる。
おかしいな、ワープの時ってこんな音鳴らないはずなのに。
そんなことを考えていると、突然俺の体が光に包まれた。
次の瞬間には俺はGMしか入ることのできない場所、正式名称アルカトラズ、通称お仕置き部屋にいた。
ここに来られるGM以外のプレイヤーは永久垢BAN確定の凶悪違反者だけだ。
「あれぇ?俺ここに飛ばす機能使ってないはずなのに」
GMにはGM専用の機能やスキルがあり、お仕置き部屋に飛ばす機能以外に、他キャラクターを物理法則を無視して強制移動したり、指定プレイヤーを強制ログアウトする機能などが存在する。
「もしかしてさっきの文字化けキャラってここにいるのか?」
俺がぶつぶつと独り言を呟きながら周りを見回す。
が、誰もいない。
ふぅとため息をつき諦めた瞬間、目の前の空間が急に黒く滲み、そこに俺の装備と色違いの赤いGM装備を身に着けたキャラクターが現れた。
赤いGMが告げる
「何故ここに転送されたかお分かりになるでしょうか。」
「え!」
俺は思わず声をあげる、いや転送してきたの自分だし、あんたがここにいるからここに飛んできたんじゃないのか。
俺はそんなことを考えるが、あまりにも突然で呆然としていたため、口には出せなかった。
俺が何も言えずにいると、赤いGMアーマーは近づいてきて俺の耳元で
「私はリードGMです」
と囁いた。
やばい、GMの統括官、つまり上司の上司だ。
ゲーム上では一回も会ったことが無かったから気づかなかった。
「へぇ、あんたもGMなんだ」
俺はテンパって、思わずため口で話してしまう。
「はぁ、シュクザールさんには聞いてましたが、本当に問題児ですね。」
シュクザールさんとは俺の直属の上司、いわゆるシニアGMである。
「はあ、そいつはすいません。」
「謝って済む問題では無いんですよ! GMコールの無視は常習、コールに応じたと思ったら女の子相手じゃないとまともに対応しない。まあ、それなら良い、そこまでならただの怠惰です。」
俺の手抜きはばればれだったようだ、これは首を切られる予感。
そして赤いGMは憎悪の目で俺を見ながらこう告げた。
「こともあろうにGM権限を使った統括サーバーへのハッキングをやらかすとは」
は・・・!?
背筋が粟立つ、やばい、全く見に覚えが無いが統括サーバーへのハッキングがどれだけやばいのかはわかる。
統括サーバーはFQ17の中枢であり、△狐社の企業秘密の塊である。
噂では統括サーバーに手を出そうとした企業スパイが、ログアウト機能を潰したアカウントでFQ17の閉鎖空間に放り込まれ、体感時間を数千倍(VRMMOでは体感時間を変えることだってできるのだ)に引き伸ばされて、1日たたずに廃人(従来の意味で)にされた、と聞くぐらいの厄ネタである。
「ちょ、ま! 他のは身に覚えがあるけど最後のはやってない!」
俺は慌てて否定する、それでも俺はやってない。
「とぼけるな、先程お前のIDから統括サーバーへの不正アクセスが確認された。VRMMOの統括サーバーには世界唯一のVRMMOであるFQ17の技術の粋が納められている。それに対する不正アクセスがどれ程の罪になるか、散々講習を行ったはずだが。」
そう言いながら、不正アクセスのログを俺に見せつけてくる。全然見方がわからんがとりあえず本物らしい。
「くそっ、聞く耳持たずかよ。じゃあ俺がどうなるのかだけでも教えてくれよ」
「お前も統括サーバーに手を出した奴がどうなったかぐらい、噂で聞いたことがあるだろう?」
俺はニュースで見た、廃人にされた犯人の状態を思い出す。
体中からありとあらゆる体液を垂れ流していた状態を
赤いGMがニコリと笑う、俺はあとずさり、後ろを振り向いて逃げ出す。
あんなのになるのは真っ平ごめんだ、俺はまだ
「破ぁー!」
赤いGMが右手を俺の方に向け一言叫ぶと、俺の思考と体は何かに貫かれていた。
意識が遠退いていく・・・
リードGMって凄い、俺はそう思いつつ意識を絶った。