二話
ミナ「今度こそ、落ち着いたか?」
呆れることなく、ずっと隣にいてくれた。
茶化すことも馬鹿にすることもなく。
ミナ「…にしても、日本って思ってたより暑いんだな」
長袖とはいえ、薄い病院着のままで、そんな事を口にしたミナ。
俺を元気付けようとしているのか、それとも本当にそう思っているのか。
人間ではないと考えたときに、どちらなのか判断を鈍らせる。
俺「…もう秋も、終わるけど…」
ミナ「ああ、シキってやつだろ。秋の次は確か…冬だったか?」
俺「そうだけど…」
ミナ「魔界はもっと寒いところでな、冬のホッカイドウとかいう地域と同じくらいらしい」
さっきの、どちらかと言われれば、ミナの本心を言ったのだろうか。
その話をされると、この部屋の室温はミナにとって暑いものになるのだろう。
ミナ「なぁ、町を案内してくれよ。服も買えるだろ?」
俺「確かにそうだが…」
外見は人間だから大丈夫なのだろうが…どうなのだろう。
問題は今は見つからないが、どうしてか外に連れ出すのを躊躇ってしまう。
そもそも、病院着のまま外に出す訳にはいかない。
とりあえず家にある服で大丈夫そうなものを選んで着てもらうことにした。
が、家にある服で、ミナが着られる服といえば、彼女が着ていたものしかない。
それを、外見は生き返った彼女が着るのだから、つまり…。
ミナ「…これを、か…?」
俺「…」
ミナも同じことを考えているのか、着るのを躊躇している。
彼女もそうだったが、ミナも周りに気を配るタイプらしい。
ややぶっきら棒な一面があるが、根は本当に優しい。
重なる部分を見出すたびに、目に涙が溜まってくる。
しかしそれをミナに見られてしまうと、また迷惑をかけてしまうかもしれない。
俺「病院着じゃ…外にはいけないだろ…」
それだけが、必死に絞り出せた言葉だった。
が、それすらも読まれてしまっていたのだろうか。
ミナはそれ以上何も言わずに着替えをしにいった。
ちなみに渡した服は、今の季節にもある程度対応できて、それなりに涼しいもの。
もちろん病院着よりは厚くなってしまうが、仕方がない。
この時期に不自然なく歩くには、それなりの格好をしてもらわなければならない。
少しして出てきたミナは、彼女そのものだった。
元が同じだから当たり前の事なのだが。
懐かしい感覚に包まれ、足で床に立っているという事が分からなくなった。
膝の中ほどから力が抜けていき、立っていることが困難になった。
ミナ「これから行こうって時に、お前は…」
俺「…」
ミナ「そんな水分ばかり出してると死ぬぞ」
俺「ぁ…え…うん…」
ミナ「まったく…変な体選んだもんだな…」
結局それから、家から出ていくまでに五分余分に時間がかかった。
俺達を見る周りの目は、何一つ変わらないものだった。
ただのカップルが手を繋いで歩いているというだけ。
中には妬み嫉妬の視線を感じるが、それも何ら不自然ではない。
俺「…まずは服だな」
ミナ「もっと涼しいやつがいい」
俺「…無茶言わないでくれ」
入った店の店員に適当に服を選んでもらう。
そういえば彼女と来たときも、俺が服を選んだという思い出があまりない。
見ても分からないっていうのもあったが。
変身後の彼女を見て…。
…過去の事ばかり考えてるな、俺は。
服を選んでいるミナの後ろ姿を見つつ、一つ聞こえないほどの小さなため息が出た。
その後、昼ごはんにラーメンというものを食べさせてあげた。
どうやら食べたかったらしい。
日本食といえばラーメンみたいな感じで、嬉しそうに食べていた。
あとは街の中を散歩していた。
これからミナと新しい生活が始まる。
過去の事を忘れるつもりはないが、未来の事も考えていかなければならない。
泣いてばかりいたら、彼女にも怒られるだろう。
俺に出来ることは、せめて、ミナを悲しませない事。
ミナ「あ、おい、あれ! クレープも食べるぞ!」
小さく走っていく、彼女の後ろ姿が見えた。
2話目もシリアスっぽくなった気がする。
そしてまさかのアンバランス(一話:4043文字 二話:1583文字)。
どことなく力尽きた感じが本編からも読み取れるでしょう。
たぶん続かない。