大切な・・なにか
毎週そうである・・・
私が週末のんびりテレビを観ていると・・・
妻は無言で掃除機をかけはじめる・・・
掃除機の騒音がだんだん近づいてきて・・・
テレビの音が聞こえなくなる頃に私はテレビを消し・・・
家を出て自転車にまたがりいつものパチンコ屋へ行く・・・
このパチンコ屋は泣きたくなるくらいに出ない・・・
でも適度な暇つぶしになるので毎週来ている・・・
馴染みの知り合いともよくここで会う・・・
いつも通りに負けてお金が無くなると店を出る・・・
煙草を買う小銭だけは残してあるので帰りに煙草を買う・・・
帰り道にある公園のグランドで少年野球をぼんやり眺める・・・
この公園は犬の散歩をしている人が多い・・・
私の中で毎週行なわれている選手権がある・・・
その名も『飼い主と飼い犬のそっくり選手権』・・・
ほんとに皆さんよく似てるものである・・・
あまり似てない新参者もたまに登場してくるが・・・
初心者丸出しで犬の散歩がまるで板についていない・・・
そういえば今日はまだグランドチャンピオンが登場していない・・・
早くきて欲しい・・・
私はグランドチャンピオンのフアンである・・・
飼い主も飼い犬も似すぎていて判別が難しい・・・
今の表現は決して大げさではない・・・
人間と犬という生態系の違いを完全に無視したコンビである・・・
噂をしていたらやってきた・・・
公園の東口から西口に抜けるいつもの散歩コースを悠々と・・・
いつかレッドカーペットを敷いてあげたいと思っている・・・
今週もグランドチャンピオンの雄姿を無事に拝めたので・・・
そろそろ帰宅するとしよう・・・
夕日も沈まぬこの時間・・・
子供達が帰るまでにはまだまだ時間がある・・・
長女は今年の春から大学へ進んだ・・・
長男は高校2年生で中途半端な年頃・・・
我が家は一姫二太郎と典型的な平凡な家庭といったところだ・・・
子供達が帰宅するまでは家の中で妻と二人きり・・・
会話はほとんど無い・・・
お互い無視してるわけでも嫌っているわけでもないが・・・
お互い会話の糸口が見つけられない・・・
お互いこれといった趣味も無い・・・
子供達が居ればそれなりに家族の会話もあるが・・・
夫婦の会話らしきものは最近いつしたかすら記憶が無い・・・
晩御飯を食べたあと近所の日帰り温泉へ行き汗を流す・・・
帰宅後ビールを飲みプロ野球ニュースを観ながらうたた寝・・・
ふと目を覚ますと家族は既に皆寝ている・・・
トイレに行き用を足し歯を磨いて床に付く・・・
毎週寝る前に私はいつも思うことがある・・・
ああ 今日も一日つまらなかったと・・・
こう見えても私達夫婦は恋愛結婚でして・・・
しかも共通の趣味の場で出会ったんです・・・
元々私達の共通の趣味はテニス・・・
同じテニスクラブでミックスダブルスを組んだのがキッカケで・・・
でもお互いもう15年以上テニスはしていない・・・
私達が最後にダブルスを組んだ記念のラケット・・・
どこにしまったのかわからない・・・
重ねるとガットの模様がハートになるように細工してあったやつ・・・
あの頃はお互い夢中でテニスの話題で盛り上がったものだ・・・
そんなことより明日からまた仕事だ早く寝よう・・・
今週もそうである・・・
私がのんびりテレビを観ていると・・・
妻は無言で掃除機をかけはじめる・・・
掃除機の騒音がだんだん近づいてきて・・・
テレビの音が聞こえなくなる頃に私はテレビを消し・・・
家を出て自転車にまたがりいつものパチンコ屋へ行く・・・
このパチンコ屋は泣きたくなるくらいに出ない・・・
でも適度な暇つぶしになるので今週も来ている・・・
馴染みの知り合いともまたここで会う・・・
いつも通りに負けてお金が無くなると店を出る・・・
煙草を買う小銭だけは残してあるので帰りに煙草を買う・・・
いつも通り帰り道に公園へ行こうとしたが・・・
先日妻に渡された商店街の福引券の最終日だと気づく・・・
商店街へ行き福引をするために列に並んでいると・・・
遠くにグランドチャンピオンを発見して嬉しくなる・・・
その後の福引で何故か一泊温泉旅行のペアチケットが当たった・・・
1等賞・・・
福引の最終日に1等賞・・・
まぁいいか当たったのは私だし・・・
もちろん妻と二人で温泉旅行へ・・・
私の母に子供達をお願いして私達は温泉旅行へ出掛けた・・・
夫婦で旅行なんて新婚旅行以来でお互い少し緊張気味・・・
宿は古いが風情がありまあまあだし食事も美味しい・・・
なにより温泉が最高だ・・・
いつも行っている近所の日帰り温泉とは比べ物にならない・・・
温泉から上がり煙草の販売機を探し浴衣で宿をうろうろしていると・・・
古びた卓球台を見つけた・・・
そこに風呂上りだろうか頭にタオルを巻いた浴衣姿の女性・・・
よく見ると私の妻だった・・・
私
「そんなとこでなにやってるんだ?」
妻
『えっ?』
妻は一瞬驚いたようだが私だとわかり肩をなで下ろした・・・
妻
『ねぇ 卓球・・・出来る?』
私
「は? あんまりやったことないけどテニスと変んないだろ?」
妻
『じゃあ やってみる?』
妻の自信ありげの表情を見て思い出したことがある・・・
妻はテニスを始める前 学生時代は卓球部だったはずだ・・・
私
「勝負するか?」
男心に火が着く・・・
15年以上ぶりにネットを挟んでの妻との対決・・・
テニスでは私に分があった・・・
卓球ぐらいと思っていたのに・・・
まったく妻に歯が立たない・・・
もう1回・・・ もう1回・・・ もう1回・・・
せっかくの風呂上りなのに二人とも汗だく・・・
結局妻には1勝も出来ず悔しい思いのままもう一度温泉へ・・・
その後部屋へ戻り私は妻にお願いをした・・・
卓球のコツを教えて欲しいことと・・・
明日の朝もう一度勝負して欲しいことを・・・
妻は笑いながら快く承諾してくれた・・・
その日は寝るまで妻と卓球の話で大いに盛り上がった・・・
翌朝妻と昨日の卓球台へ向うと既に先客がいた・・・
先客の方々もどうやら夫婦のようだ・・・
しかも二人とも結構上手・・・
私は先客の夫婦に声をかけた・・・
「ダブルスの試合でもしませんか?」
先客夫婦は一瞬驚いた顔をしていたが快く承諾してくれた・・・
15年以上ぶりに名コンビの復活である・・・
緊張感のあるいい試合をしました・・・
朝からとてもいい汗をかきました・・・
温泉卓球の域を超えているほどの・・・
度重なるデュースの末に私達夫婦が勝利した・・・
丁寧に先客ご夫婦に挨拶とお礼を言い部屋へ戻り・・・
部屋のドアを閉めた瞬間・・・
妻と私は抱き合って飛び跳ねてくるくる回って喜び合いました・・・
帰りの電車の中でも卓球の話で持ちっきり・・・
妻の汗 妻の笑顔 妻の真剣な眼差し 妻の喜び・・・
久しぶりに見た気がした・・・
出掛ける前のあのぎこちなさはお互いすっかり消えていた・・・
私
「なぁ 俺達の記念のラケットってどこにあるか知ってる?」
妻
『えぇ 知ってるけど・・・ 急にどうしたの?』
私
「まだ ラケットを重ねるとハートの模様になるかな・・・」
妻
『どうかしら・・・ 帰ったら出して確認してみる?』
私
「もし まだハートの模様が残っていたら・・・」
妻
『もし ハート模様が残っていたら?』
私
「また一緒にテニスをやらないか?」
妻
『う~ん・・・ もしもハートが残っていたらね』
私
「ハートが残っていますように・・・」
妻
『ハートが残っていますように・・・』
私
「ん? なんて?」
妻
『な~んでもないっ!』
毎週そうである・・・
私が週末の朝のんびりテレビを観ていると・・・
妻は無言で掃除機をかけはじめる・・・
掃除機の騒音がだんだん近づいてきて・・・
テレビの音が聞こえなくなる頃に私はテレビを消し・・・
トレーニングウエアに着替え出す・・・
妻が掃除機をかけてる間に私がラケットとボールの用意をする・・・
掃除機が終わり妻がトレーニングウエアに着替え終わると・・・
二人で公園のグランドへ行きテニスの練習をする・・・
最近よく妻と会話をするようになった・・・
パチンコ屋へはしばらく行ってない・・・
煙草もやめてみた・・・
飼い主と飼い犬のそっくり選手権は・・・
今は妻と一緒に継続中・・・
グランドチャンピオンも継続中・・・
毎週寝る前に私はいつも思うことがある・・・
ああ 今日も一日楽しかったと・・・
忘れていたのか・・・
忘れかけていたのか・・・
時が経つにつれて薄れていく何か・・・
それが何かは はっきりとわからないけれど・・・
何か大切なもののような気はしてる・・・
何か大切なもののような気はしてる・・・