1-3 放課後
放課後。
皆下校し、静まりかえった教室で。
窓際の1番後ろの席。
頬杖をつき、虚ろな瞳で外を眺め、はぁ。と溜め息をついている夏維の姿があった。
……なってしまったものはしょーがねぇけど、吸血鬼…ねぇ。
大道具係の奴らが棺桶作るとかはりきってたけど、マジで作んのか?
その場合は確実に入らないといけないんだろうか………。
「あーっっ!ナチ見ーっけ。何してんの?一緒に帰ろっ。」
ふと、夏維は声の方を振り返る。
「…優姫、大声で“ナチ”って言うのやめろって。」
呆れ顔で言いながら夏維は荷物んまとめ始める。
優姫(本名:春崎 優姫と呼ばれた彼女は、とても親しそうに近寄りながら、何で?と聞こうとした。
だが、すぐにその言葉はのみ込まれる。
そしてさっきとは口調を変えて言う。
「……ナチ、吸血鬼やるの?」
何で知っているのだろう?という夏維の疑問はすぐに解けた。
黒板には大きく、しかも目立つ黄色いチョークで、“メインの吸血鬼☆夏維様々頑張って!”と書かれてあったから。
ノリのいいクラスの男子たちが遊びで書いたもの。
「できればやりたくない。」
まとめ終えたバックを、1度トン。と机の上でならしてボヤく。
「……やっぱり、まだダメなの?」
「…そんな簡単に忘れられるんなら、こんなに悩む必要はない。……それに、わざわざあの道を避けることもしない…。」
はぁ。と溜め息をついて夏維は1人言のように呟いた。
その目はどこか遠くを見つめる。
「………だよね。…大丈夫……なの?」
尋ねる優姫に目をやると優しく微笑む。
女の子なら誰でも顔を赤らめるだろう微笑み。
そしてスクールバックを肩にかけ、ポン。と優姫の頭に優しく手をおいた。
「んな心配すんなって。大丈夫だから。」
ほら帰るんだろ。と言って教室を出ていく夏維を、優姫の、でも…。という言葉が引き止める。