1-2 〜水仙〜
「本人がイヤってんなら、別に狭霧じゃなくてもいいんじゃん?」
クラスの流れが99%、メイン=夏維という向きになったなか、1人の男子生徒が言った。
一斉に皆その方を向く。
黒崎 剛。
かっこいい、悪いというものはともかく、“ナルシスト”な男子生徒。
本当はずっと自分がメインをやりたかったんだろう。
それでも黙っていたのは、眠りこけてて話を全く聞いてなかったから。
「でも……夏維君以外にこの役似合う人っている……?」
小さく、何人かの女子生徒がボヤく。
「なんだよ。俺がいるじゃんか。俺の方が夏維よりも似合うと思うぜ?」
素晴らしいナルシストぶりを発揮する剛君。
クラス中がザワつく。
わずかに重たい空気が流れる。
どこまでナルシストなの?黒崎君よりやっぱ夏維君でしょ。
女子たちのヒソヒソ話が聞こえる。
黒崎がやるくらいなら俺だって…。とひがむ男子。
「えっ!?…な……なんだよ?その反応…!!」
1人あたふたする剛。
…べつに俺じゃなかったら誰でもいいや。
呑気にそう思う夏維。
だが間もなく、この重い空気が一瞬にして変わる。
「だめだよぉ〜?黒崎君はぁ、宣伝係の方にぃ、まわってぇもらわなくちゃぁいけないからぁ。」
それはもちろんこのお方。麻央ちゃん。
この人の突拍子もない言葉しかないでしょう。
クラス一同唖然。気にせずに麻央ちゃんは仰る仰る。ゆうゆうと。
「黒崎君はぁ、宣伝のぉ天才だってぇ聞いたのぉ。だからぁ、メインはぁダメよぉ?」
ね☆というように彼女は剛の方を向いた。
あたりき、剛は赤面。
教室はあっという間に麻央ちゃんワールド。
さっすが俺の彼女。と、麻央ズ彼氏の慧は1人感心中。
そのうち、他の生徒たちも麻央の言葉に頷き始める。
「そういえば私も聞いたことある。」
「俺も。噂で…。」
「去年同じクラスだったけど…確かにたくさんの人を集めてくれたっけ。」
「んじゃさ、いいじゃん。メインは夏維で、宣伝の代表が黒崎。」
「そーだな。それがいい。」
ワイワイワイワイ……♪
本人を完全無視して話を進めるクラスメートたち。
そんな彼らに対し、夏維たちはすでに発言権を失っていた。
というより………
夏維は仕方ない。と諦め、剛は珍しく誉められたからかやる気満々で、かなりノリ気のご様子。
メインが決まればあとは早い。
10分も経たないうちに、他の役割は全て決まった。