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テリトリープリンセス  作者: リープ
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第5話 「痴女ってレベルじゃねえぞ!」

 すっかり朝が寒くなって起きるのが辛くなるこの季節。

 向坂高校へ向かう生徒は皆、上り坂に辛そうな顔をして登校する。その中で頬を赤らめて走る女の子が一人。もちろん仁村藍子だった。

 しかし今回は伴走者がいた。

「タ、タマちゃ~ん、本当にこれで行くの?」

「あぁ、ある意味最強だ。私を信じろ」

 藍子の少し前を環が走っていた。

 環の提案でコスプレを初めて十日ほどで三回目になる。今回の服装は膝下まであるベンチコートだ。ベンチコートから伸びる足は素足が覗いていた。


「さすがに寒いよぉ」

「我慢しろ。立浪裕人のためだろ」

「そうだけど……タマちゃん」

「なんだ?」

「前から激写するのを止めてね」

 恥ずかしそうに走る藍子の周りを環はスマートフォンを向けて写真を撮り続けていた。「乙女の激闘の記録を撮る者がいないとな」

「全然人の話し聞いてくれないよぉ」

「とかいっている間に見えてきたぞ、お目当ての人物が」

 藍子の走る先には徐々に裕人の姿が見えてきた。友人の彦野悟と歩いているようだ。後ろから近づく藍子に気づいたのは悟で、彼に教えられた裕人が立ち止まり後ろを振り向く。

 すると藍子は七メートル付近で立ち止まり、向かい合う形になった。


「裕人君! 今日は見て欲しいものがあります!」

「え? うん」

 さすがに三回目となると周りの人間も勝手知ったるなんとやらで、立ち止まり見物を始める生徒もいた。

「うううぅぅぅ、恥ずかしいいよぉ」

 少しずつ回りの注目も集めていることに気づいた藍子は怖気づいて環へと駆け寄る。

「しっかりしろ、藍子。お前の裕人への気持はこんなものだったのか!」

「いいえっ! 違います!」

「ふっ。だったら見せつけてやれ。お前の特訓の成果」

「はいっ!」

 元気のいい返事をすると藍子はベンチコートのファスナーを下げ始めた。少しずつコートの中がハッキリと見え出すと、裕人と悟は大きく目を開いた。

 ちなみ藍子と環は特に特訓はしていない。


 ファスナーが開くとピッタリと体型に張り付いた紺色の着衣が見え始める。胸には白い布があてられて二年三組仁村藍子と書かれてあった

 誰がどう見てもスクール水着であった。思わず環の感嘆が漏れる。

「うはwwwwっ! 良くやった、藍子!」

「もう、やだあぁぁぁぁっっ!!」

 ベンチコートから覗いたスク水に裕人の隣にいた悟が拳を震わせて叫んだ。

「ス、スク水だと! しかも旧スク水だ! 排水用の隙間があるのがポイントだ!」

「悟、詳しいな……」

 呆れる裕人にまったく怯まない悟。彼はある意味本物だった。

「もう、やだあぁ、恥ずかしいよぉ……」

 一方、藍子はすぐにベンチコートを閉じてその場にしゃがみ込んだ。

「ふ、ふえぇぇぇん……」

 今にも逃げ出しそうな藍子に環はそっと耳元で囁く。


「藍子、裕人を見るんだ。こっちをガン見だぞ」

「ほ、ほんと?」

 しゃがんだままの藍子の視線が前方に立ち尽くす裕人の視線にぶつかる。潤んだ瞳のまま少し歪んだ視界に恋しい人の姿をみとめた藍子が泣くのを我慢して鼻をすする。

「さぁ、立浪裕人にお前を見せつけてやれ」

「……うん」

 藍子は恥ずかしさで震える足でなんとか踏ん張りながら立ち上がった。両手でしっかりとふさいでいたベンチコートの裾を少しずつ開いていく。

「裕人君。見て……」

「に、仁村さん?」

 コートの中から紺色のスク水が姿をみせる。顔を背けながらコートを開けているため胸を張りながら姿勢に手の平サイズだった藍子の胸が強調される。


「――えいっ!」

 頬を上気させた藍子が思い切ってコートを開く。走ってきたせいもあって、少し水気を吸ったスク水が立体感を帯びていた。胸の谷間やおへそ、脇の下の湿り具合を目の当たりにした裕人の心臓は張り裂けそうになった。裕人の隣にいた彦野悟が思わず叫んでしまう。

「あ、藍子ちゃん! 痴女ってレベルじゃねえぞ!」

「ど、どう? 裕人君」

「にににに、仁村さん」

 見つめあったまま動かない藍子と裕人にじれったさを感じた環がベンチコートの襟を後ろから掴む。


「ええいじれったい!」

 コートの襟を掴んだまま下へ一気にずりおろすと、冬の外気に素肌のスク水姿が晒された。透き通るような白い肌の二の腕が紺のスク水に映えた。

「きゃああああぁぁぁぁっ!」

 涙目になりながら藍子は腰砕けにしゃがみ込む。着崩れたベンチコートが彼女の体を取り巻く。衣服からはみ出る桃色がかった太ももは筋肉が動きまでも艶かしく見えた。また白みを帯びた細い腕が自分を抱くようにコートから見え隠れする。素肌と湿り気を帯びたスク水も扇情的であった。

 藍子は瞳に涙を溜めながら上目遣いで裕人を見つめる。やがて口許を震わせながら訴えた。

「裕人くぅん。見ないで……ください」

「仁村さ――っ」

 藍子の名前を呼び終わる前に裕人は後ろによろけながら、手で鼻を押さえた。すかさず、彦野悟が裕人を支え、表情を窺う。

「裕人がベタに鼻血ブーだ! ブーだぞ!」

 悟は両手を挙げて交差に振り、裕人のギブアップを宣言する。すると周りの男子生徒から「ブーだってよ」「ブーかぁ!」と話し声が聞こえた。


 さらに悟の宣言と同時に藍子は弾き飛ばされ、さらに後方へと押し出された。

「痛たたた……これって成功なの?」

 すりむいた膝をさする藍子に環が興奮気味に駆け寄る。

「ああ! 成功だとも! この写真で何人がネット上で釣れるやら」

「タマちゃん、なんの成功の話?」

「さ、さぁな……」

 環はワザとらしく口笛を吹いて誤魔化した。

「ま、まあ。藍子には後で褒美をあげよう」

「え? 褒美? なんだか知らないけどやった~!」

 相変らず簡単に誤魔化されるなぁと、ある意味感心する環であった。

 藍子と環のやりとりを眺めていた彦野悟は「果たして学生が着るスク水はコスプレなのか? それにしても次のコスプレ、期待、超期待」と心躍るのであった。

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