第17話 「どうせ・やっぱりな・こんなもんだ」
一方、騒ぎの元凶である立浪家は静まり返っていた。
「どうせ本気じゃないんでしょ?」裕人が心でいつも思うこと。
外の状況など知らずに裕人は自室でしゃがみ込んでいた。すでに時間は十二時を過ぎている。学校はズル休みだ。姉や入江アンは部屋にもたずねてこない。
「こんなものでしょ?」裕人はため息をついた。
『私、貴方の障害なんて気にしない』そう言いながらも去っていく女の子を裕人は何度も見てきた。自分を本気で好きなってくれる人なんて誰もいないんだ。いつしか歪んだ考えが支配していった。
その結果できたのは表面上では優しく微笑みながらも、決して相手を信じない諦め人間。「どうせ」と否定し続け、相手が諦めた途端「やっぱりな」と自分の考えに安心して、「こんなものだ」と自分自身も諦めてしまう。
だけど心の隅では「もしかしたら今回こそは……」と期待して傷つく自分がいた。
藍子が告白した時も同じだった。だから「どうせこの子も同じだろ?」と苦笑いがこみ上げてきた。次は一週間持つかな。悟に『付き合う期間を賭けるか?』と聞いたら殴られるかな? なんて思いもこみ上げた。
大抵最初は誰でも張り切る。しかし、裕人に近づけないとわかれば、次第に理由をつけて会わなくなる。そして自然消滅、もしくは別れを切り出される。『やっぱり私には荷が重いわ』とか言う。「ふざけるな」と言いたかった。期待させて自分勝手に裏切って、お前はそれで気が晴れるかもしれないが、僕はどうなる? この体質を抱えたまま過ごすんだぞ。もう嫌だ。他人の偽善に期待して捨てられるのは。
だから、今度からは僕が最初から捨てるんだ。表面上でしか相手も見ないんだ。おあいこじゃないか。だからなんでも彼女の意見には賛成することにした。心で馬鹿にしながら……
しかし、今回は様子が違った。藍子は決して諦めなかった。「戦う」とまで言ってくれた。友達と協力して毎朝コスプレで裕人を迎えてくれた。顔を真っ赤にさせて自分の前にあらわれてくれるのだ。きっと恥ずかしいだろう。他の男子に見られてるし、目立った行動をすれば女子の視線だって無視できない。だけど藍子はいつも笑ってくれた。表層的な付き合いで終わらせるつもりだった裕人は少しずつ心惹かれていく自分を感じていた。
さらに宇宙人の入江アンが出現したことでより、チャンスがめぐってきた。この体質の原因は入江アンが行ったものだとわかったからだ。裕人はなるべく入江アンと一緒にいることに決めた。一時的に藍子とは離れることになるが、わかってくれるだろうと考えた。
だが、井端環が裕人の前にあらわれたことで、藍子が傷ついていることを知った。自分が正しいと思っていたことが、何も彼女に伝わらずにいたのだ。考えてみれば当たり前で大丈夫だと自分で勝手に思っていただけなのだ。今すぐ自分の気持を伝えようと思った矢先、藍子と喧嘩してしまった。
「やっぱりな」
心の隅に隠れていた自分が這い出るようにこちらへ迫ってきた。
「こんなもんだよ。お前の苦労なんて何もわかってないのさ」
確かにその通りだ。裕人は再び過去の自分と手を繋いだ。
「お前らなんか……消えてしまえ!」
心の中に溜めたしこりが一気に吹き飛ぶ感覚に裕人は笑いがこみ上げてきた。
やっぱり信じなくて良かった! どうせ僕を助けてくれる人間なんていないんだ!
だったらもういらねえよ、お前らなんか。