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テリトリープリンセス  作者: リープ
13/20

第13話 「素直にオレンジ」

「お前、このまま終るつもりじゃないだろうな」

「えっ……」 

 裕人は答えることが出来ない。環は瞳に力を入れ裕人を睨む。代わりにアンが裕人への密着度を増しながら環へ話しかけてた。

「ねぇ、裕人。誰? この人?」

「宇宙人はだまってろ!」

 環が一喝すると、少しムッとした表情を向けるアン。宇宙人に構わず環は裕人へ話を続けた。

「私は藍子をからかうのが大好きだ。アイツはイヂメがいがある」

 裕人は黙って話を聞いている。

「でもな、私はアイツが悲しんでる姿を見るのが大嫌いなんだっ!!」


 環は自分が支離滅裂なことを言っているのはわかっていた。わかった上でぶつけなければいけないと思ったのだ。珍しく我慢している藍子の代わりに。

「立浪裕人、藍子を悲しませるような事があれば……お前の家の住所と写真をネット上に晒してやるからな!」

 首にぶら下げたデジカメを前に突き出し、裕人に迫る。子供じみた脅迫だ。環も自嘲してしまうほどに幼稚だった。だが、裕人は真剣な表情で環を見つめた。

「藍子は大して辛くない時はすぐ泣きついてくるくせに、本当に辛いときは黙ってなにも言わん……アイツはそういうヤツなんだ」

 環に頬に一筋の涙が零れた。数秒後、落涙に気づいた環は手の甲で瞳をぬぐう。こんな奴に本音を話すなんて、涙を見せるなんて……悔しい。

 でも、全て出し切らなければ、藍子の友人と言えるのか? 環は自分のこだわりを捨てた。


「だからアイツのことを頼む。多分お前しか……藍子が気持ちを救う人間はいないんだ」

 言い終わると環は裕人に頭を下げた。裕人は慌てて環の頭を上げさせると、黙っていた口を開く。

「わかったよ。環さんの気持」

「私の気持をわかってもらっても仕方ない。救うべき人間を救ってくれ」

「うん。できることはしてみようと思う。ありがとう」

「ふん、私は藍子が大切なだけだ。お前なんか死んじまえ。ちょっと待ってろ、今連れてくるから」

 環は再び学校へ向けて走り出した。



 そして数分後。教室戻った環は何事もなかったかのように席に座った。

「タマちゃん遅かったね」

「あぁ、全部出すのに苦労したんだ」

 すると藍子は顔を真っ赤にさせてうつむいた。

「えっと……あの、お通じに良い薬あるよ」

「お前、なにか勘違いをしていないか?」

 そうだ。自分にはもう一つ仕事があるんだと環は大きく息を吸い込む。さらに藍子をにらみ付けた。藍子は不思議そうに目を丸くして環を見つめた。


「どうしたの? タマちゃん」

「私はな一緒にネットをするという願いがかなって嬉しい。お前、ちっともネットしないだろ」

「そうだね。じゃあ、願いが叶ったんだね」

「ああ、叶った」

「おめでとう」

「ありがとう……でもな」

「ん?」

 言わなくてはいけない。でも、このままで良いんじゃないかという気持もある。環の中では葛藤が起こっていた。

「嬉しいんだけどな」

「うん」

「『ぎゃははは!』と高笑いしたいんだけどな」

「うん」

「だけど……無性にムカつくんだよ!」


 男なんかに構わず、友達としての時間を一緒に過ごして欲しい。だけど、同時に幸せになって欲しい。くそっ、なんで両立できないんだよ。環は思いの全てをぶつけることにした。

「その気もないのに私の趣味へ入ってこないでくれ!」

「タマちゃん……」

 藍子の瞳が大きく開く。口許も震えている。別に悲しませたいわけじゃないんだ。だけど、進もうとしないお前が歯がゆいだけで……いや、何もできないと決め込んでいた自分が腹立つんだな。環は自分らしくない行動に苦笑する。

「立浪裕人のことで悩んでいるくせに。どうして何も言わない!」

「言ってることが矛盾してるよ。一週間前は『言わなくていい』って……」

「うるさい! 人間とは矛盾の中で生きるものなんだ! 人の気持を画一的に判断するんじゃねえ!」

 無理を通せば道理が引っ込む! 心の中で叫びながら環は言葉を続けた。


「どうした? お前らしくないじゃないか! いつもなら立浪裕人と入江アンの間に割って入るんじゃないのか?」

「でも……」

「気づかないのか? 入江アンがどうして易々と近づけるのか?」

「え?」

「立浪裕人が入江アンを意識していないからじゃないのか?」

「――っ!?」

「立浪裕人は受身でクソみたいな男だ。だが、今回はアイツの体質のお陰でハッキリとしているじゃないか。きっとお前のことが……くそっ、言わせるな、恥ずかしい!」

「……タマちゃん。ありがと」

 憑き物が落ちたようにすっきりとした表情の藍子をみて、環は嬉しい反面悔しくもあった。

「ちょっと用事を思い出したから。私、先に帰るね」

「ああ、行ってこい。まだ川沿いを歩いているはずだ」

「ありがとう、」

 藍子が走り去った後、環は呟く。

「ったく。藍子を独り占めするチャンスをみすみす取り逃がすなんて馬鹿だな私は」



 藍子は急いで川沿いへ向かう。辺りはすでにオレンジ色に染まっている。

 周りはほとんど人影は無く、静かだった。もしかしたらもう帰ったかもしれない。藍子が不安に思いながらも、辺りを見渡した。

 すると前方に二つの影。シルエットからして裕人と入江アンに間違いなかった。藍子は駆けつけようと勢いをつけた瞬間。見えた光景に息が詰まる。

 重なる二つのシルエット。それは、二人がキスした瞬間だった。



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