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テリトリープリンセス  作者: リープ
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第12話 「私は聞かないぞ」

 祐介と宇宙人の抱擁現場を目撃した後、裕人の家で藍子と環も一緒に宇宙人の話を聞く事になった。(藍子だけは別室でテレビ電話参加)

 宇宙人は祐介の幼馴染だと言った。入江アンと名乗り、幼い裕人に近づいた。

 理由はUFOのコンピューターが検索した結果、裕人が最高の子孫を残す事が出来る相手であるという結果が出たため。彼女は自分の住んでいた星はすでに無く、生き残りも彼女一人という状況で、自分の種族を残すためには最高の繁殖相手を探さなければいけなかったのだ。


 しかし、当時の裕人はまだ子供。というわけで彼が繁殖可能な年齢になるまで待つ事に。宇宙規約(未開発な星にはむやみに近づかない等々、よく分からないので割愛)で長い間地球に居られない彼女は余計な虫が付かないように心に反応してテリトリーを形成する薬を彼に飲ませたのだ。

 そして今回、かつて無いほどのテリトリーの変化を発見した彼女は心配になって地球に戻ってきた。というのが、大まかな話だった。



「宇宙人が幼馴染なんて……羨ましい。早速、デジカメでとってネットにばら撒いてやる! って外見上は地球人と変わんねーからネタにもならん」

「……彼女の言う事は本当なのかなぁ」

 相変らず冴えない表情の藍子を環はじっと見る。

「藍子はは信じるのか?」

「あのUFO見たら信じるしかないような……」

 環は藍子の瞳の中に光彩を感じなかった。抜け殻のような気の抜けた表情に環は奥歯をかみ締めた。

「という事は藍子は諦めるんだな」

「……分からない」

「ふーん。分からないんだったらアイツの事、諦めれば」

 いつもなら藍子は「そんなことしない!」と環に食ってかかるはずが「分からない」と言ったきり黙りこんでしまった。


 入江アンは一緒に学校へ入ると、裕人と同じクラスに転入した。休み時間も腕を組んで裕人から離れようとしないアン。裕人の友人である悟でさえも近寄れない。一方的にアンが話しかけているようだが、周りから見ると仲むつまじい様子に見えた。

 一方藍子は十メートルの壁が厚くて近づくことが出来ない。というのは建前で昨日の抱き合う二人が目に焼きついて離れないというのが本音だった。



 何をするでもなく学校が終り、放課後になる。本来なら待ちに待った「プリンセスタイム」の時間。だが藍子は教室を出ることなく、環も席へと向かった。

「タ~マちゃん」

「なんだ?」

 藍子は環のノートパソコンを覗き込んだ。

「わ~、何これ? 可愛い画像だね、保存しないの?」

「いやこの絵は制服着たネコ耳女の子だろ? 今、ネコ耳フォルダに保存するか制服フォルダに保存するか迷っているところだ」

「へぇ~、今度さぁパゾコンの使い方教えてよ、私全然知らないからさぁ」

「なにっ! 教えて欲しいだと? お前が? 興味なかったパソコンを?」

「駄目なの?」


 環はようやくノートパソコンから藍子の顔へと視線を移した。横顔をしばらく見つめると、藍子も環を視線を合わせた。しかし、すぐに藍子が視線を外し、口許がだらしなく開く。まるで自嘲気味に笑っているように見えた。環は口を一文字に結んだ。

「私は聞かないぞ」

「え? 何が?」

「言いたくないならそれでいい。私は一方的になんでも詮索して友達面する奴が大嫌いなんだ。だから私からはなにもしない」

「……わかってるよ」

 藍子は黙って頷くと隣のイスを引き寄せて座る。傍目からもわかるような無理やりな笑顔を環に向けた。

「はぁ。藍子。とりあえず、パソコンをいじってみるか?」

「うん」

 しばらくは、面白いウェブページなどを教えていたのだが、環の中で段々重苦しい気持が鬱積していった。

 こいつ、立浪裕人と帰る時間をずらすために私と遊んでやがる。

 環は机の下に隠した拳が震えていた。



 こんなことが一週間続いた。

 今日も夕暮れの教室に環と藍子の二人が残ってネットにいそしんでいる。

「こんな書き込みで釣れるのかな?」

「大丈夫だ。この掲示板の奴らはネタをネタとして楽しむ器を持っている」

「うーん。あっ、レスがついた。うわあっ、一気に二十件も返事が! あはははっ!」

「だから言ったろ。藍子は意外に釣り師に向いてるかもな」

「えへへ、照れるなぁ……」

「素朴なところが馬鹿な愚民どもを騙すんだろうな」

「もう! タマちゃんひどいよ~」

「叩くな、痛い痛い!」

 環は密かな願望があった。それは『藍子と一緒にパソコンを囲んでネット掲示板の愚民どもを煽る』というものだった。藍子に対する唯一の不満としてパソコンに興味がないというところだったので、ネットジャンキーの環としては自然とも言える。


 だから今の状況は夢の達成、嬉しい時間のはずだった。しかし、環の表情は段々険しくなっていく。藍子がネットの楽しさを知って笑うたびにストレスが溜まっていった。そしてとうとう藍子の何気ない一言に爆発してしまった。

「次はどんなことして遊ぼうか? 裕人君」

「――っ! 私は……環だ」

「あっ……ごめんなさい」

 肩を落として落ち込む藍子を見て環は口許が震えた。

 さっきまであんなに笑っていたのになんでそんな顔するんだ。なぜ? なぜ!

 環は気づけば立ち上がっていた。

「タマちゃん?」

「……すまん。ちょっとトイレに行って来る」

 いつの間にか環は走り出していた。理由は彼女自身もよく分からなかったが、目的はハッキリしていた。



 オレンジに染まる川沿いを裕人と入江アンが歩いていた。アンは立浪家に居候になり、変える方向が同じなのだ。

「アンちゃん。申し訳ないけど、もう少し離れてくれるかな」

「だ~め。もっと貴方を観測させて」

「観測って」

 するとアンは裕人に腕を絡ませて、胸を彼の肘に当てるように寄り添った。

「すみずみまで見てアゲル。今日は一緒に入浴して下半身を調べさせてね」

「だだだ、駄目だよ!」

 腕を動かし、なんとかアンの腕から逃れようとするが、その度に「いやっ」と胸に押し付けるので脱出することもできない。

 だめだ。これじゃあ仁村さんに申し訳が立たないよ。と思うが、心の片隅でこれで良いんじゃないかとも思う。


 そんな時――

「おい、立浪裕人!」

「はい?」

 裕人が振り向くとそこには井端環が立っていた。一文字に口は結ばれているものの端がわずかに震えている。背の小ささで上目遣いになるのは仕方ないが、瞳もわずかに潤んでいるように思えた。いつもの余裕たっぷりの様子ではなく、どこか追い詰められたような悲壮感が漂っている。



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