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『恋愛・結婚』

終身雇用

作者: ミオ
掲載日:2026/07/02

「結婚したら、一生安泰でしょ」


ユリは友人たちに、何度もそう言っていた。


仕事はほどほどでいい。

資格もいらない。

貯金も最低限。


「だって、夫がいるから」


恋愛は就職活動。

結婚は内定。

婚姻届は終身雇用契約。


それがユリの人生設計だった。


結婚して最初の数年は、思い描いた通りだった。


夫は毎日働き、給料を家に入れる。


「生活費足りない」

「旅行に行きたい」

「新しいバッグが欲しい」


そう言えば、夫は黙って働いた。


ありがとう、と言ったことはほとんどない。


「家族なんだから当たり前でしょ」


それが口癖だった。


だが、夫は少しずつ笑わなくなった。


会話は減り、休日も一人で出かけるようになった。


それでもユリは気づかない。


会社員が会社を辞めるように、夫が家庭を辞めることなどあるはずがないと思っていた。


ある日、一枚の封筒が置かれていた。


離婚届だった。


「どういうこと?」


夫は静かに言った。


「僕は夫で、君の生活保証係じゃない。」


ユリは初めて焦った。


「生活費は?家賃は?これからどうするの?」


夫はため息をつく。


「最後まで、お金の話なんだね。」


その一言が、すべてだった。


離婚は成立した。


久しぶりに履歴書を書こうとしたユリは、空白だらけの職歴を見つめる。


結婚は終身雇用先じゃなかった。


互いに支え合う共同経営者だった。


そのことを知ったのは、契約が終わった後だった。



……夫目線……


結婚したとき、俺は「一生守る」と誓った。


その言葉を、彼女は「一生養う」と受け取ったらしい。


最初は気にならなかった。


「生活費お願い。」


「今月も頑張ってね。」


「あなたなら昇給するでしょ。」


そう言われるたびに、「期待されてるんだ」と思っていた。


でも、違った。


昇給しても「おめでとう」はない。


ボーナスが出れば、「旅行に行こう」「バッグを買おう」。


残業で帰りが遅くなれば、「もっと稼げる会社に転職すれば?」。


俺の体調より、給料明細の数字のほうが大事だった。


ある夜、熱を出してソファで横になっていると、彼女が言った。


「明日休むの?」


「ああ……三十九度ある。」


「有給減るね。」


ユリが心配したのは、それだけだった。


その瞬間、ようやく気づいた。


俺は夫じゃない。


ATMでもない。


ユリの生活保証のため、終身雇用契約をしてしまった社畜だ。


仕事なら、退職届を出せる。


同じ…だ。


静かに離婚届を机へ置いた。


彼女は驚いた顔で叫ぶ。


「生活費は? 家賃は? 私、どうすればいいの?」


やっぱり最後まで、俺じゃなかった。


心配していたのは、失う夫ではなく、失う生活費だった。


俺は苦笑した。


「会社でも、社員は給料が安いってだけじゃ辞めない。でも、会社から自分を人として見てもらえていないと思ったら、躊躇なく辞めていくんだよ。」


彼女は何も言い返せなかった。


数か月後。


俺は小さなアパートで一人暮らしを始めた。


豪華な家具も、高いブランド品もない。


でも、不思議なくらい静かで、ここ数年で一番よく眠れた。

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