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緋色のカクテル(前編)

1.

 東京の夜は深く、冷たい風が街を切り裂く。だが、その地下深く、豪華な装飾と秘密に満ちた場所、東京魔術倶楽部では別の時間が静かに流れていた。


 燻煙が立ち込める空間で、子爵家の次男である橘薫と帝大の化学科教授、伊達政弘はポーカーのテーブルに着いていた。伊達が他人との賭け事に混ざるのは珍しいことだった。


 テーブルは深紅の布で覆われ、中央にはキャンドルが灯っている。周囲には、貴族や富豪、芸術家たちが集い、互いの知恵や財力、そして時には秘密を賭けて遊んでいた。


 橘は手札を確かめながら、軽薄な笑みを浮かべた。

「伊達先生、どうやら、今日は運が向いてるみたいだな。」

 伊達は自分のカードを整理し、橘をチラリと見て静かに言った。

「運だけでは勝てない。戦略と観察力が必要だ。」


 ゲームが始まり、橘の指先はチップを軽やかに動かし、伊達は表情を変えずにカードを操作した。


「この手はどうだ?」

 と、橘がカードを裏返す。スリーカードだった。周囲から驚嘆の声が上がる中、橘は得意げに笑った。伊達は眉一つ動かさず、

「面白い手だな。だが…」

 と言いながらフルハウスを見せた。


「さすがは教授。だが、運も味方に付けるのが俺のスタイルだ。」

 橘が笑いながら言った。ゲームは続き、橘は周囲の心理を読み取り、伊達は統計と確率を基に動いた。彼らの戦いは、単なる賭け事以上のものだった。科学と直感、知識と経験が交錯し、チップがテーブルを行き交った。


 最終ラウンド、テーブル上のチップは積み重なり、緊張が高まっていた。伊達は冷静に最後のカードを引いた。


 ゲームが成立しショーダウンの声が響く中、

「さあ、見せてやろうか。」

 橘がロイヤルストレートフラッシュを広げた。彼の勝ち運が、テーブル全体を圧倒した。


「勝ち運も科学の一種だ、伊達先生。」

 橘が笑い、伊達は苦笑しながら、煙草を取り出した。

「しかし、君の直感と幸運は科学では説明しがたい。」


 その瞬間、倶楽部の支配人が近づき、

「お二人に興味深い情報があるのですが…」

 と囁いた。彼の言葉は、ポーカーよりも深い謎を示唆していた。


 橘はチップを数えながら答える。

「よし、次のゲームの前に、ちょっと耳を傾けてやろうか。」

「賭博がらみのお話です。詳しい話は後ほど部屋で。」

そう言い残し支配人は倶楽部の奥へと消えていった。


「ギャンブルか。私の出る幕はないかもしれんな。」

 伊達が言うと、橘は軽く笑った。

「次の手札を引くように、事件の真相を探り出すさ。」


2.

 ゲームがひと段落して、橘と伊達は管理人室に足を運んだ。

「会員からのご依頼です。」

 支配人は冷静な口調で語り始めた。

「ご子息が突然、賭博にのめり込むようになり、家財をすべて賭場に注ぎ込んでいると。しかも、周囲の人間も次々に同じ賭場で破滅している。どうにかして彼を更生させてほしい、とのことです。」


 橘は呆れたように肩をすくめた。

「賭場に入り浸る息子の尻拭いか。それ、俺たちの仕事じゃないだろ。」


「依頼主は橘子爵か?」

 伊達は軽口を叩いた後、鋭い視線を支配人に向け

「何か普通ではない要素があるんだろう?」

 と尋ねた。支配人は小さく頷き答えた。

「その賭場には奇妙な噂があります。そこで提供される特製カクテルを飲むと、耳元で『もっと賭けろ』『手を緩めるな』と囁く声が聞こえるというのです。最初は気のせいかと思われましたが、そのカクテルに溺れた者は次第に別人のようになり、破滅への道を辿るのです。」


 橘は興味を引かれ支配人に質問した。

「それで、我々に何を求めているんだ?」

「『緋色会』に潜入していただきたいのです。」

 

 支配人は慎重に言葉を選びながら続けた。

「緋色会は会員制の賭博場で、極秘に運営されています。そこへ潜入し、依頼主の息子に近づき、真相を明らかにして彼を救い出すことが、お二人の役目です。」


 支配人は書類を机の上に広げる。

「依頼主は、本多鉄平氏。実業家として知られる人物です。そして、彼の息子、本多康介。23歳の青年で、大学を卒業したばかりですが、最近になって賭博に溺れるようになりました。父親が息子の将来を案じ、懇願してきたのです。」


 伊達が考え込むように顎に手をあてた。

「特製カクテルが原因か……。それが何らかの催眠効果や暗示を与えている可能性があるな。」


 橘は探偵としての本能を刺激され、笑みを浮かべた。

「面白いじゃないか。だが、どうやってその会に入る?」

 

 支配人は机の引き出しを開け、黒地に金の装飾が施されたカードを二枚取り出した。


「これは緋色会の特別招待状です。依頼主が用意しました。」

 橘はカードを手に取り、表面を指先でなぞった。

「なるほど。しかし、依頼主の息子に近づく方法は?」

「彼は最近、連日あの賭場に通っています。橘様がギャンブルの常連として潜入すれば、接触する機会を得られるでしょう。」


 橘は満足げに頷き宣言した。

「よし、受けて立つよ。」

 伊達が横目で橘を見やり、冷静な口調で、

「俺はそのカクテルの成分を調べる。状況から考えると何かしらの薬物が含まれている可能性が高い。」

 と言い、念を押すように言葉を続けた。


「橘、お前も気をつけろよ。賭博の魅力に引き込まれないようにな。」

 

 橘はその忠告を笑い飛ばした。


3.

 二人は緋色会の所在地を確認し、次の行動を計画した。

 橘は康介がよく訪れる賭場の一角で接触する機会をうかがった。最初は彼のコネクションや賭け方を通じて信頼を得るアプローチを考えなくてはいけない。特製カクテルを勧められても、うまくかわして、飲んだ康介がどのように変化するかを観察するのが最初の目標だった。


 一方、伊達は外から情報を集め、科学的手法でカクテルの成分を分析を始めた。薬物や催眠効果を引き起こす物質を探り、必要に応じて解毒剤の開発も視野に入れていた。

 

 闇に包まれた賭場で、果たして彼らは真相を暴けるのか。秘密の扉が、静かに開かれようとしていた。

この話は薬物が使いたくて書きました!

薬物大好き(問題発言)!もちろん創作においてです。


後編は伊達教授のキャラ紹介付きです。

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