37 焼肉でとりなす
明日の投稿はお休みします。
「って、いっちー、早くジルオンさんに布を渡して! もう勝負はついたでしょ!」
「ちぇー」
いっちーは歩いてジルオンさんに近づく。早く、もっと早く!
「ほらよ」
「もう少し早くよこしてほしかった」
「これも勝者の余裕ってやつ? あ、そうだ」
ジルオンさんの伸ばした腕は、あと少しのところで救いの布に届かない。
「この布もう十万ウレで売ってやるよ」
「いっちー、外道はやめてー!」
どうしよう。勝負に勝ったはずなのに素直に喜べない。
「ひとまずいっちーは正座」
「はい」
「ワン!」
「うちの子がすみません。ジルオンさん。いつもはこんなことしないんですが」
「いや、俺も悪いといえば悪い。いきなりこんな場で武器を使えと言ったんだからな。こちらの準備も不十分だった。非はこちらにもある。だが」
ジルオンさんはそう言って、うずくまっている男の人に視線を向けた。
「リシュット、お前減給な」
「ギ、ギルマス、ちょっと待って、まだ、喋れない」
「他の職員はもう気を取り直しているぞ」
「だからって、なんでボクだけ、くっ、くふふっ」
どうしよう。ジルオンさんの人間関係にわだかまりが残らなければいいんだが。
そんなジルオンさんの身長とかを、今ジャガットが急速に測っている。もうジルオンさんには新しい服が必要だからな。
「ふう。計測終了だ。ジルオン、色とかの指定はある?」
「いや、特にない」
「じゃあ大体黒な」
「ああ、それでかまわないが、なぜだ」
「だってお前負けたから」
「ぐっ」
「ジャガットももうやめてあげて!」
「いでよ服!」
ジャガットがまずはパンツ&シャツを召喚する。その間に集まった他の野菜達が布を持って、着替えるジルオンさんを囲ってあげた。
「シャランラー。ランララランラッラー♪」
「みんな、なんで急に歌い出すの!」
「くっ、くうあはははは!」
ああ、リシュットさんがとうとう声をあげて笑い始めた。
それを冷ややかな目で見るジルオンさん。正直怖いです。
お、俺のせいじゃないんだからね!
「おー。みんなもう集まってるなー。ジングー、肉持ってきたぞー」
「あ、ありがとうございますオローズさん!」
ジルオンさんが着替え終わった直後に、ちょうどオローズさんがリヤカーを引いてやって来た。
「そうです! せっかくお肉が来たんで、もう焼肉始めちゃいましょう!」
とにかく、空気を変えなきゃ!
「確かに、お肉は鮮度が大事ですからね」
「そうですミアンさん。まずは今ここにいるメンバーで、どうぞうちのマトットの料理の腕を確かめてください!」
「じゃあジルオン、料金は追加で十万ウレな」
「いや、それは流石に高すぎる」
「誰のために出してやったと思ってんだ。その他のもろもろサービスも含めて、十万ってことにしといてやるよ」
「くっ。だがその前に、俺のことはギルマスと呼んでくれ」
「マスター呼びはうちのマスターだけで十分なんだ。嫌ならジルオンおじさんって呼ぶけど」
「ジルオンでいい」
く、空気を変えなきゃー!
「ファイヤー!」
マトットが景気よく肉を焼いた。予め切っておいた野菜も一緒に焼く。
それを村のみんなは、マトットが出した焼肉のたれをつけて食べた。すると。
「美味い!」
「美味すぎる!」
「リシュット、お前はもう食うな。その分俺が食う」
「ギルマスそれは横暴ですよ!」
どうやら大好評のようだ。
「お野菜につけても美味しいですね」
「本当ですねえー。ジング、こんなものをまだ隠してたんですねえー」
女性陣にも好評のようだ。
「あの、すみませんけど村の人たちはまだ集まりきってないので、焼くのはここまでにしておきますね」
俺がそう言うと、みんながこっちを向いた。
な、なにか?
「ジング。この焼肉のたれを、ぜひうちのギルドにおろしてくれ」
「いいえジングさん。このような素晴らしい調味料は、まず村長の家に届けてもらいませんと」
「ジング! まさかこんなものを持っていたなんてな。この野菜の力でいくらでも出せるんだろ? じゃあ牛屋にも分けてくれよ!」
「え、ちょ、ちょっと待ってください。ひとまず考えさせてください!」
み、みんな焼肉のタレを狙っている。まるで猛禽類の目だ。
ま、まあ、一応はこれも成功なのかな? ただ少し、みんなから鬼気迫るものを感じる。




