36 ギルドマスタージルオンの敗北
ジルオンさんに向かってロケットランチャーを撃つ?
この人は何を言ってるんだ?
「あの、ジルオンさん。ロケットランチャーは、危ないんです。当たったら命が吹き飛ぶんですよ」
「はっはっは。安心しろ。俺の祝福スキルはハイパーガード。あらゆる攻撃に耐えることができるんだ」
「そんな痩せ我慢はよしてくださいよ」
「本当だって。お前、俺は今は一応ギルマスだが、昔は冒険者としてブイブイ言わせてたんだぞ。モンスターの攻撃を受けたことだって一度や二度じゃない。そんな中俺は生き延びたんだ」
ブイブイとか初めて聞いたよ。
「あ、信じてないなその顔」
「いや信じる信じないの問題じゃないんです。ロケットランチャーは人に向けちゃいけないんですよ」
「それでも、もしもの時があるだろう。お前だってろけっとらんちゃあを売って儲けたいんだろ? なら威力や危険性をもっと周知させるべきだ。現に、俺はお前のろけっとらんちゃあがどれくらい危険かわからない」
「う、そう言われても」
それが事実だからそんな無謀な挑戦しようとしてるんだろうけど。
「いや予想はできてるんだが」
「できてるんじゃないですか」
「百聞は一見にしかずと言うだろう。想像してるだけじゃ知った気になってるだけだ。それじゃあいかん。第一、お前はこの村のあの冒険者に売っているんだろう。ならギルマスである俺がその威力を把握していた方が良いはずだ」
「それは、そうですけど。でも人に向けるのは絶対駄目です」
「大丈夫。平気平気。なんならナジン大神父が来たらやろう。蘇生魔法がすぐ使えれば問題あるまい」
「いやその痛くても大丈夫みたいな発想俺には無いです」
「軟弱なやつだなあ。それでも男か?」
「俺まだ平和な世界にいた気分が抜けないんで。とにかく兵器、というか武器を人に向けるなんてできません。俺には許可できません」
「むう。あ、そうだ。言い忘れていた。この俺の話につきあってくれたら報酬を出そう」
「うっ」
「おお。心が揺れているう」
しょ、初対面の人に煽られてたまるか!
「そ、そんな口車で倫理観を放棄するなんてしませんよ。絶対!」
「そうだなあ。どうしてもというんなら、俺にろけらん撃ってくれるだけで10万ウレあげてもいいんだけどなあ」
「じゅ、じゅうまん!」
「マスター、もう心がグラングランに揺れてるな」
そ、それだけで、10万ウレ?
それは流石に、何かの間違いだ。というか怪しい!
「確かジングはスペシャル祝福スキルを持っているから、スペシャル税が課されて10万ウレ必要なんだよなあ。しかも毎年」
「うっ」
「こちらはそんな事情も知っている。それを含めてこの値段なんだが、ジングは十万ウレが惜しくないのかなー」
たしかに、欲しい。
でも、それでも!
悪魔に魂を売るのはどうかと思うんですよ!
「とっても魅力的なお話ですが、やはり、このお話は無かったことに」
「マスター!」
下を向いて喋っていたら、いっちーが近づいてきた。あとベリストロも。
「話は聞いていたぞ。ベリストロが!」
「ワン!」
「そして俺はベリストロから事情を聞いた」
「いや待っていっちー。それはよくわからないというか、そもそもベリストロから事情を聞いている分無駄に手間っていうか」
「その話、受けて立つ!」
「駄目だいっちー! ていうかお前ただロケラン撃ちたいだけだろ!」
「安心しろ、マスター。マスターが気がかりな点もちゃんとわかっている!」
「嘘だ!」
「ただこっちがロケラン撃つだけで金がもらえるなんて不公平だって思ってるんだろ? だったらこれは勝負にしてやる。俺が、いや、ロケランが勝ったら気分よく勝利の報酬をもらう。それでいいな?」
「やっぱり嘘だった!」
「負けたら肩でももんでやるよ!」
「ふむ。こっちの赤いやつは話がわかるな。いっちーと言ったか」
「うん」
「その条件、のった。むしろ助かる。だがいいのか。俺は防御のスペシャリスト。勝負なんかにしたら普通に俺が勝ってしまうぞ。そしたら報酬もパーだ」
「その言葉の後半、そっくりそのまま返してやるぜ」
「ほう。いい度胸だ」
「あの、話勝手に進めないでもらえます? 駄目ですよ絶対。殺人は駄目なんですって。人として。お願いだからやめてー!」
「おー。みんなもう集まってるのう」
「アン!」
「マスター、今来たわよー」
「おお、ちょうどいいところに」
「ナジン大神父来ちゃったー!」
なんて面倒な時に!
「これで準備は整ったな」
「今更逃げんなよ。金づる」
「そっちこそ、肩もみの準備運動でもしておくんだな」
「へっ」
「ふっ」
ジルオンさんといっちーはそう言って不敵に笑い合うと、ナジン大神父に話をしに言った。
「というわけで、ナジン大神父にはいざという時俺の蘇生をしてもらいたい」
「オッケー」
「駄目だこいつら、誰も止めねえ!」
これ、どうなっちゃうんだ?
「あまり悲観しない方が良いよ。ジング君」
「あ、アダンさん」
「ジルオンは歴戦の戦士なんだ。手強いモンスターから村を何度も守ったこともある。彼が大丈夫といえば、大丈夫だよ」
「そうでしょうか。でも俺はロケットランチャーの威力を知っていますし」
「なるほど。私達はジルオンを、君はロケットランチャーを知っているということだね」
「はあ」
「でもロケットランチャーも武器らしいからね。そういうものはジルオンに知っておいてもらった方が良い。いざという時のためにね」
「そうですか。でもやっぱり、人に向けて撃つのはあんまりにも、まずいというか」
「もしもの時のためにナジン大神父も控えてくれている。それだけで十分安心できるじゃないか」
「そう、ですね」
「うむ、そうじゃよ」
隣に立たれるとそう言うしかないじゃないか。
「親父、これはなんの騒ぎだ?」
「おお、エルグ。ちょうどいいところに来たね。ざっくり説明すると、今ジルオンさんが身を持ってジングのロケットランチャーの威力を思い知るところさ」
「ああ」
「エルグもそれで納得しちゃうんだ」
「お。どうやらそろそろ始まるようじゃぞ」
少し離れて向かい合ういっちーとジルオン。俺達はそんな二人を遠巻きに見守っていた。
「ルールは単純明快。俺がロケランを撃つ。あんたがそれに耐える。あんたが立っていたら俺の負け。だが立っていられなかったら俺の勝ちだ!」
「うむ。それでいい」
「へ。俺のロケラン魂がもううずいてやがるぜ。では、覚悟!」
いっちーはそう言ってロケットランチャーを召喚し、構えた。
「ファイヤー!」
ああ、本当に撃った!
「ふん、ハイパーガード!」
そして白いオーラを身にまとったジルオンが、片手で飛んでくるロケットランチャーをつかむ!
そして、爆発。
どーん!
「ふむ。やはり予想以上の威力だ。というよりも、攻撃範囲が広すぎる。もう少しで吹き飛ばされるところだった」
見ると、ジルオンさんは無傷で立っていた。でも。
「よし、この勝負、俺の勝ちだ!」
「ワン!」
「ふん、何を言っている。確かに強力な攻撃だったが、俺は無傷」
「ジルオンさーん! 服、服ー!」
「むっ。しまった!」
ジルオンさんはハッとして下を見ると、そこにある全裸を目撃した。
ジルオンさんだけは無傷だったが、着ていた服は跡形もなく吹き飛んでいたのだ!
「布召喚!」
ジャガットが即座に布を生み出し、ジルオンさんに投げる。
それをいっちーがキャッチし、ニヤリと笑った。
「これじゃあもう立ってられねえなあジルオンさんよお?」
「くっ。俺の、負けだ」
ジルオンさんは、そう言って膝をついた。まるで、自分の大事な何かを守るように。
と、とにかく、服以外はなんともなくて良かったー。




