2 何でも屋の仕事を手伝う
行間空けてみました。
「それではジング、いきましょー」
「あ、はい。どこに行くんですか?」
「村の外ですねー。今日のお仕事ですー」
「あの、それってもしかして、モンスター退治?」
その場合俺は、とてもじゃないが戦力外なんだが。
「いいえー、モンスターとは戦いませんよお?」
「ほっ。なら良かった」
「それではいきましょー」
これからお世話になるんだ。しっかり協力しないとな。
「イッチー、お留守番よろしくな」
「すうー、すうー」
俺はフレリアにつれられて村の様子を見ながら歩いた。
やっぱり異世界は日本とは違うな。道は土がむき出し。緑も多い。建物は大体木製で、過去にタイムスリップしたような気分になる。
そして結構歩いて村の外に出ると、草原で恰幅の良いおじさんがフレリアを見て言った。
「おお、フレリア。やっと来てくれたな」
「オローズさん、遅くなりましたあ」
「なに、レディーを待つのはジェントルの嗜みだよ。ところで、そこの兄ちゃんは?」
「この人はあ、私のお手伝いさんですー」
「どうも。ジングです。よろしくお願いします」
「奇妙な格好をしているが、貴族様とかじゃないよな?」
「はいー。なんでも、異世界人とかいうそうですー」
「イセカイ人? 聞いたこと無い種族だな」
「ざっくり言うと、遠くから来たんです。で、フレリアの仕事というのは?」
「ああ、そうだった。ではいつも通り、倒してくれ」
オローズさんはそう言うと、フレリアに赤い布を渡した。
「はい、わかりましたあ。ではジング。この布を持っていてください」
「それはいいんですが、今倒すって言いましたよね。モンスターは相手にしないんじゃ?」
「はいー。モンスターは、倒しませんよー? 倒すのは、牛さんです!」
「牛さん?」
「ピー! ロッシャー! こーい!」
オローズさんがそう指笛を吹くと、遠くにいた牛一頭がこっちにやって来た。
「あの、フレリアさん。なんで牛さんを倒すのでしょうか?」
「それは俺から説明しよう。俺は牛飼いなんだが、いつも牛肉を得るのに一苦労でな。牛は強い。そして危機を感じると戦い、最後には逃げていく。だからどうしたって腕が良い戦士の力が必要なんだ。というわけで、牛肉を得る時はいつもフレリアに倒してもらってるんだよ」
「説明ありがとうございます! フレリア、俺無理! 流石に牛は相手にできない! 俺死んじゃう!」
「大丈夫ですー。ジングはただ赤い布を持っていてくれるだけでいいのでえ。あ、その布を持ってると牛さんは逃げないんですよ?」
「そのトリビア知ってます! 更に赤いものを見せると興奮して襲ってくることまで知ってます! ってうわー! やっぱり牛が俺めがけて突撃してくるー!」
あ、やばい。これ死んだわ。
「じゃ、よろしく頼んだぞ」
オローズさんはそう言ってこの場から離れる。
「それでは、とうー!」
フレリアは剣を抜いて牛に切りかかった!
お願いフレリア! これでどうにかして!
「ンモー!」
しかし俺の願いは届かず、牛はひらりと剣をかわして突進を続けた。
「あらあ。この牛さん結構やりますねえ」
「やりますねえで済んじゃダメですよ! うおー!」
俺は間一髪のところで、横ダイブして牛の突撃を避ける。
すぐ近くを牛が駆けていく。や、やべー! これ命がいくつあっても足りない!
「ナイスですジングー。その調子で避け続けてくださいー」
「正直もう無理です!」
頼む、フレリア。今度こそ仕留めてー!
「では仕切り直して。えーい! あら?」
「フレリアー!」
俺は二撃目を外したフレリアの名前を叫びながら、再び迫る牛を緊急回避したのだった。
それから何度か牛の突撃を回避し続けたのだが。
「ひー!」
も、もう限界! 本当無理!
「フレリアー! お願いだからここで決めてくれー!」
「はーい、わかりましたあ!」
「絶対だぞ、絶対だからな!」
正直回避ダイブするだけでもあちこち体が痛くなるんだから!
「もう動きは見切りましたあ。後はあ」
フレリアはそう言って、再び牛に迫る。
そしてフレリアの剣が、ああっまたかわされた!
「ここ!」
その時、フレリアが更に踏み込み牛の首をはねる。
こうして、牛は倒された。
「ありがとうフレリアあああああああ!」
心の底からの声!
十回くらい失敗したのは、この際目を瞑る!
生きてるって素晴らしい!
「フレリア、もうこの仕事手伝わないから!」
「おー終わったなー。それじゃあ三人で牛肉を運ぶか!」
「あ、はい」
血抜きをした牛を、三人で力を合わせて台車に積み、オローズさんの作業場へ届ける。
「よし。ありがとよ、フレリア! と、ジング! 報酬は明日届ける!」
「はいー。ありがとうございましたあ」
「フ、フレリア。もう限界」
「ジングもご苦労様ですー。おかげで攻撃に専念できましたあ」
こうして、俺はつかれた体を引きずってフレリアの家に戻った。
はずだ。
「あの、フレリア。ここどこ?」
「見ての通り、教会ですー」
そっか。教会か。
「あの、もう仕事は終わりじゃ」
「はい、そうですよー。ここには、ジングの用事があって来たんですー」
「俺の用事?」
「はいー。フレイシュー、いますかー?」
教会にいたのは、青髪の巨乳美少女である。
「お、フレリア。男連れだねえー」
「はいー。この人はジングと言ってー、異世界人らしいんですよー」
「んんー?」
「ジング、フレイシュにも事情を話してあげてくださいー」
「あ、ああ」
俺はフレイシュに自分が異世界から来た異世界人であることを告げた。
「へえー。異世界から来たねえ」
「はい。信じがたいかもしれないですけど」
「ところでジング。君今汗かいてるねえ」
「え、はい」
もしかして、汗臭かっただろうか?
そう思った直後、突然フレイシュに頬をなめられた。
べろおっ。
「!」
な、なんとお!
「ふむふむ。なるほど、これは」
「あ、あの、フレイシュさん? いきなり何をするんですか!」
「実は私はねえ。相手の汗をなめると嘘とか事情とか、そのへんのことをいろいろわかるのさ」
「信じがたい!」
「私はフレイシュのこの特技を頼って来たんですよおー」
う、嘘くせええ!
「で、フレイシュ、どうですかあ?」
「うん。ジング君。君最近、普段口にしないものを食べたね?」
「え? あ、はい」
思い出せる心当たりはある。妹からもたらされた毒きのこだ。
「実は毒キノコを少々、食べさせられまして」
「それだ」
「それとは?」
「君が食べたのは毒キノコじゃない。異世界転移きのこだったんだ!」
「な、なんだってー!」
「異世界転移きのこ。そういうのもあるんですねー」
「いやいやいや、ちょっと待って。それで、どうしろと?」
「君は異世界転移きのこを食べて異世界転移した。事情がわかって良かったじゃないか」
「い、いや、もしかしたらそうかもしれないですけど、事実は何も変わってませんよ! もしかして異世界転移きのこを食べた場合の対処法とかあるんですか?」
「いやない」
「そうですよね!」
ぶっちゃけ俺美少女にほっぺなめられただけなんですけど!
「事情がわかって良かったですねえジング」
「え、ええ?」
「はっはっは。良かった良かった」
「えええええ」
二人の空気に困惑する俺は、どうすることもできなかった。
その頃のイッチー。
「帰りが遅い!」