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1 いっちー誕生

10話くらい連続で投稿しようと思ったら結構時間経ってました。よろしくお願いします。

 趣味でイチゴを育てていたが、ある日突然見慣れないイチゴが実った。


 世にも珍しい星型のイチゴだ。なんとなく気に入って食べずに取っておき、種から増やしてその実がどうなるか見てみた。

 すると星型イチゴが、たくさん実った。

 間違いないだろう。新種だ。


「まさかのブランドイチゴ爆誕。肝心なのは、味だ」


 わくわくしながら食べてみる。

 すると、どうしたことか。


「甘くて苦くてすっぱくてやたらみずみずしいが、なんだ?」


 食べた後すぐに、やけに体がむずむずする。

 その翌朝。

 気がつくと俺は、余分な脂肪が全て落ち、ツルツル卵肌になり、目も耳も鼻も頭もよくなっていた。

 体も以前以上に柔らかく、軽い気がする。おお、ブリッジできる。更にそのまま歩けるぞ。

 どうなってるんだ。もはやビックリだ。




 結論から言うと、星型イチゴには人体の超健康化という神効能があった。

 体が健康的になるだけじゃない。あらゆる病気もガンも治ってしまった。

 これではもうなんでも治しだ。研究機関に成分調査を依頼したら、不治の病も治ったという報告がきた。

 よって、世界がこの星型イチゴを欲した。名付けたブランド名はミラクルストロベリー。

 俺はミラクルストロベリーを売って、あれよあれよという間に大金持ちになった。


「かんぱーい!」


 その日、俺は妹と食卓を囲んでいた。

 珍しく、妹が俺にご飯を作ってくれるという。出てきたのはキノコハンバーグだった。


「さあ、お兄ちゃん。どんどん食べて!」

「ありがとう、妹よ。もぐもぐ、美味い!」


 どういう風の吹き回しか知らないが、久しぶりに家族の顔を見れたのは良かった。うっ。


「なんだ、急に、胸が」

「ふっふっふ。とうとう毒キノコの毒が効いてきたみたいだね。お兄ちゃん」

「ど、毒、だと?」

「そう。わざわざ私が他人の山から取ってきた猛毒キノコだよ。これでお兄ちゃんはおしまい。後は私がお兄ちゃんのミラクルストロベリーで稼ぐよ」

「ま、さか」

「ふっふっふ。これでお金は私のものよ。あっはっはっはっは!」


 まさか、妹にやられてしまうとは。

 ひどく悲しい。が、今の俺にはもうどうすることもできない。もう指さえろくに動かせない。


 せめて。


「妹よ、これからは、もう、清く正しく、生きろ」


 そこで俺の意識は失われた。




「はっ」


 ここは?


「あー、良かったー。気がついたんですね!」


 知らない部屋だ。あと見知らぬ少女。しかもなんか黄緑色のヘアー。

 そして気がつくと俺は、横になっていた。


 あれ、動けない?


 あと、体のところどころがなんかきつくて苦しいような?


「あー、こんにちは。ところでまず、君は誰?」

「人にものを尋ねる時はあ、まず自分から名乗ってください!」

「ああ、そうだな。悪かった。俺は阿梅陣具。超売れっ子人気声優だ」

「アメイジング。それ、ファーストネームですか?」

「いや、陣具が名前だ。君は?」

「私はフレリア。ここは私の家ですー」


 フレリア、やっぱり外人?

 でも日本語ぺらぺらだよな? 見た目なんか日本人っぽくないけど。ていうか腰に剣を装備してる気がするけど。


「なんで俺は君の家にいるんだ? 俺は確か、毒キノコハンバーグを食べて死んだはずだ」

「死んだはず? 生きてますよー?」

「そうだよな。ところで、なんか動けないんだけど」

「それは、私がジングを縄で縛ったからですー!」

「え、なんで、なんで縄!」


 プレイ? そういうプレイなのか!

 もしかしてこれから、子供には見せられないような大人の時間が始まる?

 ダメだ、そんなことはもっと夜になってから! 静まれ、俺の分身!


「だってー、気がついたら私の部屋に知らない人が倒れてたんですよ。しかも男」

「うっ」

「もしかしたら、えっちな下着泥棒かもって疑うじゃないですかー」

「う、疑うな、そんな目で俺を見るな!」


 やめろ、こんなシチュエーションだと、新しい可能性の扉が開いてしまう気がするじゃないか!


「とりあえずー、衛兵に引き渡します?」

「やめてくださいお願いします」

「うーん。それじゃあ一応、大人しくしててくださいー」

「はい」

「あとー、私の質問にきちんと応えてくださいね?」

「はい」

「あなたは、どこから来たんですか?」

「日本の、東京です」

「そんなところ知りませんねー。近くじゃなさそうです」

「逆に尋ねますが、ここどこですか? 村? 町? あと国は?」

「ここはセデンツ村でー、ボンヘイ王国の端っこのど田舎ですー。あ、私、これでも何でも屋さんなんですよ?」

「なんでも屋。それは凄いですね」

「まあといってもー、どこにでもいるようなお手伝いさんなんですけどねー。でもでも一応、腕はそれなりにあるので」

「はい?」


 フレリアが腰にある剣を半分抜いてすぐに閉まった。


「まだまだ良い子にしていてください♪」

「大人しくします」

「わかればよろしいー」

「ちなみに、魔法とかも使えるんですか?」

「使えますよー。私は祝福が器用貧乏レベル2だったのでー、そこそこ万能なんですー」

「へ、へー。すごそうには聞こえないんですけど、魔法も使えるってことはかなり強そうですね」

「えっへん。これでも2ランク程度の冒険者依頼も片付けちゃうんですよ?」

「そうなんですか」


 2ランクがどの程度なのか存じ上げないが、1より上っぽいから素人レベルではないのだろう。


「あ、いけない、忘れてましたー。あなたの祝福はなんですか?」

「へ?」

「祝福スキルですよ。人間誰しも持っている、神様から与えられたその人の才能です。あ、現レベルで結構ですよ。さあ、早く応えてください」

「そ、そんなスキルなんて持ってるわけないだろ」


 シャキン。


 唐突に剣が半抜きにされた。


「すぐわかる嘘を言っちゃう悪い子は、息の根を止めるのが正解ですかねー?」

「ひいっ!」


 これはまずい。俺は今明らかに脅されている!

 考えろ、いや、考えるまでもない。今の正直な答えがリアル事情で不正解だとするとなると、なんでもいいからスキルというのをやってみるしかない!


「ちょっと待って、今スキルを言うから!」


 落ち着け、冷静になれ。これはきっとわかる人にはわかる異世界転移というやつだ。

 異世界に突然行っちゃって、なんか無双できちゃう的な、ハーレムできちゃう的な、そんなラッキーに違いない!

 じゃないと俺、ここで縛られたままジエンドしちゃう。

 流石にソードで切り刻まれたくない!


「すうーっ」


 失敗は許されないぞ、俺。やるなら全力だ。


 命をかけて、今、俺の真の力を理解しろー!


「ステータス、オープン!」




 阿梅陣具。レベル1。スキル、アメージング農家




 やった、本当になにか見えたよ! 助かったー!


「今のは、何かの呪文?」


 フレリアに小首をかしげられる。


「そ、そうなんだよ。異世界から来た人間は、皆必ずこう言って自分のスキルを確認するんだ!」

「嘘っぽいですー」


 ほんとだって、信じてくれよ!

 というか信じてもらうために、早く自分のスキルを言うしかねえ!


「俺のスキルはアメージング農家! です!」

「アメージング農家。聞いたことないですねえ。ちょっとここで使ってみてください」


 え。


「いや、あの、使い方とか、よくわからないんですけど」


 シャキン。


「ほんとです、嘘じゃありません! どうかスキルの使い方を教えてください!」

「使い方と言われても、普通に使いたいと思えば使えるはずですけど。スキルが失敗すれば体から光が漏れるはずですしい」


 なに!


 そんな簡単でいいのか。よし、早速使ってみよう!


「それじゃあ、スキル、アメージング農家!」




 スキル発動準備。生み出したい植物を決めてください。




 え、植物?

 こんなところで出しちゃうの?

 ええとじゃあ、ひとまず無難そうな。


「イチゴ、出てこい!」


 うっ。なにか体から力が抜けていく!




 ぱあーっ。




 突然俺の体から出てきた金色の光が、俺とフレリアの目の前でひとかたまりになって動きを止めた。


「!」


 シャキン!


 その直後、フレリアが腰の剣を完全に抜く。

 いや、ちょっと待って、それはほんとダメ! 絶対危ないから!

 頼む、ここからなんか上手いことなってくれー!

 と思った瞬間、ここですぐに金色の光が消えていった。

 そして金色の光が集まっていたところに、なにかが着地した。


「いちごっ」


 そう、その何かが呟いた。


 その体はまさしく、真っ赤なイチゴ。星型ではないが、今でもイチゴといえばこの形だろう。

 だが、その大きさはあまりにもでかい。人の子どもくらいある。

 そのイチゴから黒いホースみたいな手足が伸びて、立っていた。


「これは、モンスター?」


 奇遇だな、フレリア。俺もそう見える。


「お前失礼なやつだな」


 イチゴが喋った! しかも人語!


「やっぱりモンスターなんですね!」

「ああっ、フレリア剣を構えちゃダメー!」

「おい、マスター」


 そこでなんとも余裕げにイチゴが振り向いて、俺を見た。


「俺の名を言ってみろ」

「へ?」

「へじゃない。せっかく生み出されたんだ。かっこいい名前を頼むぜ」


 えっと。


 これは。つまり。

 ひょっとして、召喚獣的なやつ?

 初めての仲間に、名前をつけてあげる的な?

 というか頼りに、な、なるか?


「じゃあ、イチゴのイッチーで」

「よし」


 イチゴのイッチーは振り返ってフレリアを見た。


「どした嬢ちゃん。俺とやる気か? 武器なんか捨ててかかってこいよ!」

「やめて、挑発しないでー!」

「剣を捨てるわけないじゃないですかあ。やっぱり敵だったんですね、えーい!」


 ああ、フレリアの剣が振られる!


「ふっ。ここだ!」


 イッチーはそう言って真剣白刃取りを失敗し、縦に裂けた。




 ぶしゃあああー!




「イッチー!」


 どさっ


 ああ、イッチーが倒れたー!


「うう、部屋がびしょびしょになっちゃいましたあ。でもこれで、ジングが敵だってわかりましたね」

「いや、ちょっと待って。お願い」

「言い訳はあの世でしてくださいー」


 フレリアがそう言って、ゆっくり歩いて近づいてくる。


 その時、倒れていたイッチーの手がフレリアの足をつかんで引っ張った。


「きゃあ!」




 すってーん!




 うわあ、フレリア痛そう。


「俺のターンはまだ終わっちゃいないぜ!」

「いやああっ、女の子に逆エビ固めはダメいたたたたっ!」


 フレリアは剣を手放し、喚き叫ぶ。

 ひとまずこれで、なんとかなった?




 イッチーはギブアップしたフレリアから離れ、再び俺と見つめ合った。


「マスター、その縄はマスターの趣味?」

「違う。早くほどいてくれ」

「仕方ねえな。手間のかかるマスターだぜ」


 なんか一言余計だが、とにかく助かった。

 イッチーには感謝だが、こいつまだ切り傷負ったままなんだよな。


「あー、イッチー。お前の怪我は大丈夫なのか?」

「これくらい寝たら治る」

「そっかー。そうだといいな」


 ともあれ、これでようやく立ち上がれた。


「うう、体が痛い」

「それはこっちもですう。やっぱりよからぬスキルを使って反撃を考えてたんですねー」

「いや、それは誤解だ。というより、どうか俺の話を聞いてくれ」


 簡単に説明すると、どうやら俺は異世界に来てしまったらしい。しかも帰り道もわからない。

 これからどうすればいいかわからない。だから力を貸してほしい。

 そう頼むと、フレリアは立ち上がってうなずいてくれた。


「はい。正直よくわかりませんが、仕事の依頼とあらば、お受けいたします!」

「え、いやあの。お金は持ってないんですが」

「体で返してもらってもいいんですよ?」

「えっ。まさか俺の体目当て?」

「何を言ってるのかわかりませんが、この何でも屋に仕事を頼むというのならば、労働を対価に引き受けましょう。なに、要するに私のお手伝いさんです。食べるところも住むところもないというのであれば、私が力になりますよ?」


 有料で、か。だが、悪い話ではない。何より、頼れる人がいるというのはありがたい。

 まあ、頼りにしていいかは、まだ判断はつかないが。今の俺に選択肢はない。


「わかった。俺も世話になるなら恩を返したい。何ができるかわからないが、できることはなんでもやるよ」

「うふふ。では、契約成立ですねー」


 俺とフレリアは握手した。


「俺も!」

「はいー、わかりましたー」


 そしてフレリアはイッチーとも握手する。


「ところでイッチー。やっぱりその傷どうにかならないか?」


 すっごくザックリしてるんだが。


「寝たら治るって言ったろ。なんならここで寝ていいか?」

「ええ、いいですよー」


 フレリアがそう言ったら、イッチーはすぐに横になった。


「すうー、すうー」

「寝るの早っ。って、本当にすぐに傷が回復していく!」

「不思議ですねー」


 十秒もしないうちにイッチーは全回復した。


「すうー、すうー」


 だがまだ目覚める様子はない。まあ、寝始めたばかりだし仕方ないか。

 しかしまさか、この俺が異世界転移とはね。

 まあ、元の世界では人生終了した感じだし、未練はあんまりない。儲けたお金も、稼げたのが楽しかったって感じだしな。


 しかし、この世界で生きていけるだろうか?


 フレリアは剣も持ってるし、魔法もあるらしい。イッチーをモンスターと言っていたから、当然恐ろしいモンスターとかもいるのだろう。そして俺はというとまあ、声が良いだけのパンピーだろ? 一応イッチーも召喚できたが。

 こんなんでどうにかなるのだろうか? いや、やってみせるしかないか。

 せっかくまだ生きてるんだ。それならとことん生きなきゃな。

 前を向いていれば人生なんとかなるってもんだ。アメージング農家っていうスキルも頼みにして、上手くやっていこう。


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