停電
突然、部屋の照明が消えた。
「うわっ」
「なんだ」
「きゃっ」
どたばたと三人は慌てた。
「ちょっと落ち着けよ」
低音の男の声。
「危ないって」
テノールな男の声。
「どこ触っているのよ」
甲高い女の声。
「僕は触ってないよ」
とテノール。
「じゃあ、武雄でしょ」
「俺も触ってねーよ」
もう一人の男。
「嘘」
「本当だって」
「あ、なんか、目がやっと暗闇に慣れてきた」
テノールが言った。
「そこにいるには亮介?」
「そうだよ」
テノールが答える。
「こっちが武雄かぁ」
女が言うと、
「そうだ」
低音ボイスが返した。
「奈美は怪我はない?」
テノールが聞いた。
「大丈夫」
「そろそろ、電気つかないかな」
低音が言った。
「周りが一斉停電したのかな」
テノールが言うと、三人は同時に思案し始めた様子だ。
「あれ、でも、おかしいぞ」
「どうした?」
低音の疑問に、テノールが聞いた。
「窓から見える他の家は灯りが点いている……」
「あっ」
「本当だ」
「ということは、ブレーカーが落ちたのか?」
低音の男がどたどたと足を踏み鳴らして玄関のほうに向かった。
「待ってろ。スマフォのライトを頼りに、ブレーカーをあげる」
数秒後、部屋の照明は点灯した。
――血だらけ姿の男女が立っていた。
「あれ?」
テノールの男が愕然とした。中肉中背で眼鏡をかけている。
「ああ」
女は青ざめていた。華奢な腰は今にも折れそうだ。
「どうした?」
低音の男が戻ってきた。ずんぐりむっくりとした体型だ。
「いないんだ。死体が……」
三人は血だまりのある場所を呆然と見つめた。
*
(こんなにもうまくいくとは思わなかったな)
青年は大通りにでると、緊張がとけ、ニヤニヤと笑った。彼の姿は全身が血糊で真っ赤に染まっており、通行人は一瞬ぎょっとして振り返るが、悲鳴をあげることはなかった。
今日はハロウィンだから、血だらけ男の仮装をしていても怪しまれることはない。
あの三人の計画に気づいたのは、一週間前だった。青年を殺し、ハロウィンに便乗して死体を堂々と運ぶという計画だった。
彼は、その逆をついて、切っ先が引っ込む包丁で刺されたふりをした。血糊を大量に放出し、倒れ、時限式でブレーカーが落ちるようにしていた。
(今頃、あいつら、泡を食っているだろうな)
青年は愉快な気分になり、哄笑した。
*
* *
* * *
「先生!先生!起きてください」
僕は激しく肩を揺らされて、目を覚ました。
「教卓で眠るなんて、珍しいですね」
少年は怪訝な顔で僕を見た。僕の教え子の中学生男子だ。
「いや、懐かしい夢を見たよ」
「どんな夢ですか?」
「僕が、先生が、教え子に襲われる夢だよ」
「怖いですね。それ」
少年はぶるりと身震いした。
「なに、怖くはないさ。僕が死んだふりをして、撃退したからね」
「すごいですね。その人たちは今、何しているのですか?」
少年に問われ、僕は指を指した。
「そこにいるよ」
その少年の父親と母親がいた。本日は三者面談だ。