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輪廻TS 〜異世界でもザコとスキルは使いよう〜  作者: 龍水幸
第一章 始まりの街
1/1

プロローグ



『君は…死な…ないで……ね』

『フタナリ、俺は——』


「——。」



「——。」





「……ク。」



「サク」



「サク、サク」


 目の前にたたずみ、こちらを見て不安げな顔をする女性。古びた服に茶色の瞳。声を震わせている。


「大丈夫でしょうか?この子全く泣きません。サンドさん、サクがさっきから全く泣かなくて、元気がないのです。どうしたら——」


 女性が右に視線を向ける。視線のすぐ先には捲り上げた袖から腕の筋肉が垣間見える男性が立っていた。燃えるような瞳。


「大丈夫さクート。なんたって二人の子供だ。すぐに泣きじゃくるさ」


 さっきと景色が変わっている。フタナリの言った通り、異世界に来れたようだ。


 家——だろうか。辺りは薄暗い。天井と壁にある虫に食べられたような穴から差し込む光が時折、目に当たって眩しい。

 床は木の板。端の隙間は揃わず、足が一つ分入りそうでもあるが、なんとか敷き詰め、土の上で立つことが無いように――の意識を感じる。

 家具がある。木製で彫り込みがされた椅子と机。二つでセットだろう。そして二人がギリギリ寝られそうなベットと薄い毛布。家具はそれだけだ。広い家では無いが、住むには十分な広さだ。


 二人は再びこちらを見て女性は自分に言い聞かせるように大きく頷く。

「そうですね、私たちの子は元気モリモリです!」


さっきからこっちを見られているような……それに俺を見ながら「私たちの子供」?ここは異世界。「異世界」に「子供」……転生?

 

「ホンギャー」


 幼児特有の声。


「あっ!泣きました、泣きましたよ。良かった。サンドさんも聞きました!?」

 

 女性は肩を撫で下ろし、安堵の声を上げる。


 転生——か。願ったり叶ったりだ。

 


 だが今は一番最悪な状況である。召喚だとてっきり思い混んでしまっていた。

 それもそのはずだ。

 俺は死んだから『転生』だ。都合の良いことばかり考えているからこうなる。

 思い違いをしないように。念の為にもう一度確認をしておこう。


【第一戒】種の代表者一人をリーダーとして

    勇者パーティーを編成する

【第二戒】種につき勇者パーティーは一つとす

    る

【第三戒】パーティーメンバーの人数制限なし

【第四戒】リーダー以外の種の制限なし

【第五戒】殺しを許可する

【第六戒】パーティーの合併を許可する

【第七戒】リーダーの死亡または

    永久的戦闘続行不可に限り敗北とみなす

【第八戒】魔王を先に討伐した一つのパーティーまたは

    唯一生き残ったパーティーを勝者とする

【第九戒】勝者が現れるまで永遠に続く

【第十戒】勝者は願いをなんでも三つ叶えることができ

    る


『君は…死な…ないで……ね』


 ——やはりあの台詞が頭から離れない。今日から始まった俺のハッピー異世界ライフをあの言葉が歪めている。

 そんな気がしてならない。


 何事にも初動は肝心だ。今までの状況を整理してみようか。


〔1〕幼児からのスタート

〔2〕俺の名前はサク

〔3〕母親はクート

〔4〕父親はサンド

〔5〕言語に支障はない


まずはこんなところだろう。気にもとめず当たり前のように会話を聞いていたが、言語が共通している事、これは不幸中の幸いだ。

 両親は優しそうな人たちだ。親ガチャで当たりを引いたのかもしれない。



 それにしてもこの家は窓が無いため、外の様子や異世界のイメージが全く掴めない。折角の異世界で、過酷な環境で餓死寸前生活はしたくない。そのためにも外に出なければ。


 おおよその道筋を手際よく立てる。この異世界の状況に普通は慌てるだろう。ただ、初めから分かっていれば話は別だ。


「あいあああはうああ」

 

 またもや幼児特有の喋り声になってしまう。外に出たいと言いたかったが、喉に力が入らない。

 

「ふふっ。なんて言ってるんでしょうね」

「お腹が空いた。とかじゃないか」

「そうでしょうか。私は、眠たい。と言っているように聞こえましたが」

 

 サンドは呆れて。


「はあ、それはクートの気持ちだろう」

「あっ。バレてしまいましたか。でもきっと当たってますよ。この茶色い瞳に特徴的な癖毛は私似ですから」

 

 人の気も知らないで二人は俺を見つめ微笑んでいる。


 自力で外へ出ることは不可能だ。この二人を外へ連れ出す方法を考えた方が良いかもしれない、そう思い始めた時――

 ――外から男の太い唸る叫びが聞こえた。



『緊急招集!緊急招集!片割れの襲撃を確認!直ちに全ての徴兵は正門に集まり片割れを排除せよ』


 両親に目を向ける。


 嗚呼——さっきまでの微笑みは何処へ行ってしまったのだろう。ついさっきまで笑っていたとは思えない戦慄を浮かべる両親。母は視線をサクから父サンドに移す。強く握り拳を作る父。何処か遠くを見つめ、何も言わない。


 繰り返し招集がかかる。その声が家に籠り、空気を押し詰めていく。


 何をやっているんだ俺。外に出るチャンスじゃないのか。


 自分を鼓舞する。

 しかし、何もできなかった。二人の様子が明らかにおかしい。顔が引き攣っている。これから、何が起きるか分かっているように。



 膠着状態が二分程続いた時、最初に動きを見せたのは父だった。


「もう……行かないと——」

 

そう言って、あちこちに傷と血痕のついた鎧を身につける。鎧といってもほぼ胸当てだ。

 母は(かな)しみ、何を言うでもなく、父を見つめている。父は時間を稼ぐかのように一つ一つの動作を慎重に熟す。

 しかし、それでも終わりはくる。父が鎧を着終わり扉の取手に手をつけた時。

 

 ——母は泣き崩れていた。温かい母の腕の中。抱かれている俺は、母の瞳から滴る雫を額に受け止める。

 

「——絶対に帰って……きて…… (くだ)


 母の喉は悲しみに震え、もう聞こえない。


 あの台詞と重なる。


 母の涙が俺の頬を伝う。

 フタナリはどんな想いで語ったのだろうか。

 今の母と同じだったのだろうか。

 

 父は困った(哀しみ)顔をして。


「そんな約束……反則だって。でも——」


 サクを見つめる。抱っこされている高さまでしゃがみ、俺の人差し指を大きく硬い手で優しく握った。


「三人の為にも頑張らないとな」

 

 そう言い残し。父は出て行った。


 


 ——それが父サンドの最期の言葉だった。

 


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