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(食べ物はおいしいけど、霊力試験に受かりそうな者はいないなぁ)
団子を口に入れながらすれ違う人を見まわす富羅賀の姿が城下町にあった。
「陰陽師のお兄さんこっちの団子も食べとくれよ」
「この時間なら団子じゃ足りねぇ、うちのそばを食ってけよ」
「身なりのいいお兄さんならうちで着物を見ておいき」
陰陽師であることの証である狩衣を身にまとっている富羅賀には、道の両側から威勢のいい商売人の声がかけられる。
陰陽師としてギリギリ認められる従五位の陰陽師でさえ一般平民の数倍の給金をもらえるので狩衣を着て町中を歩けば、私はお金を持っていますと言わんばかりなのである。
(城門の門兵の気は引き締まっていたし、町は活気がある。さすがはこの戦国といわれる時代に3代続く須藤家ってとこかな)
十数年前の帝の弟による反乱、数年前の将軍暗殺事件により京の都は混乱、それは同時に将軍家による各地の大名家の統制を失うということであった。
ここ十数年で多くの大名家による土地、地位、農民を奪い合う戦が繰り広げられ、世は戦国時代と呼ばれていた。
ここ高田城一帯を治めていた須藤家も先代までは守護としてこの地を治めていたが、当代則明の代からは高田城一帯の土地を保証する代わりに、年に一度の霊力検査により陰陽師の素質ありと認められた者を倉院家に差し出すという形で従属を示している。
陰陽師とはそれほどまでに価値のある者であり、京の都にある陰陽院を卒業した者はどの大名家でも破格の待遇で迎えられる。
(腹も膨れたし、特にめぼしい者もいないし城に戻ろうか、んっ!)
富羅賀が城に戻ろうと踵を返そうとしたとき、目の端にみすぼらしい恰好をした少年たちが目に入った。
このような城下町に浮浪者一歩手前の恰好をした少年たちがいることは戦の多いこのご時世、珍しいことではない。
富羅賀の目を引いたのはその少年たちの最後尾にいた大きな目赤く腫らした少年である。
(あの少年明らかに正四位以上の霊力を感じる)
陰陽師として霊力の操作に長けているものは、ある程度他人の霊力を感じることができるものである。
「君すこしいいかな」
富羅賀に声をかけられた少年は少し驚いた顔をした後、すこし目を細めた。
「俺たちまだ何も悪いことしてないぞ」
そばにいた仲間の少年たちも口々に同じようなことを口にする。
まだという部分にすこしひっかかりはしたものの、富羅賀のような身分のある人間に声をかけられることに警戒心を持つ少年たちを少し哀れに感じる。
「そうじゃない、文句を言いたいわけじゃない。君は明日の霊力試験に来るのかい」
「霊力試験? あぁ陰陽師になるための試験か、行ってどうするんだ、俺たちがなれるわけないだろ」
霊力試験がなんのことかわからなかった少年は少し考え理解した後も、自分には関係のないものだという
周りの少年たちも何を言っているんだこの男はという目で富羅賀を見る。
「自覚はないのか、けど君には素質があるよ。明日高田城の試験会場に来るといい人生が変わるから」
それだけ言うと富羅賀はその場をあとにする。
「何だったんだあの男」
残された少年たちは首を傾げ、顔を見合わせるが答えは出るはずもなく。
「そんなことよりも、城の下見も済んだし、計画の最終確認だ」