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West Side Story

ここは某所、一文字町(いちもんじちょう)。面積がやたら大きい、少し栄えた町である。

合併を繰り返し大きくなったこの町は、東西南北の四地区に大きく区分される。

その四地区にざっくり配置され立てられた学園がある。それがここ『一文字学園』である。

と言っても、一文字グループという大きな組が経営している学校という事であり、系列校が各地区に連なっている形になる。しかも割と直近で出来た新設校。しかしかなりの人気を誇り、年々生徒数も増えている。何故そこまでの人気が出ているのかと言うと・・・


〜5年前〜

『(偉い人)皆様、本日は会見にお越しいただきありがとうございます。突然ですが我々一文字グループは、地域に根付いた学園を設立します!』

パシャパシャ!パシャパシャパシャ!(シャッター音)

『(記者)学園設立おめでとうございます!地域に根付く、とは一体どう言った意味合いでしょうか?』

『我々は「一文字」という名を掲げています。それを活かし、「ひと文字」で表される能力を生徒たちへ与え、それを活用し切磋琢磨し勉学、学校行事などに励んで頂きたいと思います!』

『『の、能力・・・?』』

『『なにいってんだ!?』』

(ザワザワザワ)

『皆様ザワつくのも無理はありません・・・。ですが、昨今問題になっている若者の学力低下。これに待ったをかけるべくして開発されたシステムなのです。』

『質問よろしいでしょうか。その・・・能力?というものと勉学になんの関連性があるのでしょうか?』

『皆さんはご存知ですか?学力低下に反して、娯楽であるゲーム等の利用率は急上昇しています。つまり・・・』

『『(つまり・・・?)』』

『――ゲーム感覚になれば勉強の率も上がるんじゃね?と考えました☆』

『『単純な思考回路!!??』』

『・・・総ツッコミありがとうございます。ですが得てして、世の中の成功している事柄はふとした思いつきで成り立っている事も多いもの。一文字グループの持ち得る技術を使い、その思いつきのような案を現実化するまで持ってきました。さぁ、生徒の皆さん!一文字学園に通い、このゲームであって遊びではない勉学システムで競い、高め合いましょう!』

『『(群衆)オオオーーー!!』』

『なんか最後のとこどっかで聞いたフレーズじゃない?(ヒソヒソ)』

『シッ!最近ハマってるらしいんだよ(ヒソヒソ)』

(ぱちぱちぱちぱち)

パシャパシャパシャパシャ!!

〜回想終了〜


そして一文字グループは、自らのグループ名にもある『文字』を活かした一文字による1文字育成システム、通称『ワンチャンスシステム』を構築。生徒一人一人へ1文字の漢字を与え、その字が能力へと昇華し、それを足掛かりに自らの力も高め将来のチャンスをつかもうぜ、そんなシステムである。

この5年間でシステムを強化させていき、メキメキと力を付けていき注目され人気を博しているこの組こそが一文字グループもとい、『一文字学園』である。



「・・・・・というのがざっくりとした、この一文字の歴史になります!なにか質問のある人は?」

「「ないでーーす」」

「よし!じゃあなにかある人は、個別に先生の所までね!」

「「はぁーーーい」」

「ということであなた達新入生には、これから武器となる『1文字』が与えられます!楽しみだよねー!」

「「そうですねーー」」

「・・・ちょっと!?せっかく入学ほやほやピッチピチの新入生なのにテンション低くない!?どーしたよ!上げてけバイブス!?」

「せんせーなんかワードセンス壊滅的じゃない?」

「あんたらのテンションの方が壊滅的でしょーよ!?」


紹介が遅れました、私は先生2年目の藤原です!今年から本格的に、新入生クラスの担任を持つことになりました!そんな今、生徒たちのモチベの低さに苦しんでいます・・・。

「もっとこうさ、『あー俺の漢字って何かな〜』とか『自分の能力をモノにしたら闘おうな!』とかないの?熱い気持ち的ななにかさ」

「まあ無いって言ったら嘘になりますよ」

「そうそう、俺らにもやる気はあんスよ」

「「そうだそうだーー」」

「えぇーー・・・いまいち見えてこないんですけど・・・」

いけないわ、生徒たちをやる気にさせるのも先生の仕事。グッとくる一言でモチベを上げるのよ。上げて上げて、バブル経済の如く上げていくのよ!

「もう、やる気出してよね。あなた達は西地区の代表となるんだから!前まで言われてたじゃない?『灼熱の西地区』って!」

よし、決まった!『灼熱』というワンフレーズ!これで生徒の熱い気持ちも引き出・・し・・・?アレ?なんか様子が・・・?

「あのさぁ先生ぇー・・・」

「え?」


「「その『西地区』だからモチベ低いんだろーが!!!」」

生徒たちが口を揃えて怒鳴ってきた。


「え?・・え!?なに!?」

突如激昂した生徒たちにオロオロしていると、メガネをした生徒が前に出てきた。

「説明しましょう、藤本先生」

「「(生徒一同)言ったれ!よく分からんメガネ!」」

「いや私藤原ですけど。それで、説明って・・・?」

「先生のおっしゃっていた『灼熱の西地区』。これは一文字のシステムが出来る前の呼び名です。元々ヤンキーやら何やらガラの悪い人が多く、常に地区内での闘争が絶えなかった事、シマをぶんどる為の闘争の熱の凄まじさからその呼び名で恐れられていました。」

「や、やっぱり熱気あるんじゃない!それをこのシステムにも向け・・・」

「その『システム』がモチベ低下の理由なんです」

「え?」

「こちらのデータをご覧下さい」

メガネ君にタブレットを見せられた。何なのよ一体――・・・っ!?

「一文字町の勢力図・・・?」

「そうです。このデータは、システム実装前と実装後の勢力を表しています。一目瞭然ですよね、このシステム実装の前後の勢力の推移。」


そのデータによると、ワンチャンスシステム実装前のガラの悪かった『灼熱時代』の西地区は町の約4割の勢力を誇り、他地区を凌駕する実権を握っていたようだ。しかし、システム実装後のこの5年でみるみるうちに勢力が激減し、今年度の勢力分布図はというと――


「い、1割!?」

「1割あれば良い方ではないでしょうか。今年度のスタート時点では、1割も切っています。もはや他地区の植民地状態でしょうね」

「し、植民地・・・?」

「実権を握られてしまっているという事です。言わば、戦後にGHQに統治されていたニホンのような感覚ですかね」

「な、な、なんで??なんでそんな事に!!?」

「先生・・・ホントにこの町の事知らないんですね??簡単な話ですよ。」

メガネ君は、メガネをスチャッっとさせて言い放った。


「知能が足りなかったんです」


「知能ぉ・・・?」

「はい。元々の西地区の勢力は、ほぼ武力で治めていたようなものです。道行けばメンチを切り、シマに少しでも触れよう物なら制裁を加える。そんな治安カースト最下層の地区です。そりゃ、他地区も手出しなど出来るはずありません。圧倒的な武力で他地区をも牽制していたのです。そんな時に『ワンチャンスシステム』が出来、勢力図が大きく揺らぎました。」

「え?どうして?」

「システムの構築後、生徒たちは文字を自分の能力として使えるようになりました。つまり、他地区も武力を持ってしまったのです」


「じゃあ、ヤンキーの武力で成り立っていた西地区は・・・?」

「言わずとも分かるでしょう。そのひとつのみの強みで築かれていた物が瓦解。他には知力もなければなんの強みもない。衰退の一途です。恐れられていた西地区は今や、『お前西なの?ザコ(笑)』『焼きそばパン買ってこいよ(笑)』などと虐げられ、今の状況に至ります。」

「えぇ・・・?私コロッケパンの方が好きよ?」

「「先生、そういう話じゃないっす」」


「で、でも!それが分かったのなら、巻き返しも出来ないの?勉強頑張ったりとか!?」

「もちろん、この5年で西地区も頑張った方だと思います。1割でも勢力図が残ってるのはその頑張りのおかげでしょう。ですが他の地区は元々平均の偏差値も高かったですし、学力で巻き返すのは中々厳しいものがありました。」

「はいはいメガネン。そのワンチャンあんぜシステム?の能力を極めるとかすれば、今までの武力プラス能力で強化出来たんじゃねぇの?」

「それこそが・・・西地区が勢力を維持できなかった要因になるんですよ」

「え?」

「いいですか、その能力というのは――」


はっ!システムの能力の話はこれからしようと思ってたのに!?先生の威厳を見せないといけないわ!

「メガネくん、それは私が説明するわ!この一文字のシステムはね。文字が与えられて、その文字に対するイメージや見聞の深さが能力に反映されていくのよ。そうね例えば・・・あなた達、『火』と言われて何を連想する?」


生徒たちが口々に連想した物を答える。

「燃えるよな!」

「クソ熱い!」

「うんうん、他には?」

「・・・・・えーと、他に・・・?」

「「「・・・・・。」」」


「・・・なるほど。メガネくん、これが西地区の衰退の要因なのね・・・」

「その通りです。能力を伸ばすにも、知力学力や経験など、様々な事が必要なんです。その基礎的な部分がこの西地区には足りなかった。地頭の部分で、他地区に劣っていたんですよ。」

「でもよぉ!火なんて言われても熱いとかそんくらいしか出てこねえよ!」

「そーだそーだ!それ以外のイメージなんて、赤いくらいしかねぇよ!」

「そこですよ。学力が無いから『火は赤い』で能力の成長が止まるんです。」

「「「え?」」」

「・・・あなた達、理科の実験でやらなかった?赤い火より青い火の方が熱いとかって。赤い火に物を加えると、色が変わるとかって。」


「お前やったか?」「いや、理科の時間は寝てたな」「俺は虫取り行ってた」


「・・・メガネくん。今年の西地区はもうダメなのかしら。私もう挫けそうだわ」

「諦めるのは早いですよ。僕のデータだと、今年は有望株が割と西地区に入ってきます。その方々が能力を伸ばせば、栄光の西地区復活も夢じゃないです」

「ホントに!?」

「ええ。でも有望とはいえ中々クセの強い方々が多いですからね。先生の腕の見せ所かもしれませんよ」

メガネくんに微笑まれた。そうだわ、先生として私も頑張らなくちゃ。せっかく責任ある立場なんだから。西地区を発展させるのよ、私!


「よしみんな!この代で、西地区の勢力を取り戻すのよーー!えいえいおー!」

「「せんせー、やっぱりワードセンスおかしいよ」」

「総ツッコミやめなさい!!ジェネレーションギャップ感じちゃうでしょ!また入学式と1文字授与式で会いましょうね!!解散!」


意気込む先生と、入学予定の生徒たちのガイダンス。やる気に満ちた雰囲気で幕を閉じたが、出席していない生徒も数名。

その未出席の生徒たちが西地区復活のキーになる事は、まだ誰も知る由もない――

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