プロローグ或いは大陸の日常
素人投稿に付き御注意を
「あれがイーゼルの若獅子か」
線が細くさながら少女のようにも見える指揮官シュバルツは前線で暴れる敵指揮官を見ながらつぶやく。彼の視界には本来ならば後方の陣地で指揮を執っているはずの敵指揮官、アレク・ウェールシア・イーゼルが敵兵士を先導してこちらの兵を蹴散らしている姿があった。
まさしく獅子奮迅の働きというべきか、とシュバルツは場違いな感想を抱いたが別に彼は若獅子の武威に蹴落とされ現実が見えなくなっていたわけではない。
「もう少し引き込めろ。それと別働隊に準備をさせておけ」
「前線に兵を送らないので?」
「....そうだな。今後ろにいる奴らを全員前に行かせろ」
あくまでも冷静に指示を出す。副官はこれが初陣となるシュバルツの補佐のためつけられていたのだがこれなら自分は要らなかったかもしれない、と感心しつつ部下に彼の指示を伝える。
「左翼が押されている..?いや、そっちのほうがいいか」
シュバルツの部隊は開けた草原にまんべんなく展開していた。対して敵部隊はシュバルツの部隊と比べて兵数不利であったために一点突破を目指した槍のような陣形だった。
攻撃特化型ともいえるこの陣形は若獅子と謳われる指揮官アレクに率いられ今のところシュバルツの部隊に甚大な被害をもたらすことに成功していた。初陣であるシュバルツが指揮官であることを鑑みればその目論見は十分に勝算は高く実際にアレクはその未来を確信していた。
そして遂に若獅子の瞳はまるで少女のような姿の敵を捉える。彼は既に敵陣の奥深くまで入り込んでいたのである。
とはいえ、そこまでだった。
「別動隊に出撃命令を出せ。本隊も攻撃に転じろ」
「はっ!全軍に告ぐ!反撃せよ!」
副官の指令は戦場に響き渡る。それは本隊に対する攻撃命令であるのと同時に別動隊に対する合図でもあった。
それまでひたすら防御に徹してきた本隊は一斉に攻撃を開始する。
若獅子の優れた指揮によってどうにか立ち直ったかのように見えた敵部隊だったがひそかに移動していた別動隊がその横腹をつくと完全に総崩れになった。
結果として数時間に及ぶこの戦闘は指揮官であるアレクは捕縛され彼の指揮下の兵も壊滅という結果に終わることになる。
とはいえ、寡兵をもって衆であるシュバルツ方に多くの損害を与えたアレクの軍才は称えられそのアレクを初陣でありながら捕らえたシュバルツもまたその名を轟かすことになった。
なんにしろ、これは序章にすぎない。
シュバルツが経験した初めての命のやり取りは、大陸のどこかで毎日起こっている局所的な戦闘でしかない。
シュバルツ・クリフ・ウェルノアイゼン
後に謀略卿と呼ばれ大陸全土において恐れられた男も今は幼さの残る少年である。
戦乱と混迷の時代はまだまだ始まったばかり。