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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第2章:生真面目君主とわけあり令嬢(ディーン&ジョゼ)
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嫁が愛らし過ぎるのです

 ここは、きちんと話しておくべきだ、と思う。

 ジョゼフィーネは、おそらく、思い違いをして、不安になっているのだ。

 初めての時以来、ジョゼフィーネとの口づけは、ディーナリアスにとって、快いものでしかない。

 

 相性が悪いはずがない、と確信している。

 それまでの女性とは、まったく違う感覚だったからだ。

 最初は、自分の嫁だからだろうかと思った。

 けれど、相手がジョゼフィーネだからだと、今は気づいている。

 

 ディーナリアスは、彼女のなにもかもが愛しい。

 

 口づけを交わしていても、心もとなげにしている姿に、胸がきゅっとなる。

 こんなことなら、リスに言って、行事を後ろに倒させれば良かった。

 リスは大変だっただろうが、それがリスの仕事なのだから、構うことはない。

 婚姻や即位の祝祭行事が重なり、新婚旅行に出るのが遅くなったのを悔やむ。

 

 早く2人だけで過ごせる時間を作るべきだったのだ。

 ジョゼフィーネが、1人で思い悩む前に。

 

「多いかどうかはわからんが、確かに、女性とベッドをともにしたことはある」

 

 言うと、ジョゼフィーネが、いよいようつむいてしまう。

 比べられたくない、と思っているのかもしれない。

 ディーナリアスに、そんなつもりはないし、比べることもできないのだが、それはともかく。

 

「手慣れた者ばかりであった。俺には婚姻する意思がなかったのでな。長く関係を続ける気もなかった。体の関係を、否定はせぬさ。だが、愛しく思い、夜をともにした者はおらぬ」

「そ、そう、なの……?」

「軽薄な男だとの(そし)りは免れぬやもしれぬがな」

 

 もっと早くジョゼフィーネと出会っていたら、という仮定は無意味だ。

 彼女とは政略的な婚姻を機に知り合った。

 これは、ジョゼフィーネ自身にも言われたことだが、もしほかの女性が婚姻相手として現れていたら、その女性を正妃として娶っていただろう。

 ジョゼフィーネとの出会いは、偶然の重なりに過ぎない。

 

「だが、お前は特別なのだ、ジョゼ」

 

 出会いが偶然だとしても、だ。

 今のディーナリアスにとって、ジョゼフィーネは、唯一の存在となっている。

 彼女以外の女性など考えられない。

 

「え、えと……あ、あの……」

 

 ジョゼフィーネが顔を上げた。

 頬が赤く色づいていて、とても可愛らしい。

 

「す、好きになった、人は……いなかった、の?」

「おらんな。どういう心持ちになるのか、考えたことすらなかった」

 

 言ってから、ちくりと胸の奥に嫌な痛みを覚える。

 ディーナリアスは、ベッドをともにした女性がいても、心惹かれた者はいない。

 が、ジョゼフィーネにはいたのだ。

 それが、幼い感情であったとしても。

 

 彼女には、婚姻を誓い合った男がいた。

 ただの口約束に過ぎず、相手の男に、その気はなかったと知っている。

 ジョゼフィーネにとっても、虐げられる環境で、救いを求めていただけだろう。

 とはいえ、彼女は、その男を「好きな相手」として認識していたのだ。

 

「ディーン?」

 

 首をかしげ、自分を見つめてくる菫色の瞳に、愛しさが募る。

 その愛しさが、嫉妬心や独占欲もかきたてるのだ。

 自分しか知らない彼女を見たかった。

 大事にしたいと思うのと同じ心で、ディーナリアスは、ジョゼフィーネを快楽に泣かせたい、とも思ってしまうのだった。

 

「俺は、お前が思っておるより、邪な男なのだぞ?」

「よこしま……?」

 

 膝に座らせているジョゼフィーネの頭を、ゆるく撫でる。

 独占欲を振り回したくなっているみっともなさと、理性の維持が難しくなりつつあることへの情けなさに、内心で苦笑した。

 そして、自分を信頼しきっている菫色の瞳に、若干の、後ろめたさを感じたりもするのだ。

 

 自分が想像していることを彼女が知れば、飛んで逃げるのではないか、と。

 

「ジョゼは、いつ箱を開けてくれるのであろうかと考えておる」

 

 ディーナリアスは、らしくもなく冗談を言ったつもりだった。

 からかう台詞と口調に、ジョゼフィーネも肩の力を抜くことができるだろう。

 急ぐ必要はないと思えるに違いない。

 そんなふうに考えてのことだ。

 

 なのに、ジョゼフィーネは、突然、顔を真っ赤に染めた。

 あげく、ぴょんっと膝から飛び降りてしまう。

 ディーナリアスは、自分がなにを間違えたのかが、わからず茫然とする。

 声をかける間もなく、すたたたたっと、ジョゼフィーネが離れて行った。

 

「怯えさせてしまったか……」

 

 正妃選びの儀の日を思い出す。

 ジョゼフィーネは、適温であるはずの広間で、ぷるぷるしていた。

 その後も、身を硬くして、緊張しっ放し。

 その際、ディーナリアスは、自分はそれほど恐ろしく見えるのかと思ったのだ。

 

 ジョゼフィーネが、自分を好いてくれているのは知っている。

 だからと言って、男女の関係に慣れていない彼女が怯えるのは当然だった。

 自分にとっては冗談でも、ジョゼフィーネにとっては違う。

 体の関係を強要されたと捉えられている可能性もあった。

 

(我が君)

 

 ほんの少し不機嫌さが滲む。

 ジョゼフィーネを探し、誤解を解かなければと立ち上がったところだ。

 リロイが重要な件でなければ、連絡して来ないとわかっていても、2人の時間を邪魔された気分になる。

 

 ディーナリアスからすると、たった、ひと月の新婚旅行。

 すでに半月しか時間は残されていない。

 王都に戻れば、公務だのなんだので、否が応でも忙しくなる。

 ジョゼフィーネと2人でゆっくりと過ごす時間も減るのだ。

 

(ご正妃様が、先にお休みください、と仰られております)

(先に……? ジョゼはいかがする?)

(あとからお休みになられる、とのことにございます)

 

 ジョゼフィーネを、かなり怖がらせてしまったらしい。

 まるで、巣穴に潜り込んでしまった子ウサギのようだ。

 今さら、冗談だったと言っても、警戒心は解かれないだろう。

 ディーナリアスは、大きく溜め息をつく。

 

(わかった。先に休むと伝えよ)

 

 カウチから立ち上がり、寝室に向かった。

 ジョゼフィーネの走り去ったほうを振りむいたが、姿はない。

 明日の朝、しっかりと話をしよう、と思う。

 ディーナリアスの中には、流すとか、そっとしておくとか、蒸し返さないとかの選択はなかった。

 

 すれ違ったままにしておけば、溝は深まるばかりだ。

 ディーナリアスは、勘違いから、ジョゼフィーネの言葉を聞かずに、口を封じたことがある。

 そうしたことは1度で十分だった。

 同じ過ちを繰り返す気はない。

 

 ベッドに横になり、深い溜め息をつく。

 なにから話をしようかと考えていた時だ。

 キ…と、かすかに音がする。

 扉が、わずかに開き、ジョゼフィーネが顔だけを覗かせていた。

 

「ジョゼ? なぜ入って来ぬ?」

「ちょっと……き、気合いを……入れてる……とこ……」

「気合い? どういう意……」

 

 パッと扉が開き、ジョゼフィーネが飛び込んで来る。

 

「じゃじゃーん! な、なんちゃっ、て……」

 

 軽く両手を広げてみせているジョゼフィーネは、恐ろしく可愛らしかった。

 恥ずかしいのだろう、顔を赤くしている。

 

 ぽすっ。

 

 心臓に、なにかが刺さった。

 ような気がした。

 

 すくっと立ち上がる。

 目をしばたたかせているジョゼフィーネを抱き上げた。

 彼女は、ディーナリアスが選んだ「寝間着」を着ていたのだ。

 リスが贈った艶めかしい物とは違うが、ジョゼフィーネの愛らしさを引き立たせているのは間違いない。

 

「は、箱、開けた、よ……? あ、あの、あのね……ディーンは、よこしまでも……カッコいいと……思う……」

 

 ジョゼフィーネに、恰好の悪いところは見せたくないと思っている。

 なので、心の中でだけ呻きつつ、なんとかぶっ倒れるのを阻止。

 そして、冷静さを装いつつ、寝室に向かった。

 

(これはもう……なんとしても無理であろう……俺の嫁は愛らし過ぎるのだ……)




基になる話の直後に書いた話でしたので、かなりビクビクしておりました。

主人公、相手役ともに、前の話とは、まるで違うタイプでした。

なので、次を楽しみにしてくださっていたかたに「期待外れ」と言われるかもしれないと、ビクビクしておりました。

可愛さやカッコ良さにも、色々あるので、内容はワンパターンでもキャラクターは個性を出したいなぁと思いつつ、書いておりました。


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― 新着の感想 ―
[一言] ジョゼとディーナリアスはなんだかずっとナデナデが印象に残っていて、もどかしい! でもたまんない! というカップルだな~と思ってました。おいろけシーンもあるのに、なんだか痛々しい感じがするのは…
[一言] 寝間着がどういうものかは明かされないわけですね。二人の秘密? 巨乳を、ディーンは推定し、リロイは知らないといい、リスは理解しているようですが、字引きには書かれていないと解釈したとして。2冊…
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