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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第2章:生真面目君主とわけあり令嬢(ディーン&ジョゼ)
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心の準備はできたはず?

 ジョゼフィーネは、小さく溜め息をつく。

 自分の勇気のなさにも、辟易していた。

 なにかに積極的になったこともない自分を、十分に自覚している。

 ここでの過ごしかたも、ディーナリアスに任せきりだ。

 

 ジョゼフィーネには、基本的に自己主張というものがない。

 強い意志で「こうしたい」と思い、行動することは稀だった。

 とくに、ディーナリアスに対しては、従順と言える。

 彼が怖いからでも、夫だからでもない。

 

 好きだからだ。

 

 ディーナリアスを信頼しているし、彼が楽しそうにしているとジョゼフィーネも楽しい。

 彼が嬉しいと、彼女も嬉しくなる。

 一緒にいられるのが幸せで、場所は関係なかった。

 

 のんびり庭を散策するのも、城内を見て回るのも、ディーナリアスと手を繋いで歩いているだけで、胸が暖かくなる。

 2人の会話は、そう多くはないのだが、それでも気まずさはない。

 自分のたどたどしさを、彼が待ってくれるからだ。

 

 こういう言いかたは、本来、自分には分不相応なのかもしれなかった。

 けれど「愛されている」と感じる。

 

 なのに。

 

 ディーナリアスに、なにも返せていない。

 ベッドをともにすることを「つとめ」だと考えてはいけないと、ディーナリアスからは言われている。

 ジョゼフィーネも、今はもう「つとめ」だとは思っていなかった。

 

 とはいえ、なにもなければないで、不安にもなる。

 女性として求められてはいないのだろうかと。

 口づけから先に進めないのは、自分の身体的な魅力のなさではないのかと。

 

(あれも……まだ、開けて、ないし……)

 

 ディーナリアスから渡された箱に、思いを巡らせる。

 自分から頼んでおきながら、箱の蓋すら開けていなかった。

 そういう雰囲気にならなかったというのもあるけれど、開くのが怖かったのだ。

 開いてしまえば、後には引けない。

 中に入っているものを手にすることになる。

 それが怖かった。

 

 はっきり言って、ジョゼフィーネは、男性とベッドをともにする「状況」というものを想像できずにいる。

 どうすれば、そういうことになるのか。

 ディーナリアスが主導してくれるのだろうし、その流れに、自分は身を任せればいいと、そう思っていたからだ。

 

 が、実際には、ディーナリアスは、なにもしてこない。

 一緒に眠っていても、王宮にいる時と同じ。

 

(でも……あれを、着たら……私が誘う?みたいな……?)

 

 婚姻祝いに、リスからもらった寝間着は、ディーナリアスの好みではなかった。

 そのため、ジョゼフィーネは、ディーナリアスの好みの寝間着を選んでほしいと頼んでいたのだ。

 そして、ディーナリアスの好みらしき寝間着が「箱」には入っている。

 

(に、似合わなかったら……がっかりされる、かもしれないし……)

 

 ジョゼフィーネが怖いのは、ベッドをともにすることでも、誘うような寝間着を身につけることでもない。

 その寝間着が自分に似合わなかったら。

 ディーナリアスを落胆させたら。

 

 結果、拒まれたら。

 

 それが、怖いのだ。

 ジョゼフィーネは、駄目なら再挑戦、などという勇気が持てずにいる。

 前世も含めて、初めて恋をして、好きになって、絶対に離れたくないと思えた人なのだ。

 1度でも失敗したら、2度と踏み出せそうにない。

 

「ジョゼ」

 

 声をかけられ、顔を上げた。

 ディーナリアスは、とても真面目な顔をしている。

 彼は、なにに関しても、生真面目に物事を考える性格の人だった。

 

「体には相性というものがある」

「相性……?」

「そうだ。誰しもが胸の大きな女を好むとは限らんのだ」

「そ、そう……? だけど……大きいほうが……いいのかなって……」

「リロイは、大きさより形だと言っておったぞ」

「え…………」

 

 ジョゼフィーネは、言葉をなくす。

 あのリロイが、そちら方面のことを考えていたなんて信じがたかったのだ。

 女性に興味がないものとばかり思っていた。

 しかも、そんな具体的なことを言うとは、意外過ぎる。

 

(そ、そう、なんだ……大きさだけじゃなくて……形……私は、どうなんだろ……それも……自信、ないな……あんまり、見ないけど……)

 

 王宮に入ってから、自分の体を自分で洗うことがなくなった。

 ここにも同行しているが、ジョゼフィーネ付きの侍女サビナを含めて、何人かの侍女が世話をしてくれる。

 それが「正妃」として当然らしい。

 

 とはいえ、不慣れなジョゼフィーネにとっては恥ずかしいことだった。

 だから、洗われている時には、極力、意識しないよう、自分の体も、侍女たちのことも見ないようにしている。

 自分の体だというのに、大きさはともかく、形まで正確に把握はしていない。

 

(……相性……相性って、なに……? まさか……)

 

 思い立った時、ザッと血の気が引いた。

 ディーナリアスが口づけ以上をしないのは、そのせいなのではないか。

 1度だけ胸にふれられたことがあるのを思い出していた。

 

(せ、生理的に、受け付けない……ってこと、かも……あるよね、そういう……)

 

 ジョゼフィーネが前世で、人と関わりを持っていたのは、12歳頃までだ。

 性格など、とくに嫌いでもなかったのに、どうしても生理的に受けつけない、と感じる教師がいたのを覚えている。

 そして、恋をしていたはずの、幼馴染みであるアントワーヌのこともあった。

 

 口約束ではあったし、相手は本気でもなかったが、アントワーヌとは婚姻の約束までしていたのだ。

 なのに、実際にふれられると、嫌な感じがした。

 その頃にはもうディーナリアスに恋をしていたからかもしれないけれど。

 

「ジョゼ? 顔色が優れぬようだが、いかがした?」

「……ディーンは、私にさわるの、イヤじゃ、ない……?」

「毎日、さわっておるではないか」

「そうじゃなくて……」

 

 ジョゼフィーネの頭は、かなり混乱気味。

 子供ができなくてもかまわない、と言っていたのは、自分の体に興味がなかったからかもしれない、とさえ思い始めている。

 1度だけ胸にふれた際、嫌悪感をいだかれたのかもしれない、とか。

 

 きっと「相性」が悪かったのだ。

 

「なにを考えておる?」

 

 くいっと、顎を持ち上げられる。

 緑色の瞳で見つめられ、じわ…と涙が浮かんできた。

 この人に嫌われたら、自分はどうなるのか、と思う。

 ましてや「生理的に受け付けない」だなんて最悪だ。

 

「私、ディーンと……あ、相性……悪かった……?」

「それはない」

 

 ジョゼフィーネの目元を、ディーナリアスが親指で撫でている。

 その瞳の緑が、わずかに濃くなった気がした。

 すいっと唇が近づいてくる。

 ディーナリアスの胸のあたりを握り締め、目を伏せる。

 

(あ……くるんって……する……ほう……)

 

 重ねた唇の間から、やわらかなものが滑り込んできた。

 くるんっと、ジョゼフィーネの舌が絡めとられる。

 新婚旅行に来てから、初めてだ。

 それも不安の種だった。

 

 くるんっという感触が、心地いい。

 体の相性は定かでないけれど、口づけの相性はいいのだろう。

 ディーナリアスも、くるんとする口づけは好きらしいし。

 

(体の相性……まだ、わかんない、だけ……なのかな……?)

 

 口づけの甘さに、少しだけ前向きになる。

 ジョゼフィーネは、勇気を出してみようか、と頭の隅で思っていた。


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