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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第2章:生真面目君主とわけあり令嬢(ディーン&ジョゼ)
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訊きたいことが多いのです

 

 きょにゅう。

 

 おそらく、前世の記憶にある言葉だろう。

 ディーナリアスは、ジョゼフィーネに前世の記憶があると打ち明けられていた。

 彼女の記憶にある言葉とロズウェルドで「新語」とされている言葉は、ほとんど一致している。

 その「新語」をまとめた「民言葉の字引き」を編纂したのは、ディーナリアスの曾祖父だ。

 

 かつて新語を使っていた女性は、自分と同じ世界から転生してきたのかもしれないと、ジョゼフィーネは言っていた。

 が、その女性は、すでに他界しているため、確かめるすべはない。

 ディーナリアスの曾祖母にもあたる女性なのだが、どういう人であったのかは、ほとんど文献が残されていないのだ。

 

 なでなで、なでなで。

 

 ジョゼフィーネの薄い緑色をした髪を撫でる。

 (スミレ)色の瞳が、小さく揺れていた。

 

(意味を聞くべきであろうか。いや、しかし……俺が、その“きょにゅう”を好みとしており、自分はそうではない、とジョゼは思っておるようだ)

 

 言葉について深く聞くのは、あまり良い方法ではない気がする。

 ジョゼフィーネは、小さなことにも傷ついてしまう、とても脆い女性なのだ。

 ほんのちょっぴりも傷つけたくはない。

 ディーナリアスが、誰よりも大事にしている「嫁」でもある。

 

「なぜ、そのように思ったのだ?」

「……ディーンは、たくさん、ある、から……」

「たくさん?」

 

 ディーナリアスは、ジョゼフィーネの言葉を組み合わせて考えてみる。

 彼女は、言葉を操るのも苦手だった。

 が、そうしたところも、愛しいと思っている。

 少しも面倒には感じていない。

 

 胸が小さい。

 きょにゅうのほうがいい。

 たくさんある。

 

 ジョゼフィーネは、右手でディーナリアスの左胸あたりをつかみ、反対の手で、自分の胸を隠すようにしている。

 うつむいて、眉を、ふにゃりと下げていた。

 ひどく心もとなさそうな表情だ。

 

(そうか……ジョゼは……)

 

 彼女の心情に思い至ったところで、呻きそうになる。

 またもや自制心が吹っ飛びかけた。

 ジョゼフィーネには自覚はないのだろうし、それはわかっている。

 彼女は、けして「誘って」などいないのだ。

 

 本気で不安になっていると、頭では理解している。

 なのに、ディーナリアスは、そういう、いちいちに勝手に煽られていた。

 そう、勝手に。

 

 ジョゼフィーネは、肌の透けるような寝間着も着ていないし、ディーナリアスを誘うような仕草ひとつ見せない。

 ロズウェルドでは完全に大人と見做される16歳という年齢に対して、彼女は、とても幼いのだ。

 男女のいとなみについても、どこまで知っているか。

 

(体を気にしておるのだから、少しは知識があるのだろうが……)

 

 具体的なことまでは、わかっていないと感じる。

 わかっていれば、身体的な特徴など、ひとつの指標に過ぎないとわかるはずだ。

 女性の体は、それぞれに違う。

 そもそも。

 

(胸の大きさが、それほど重要であろうか?)

 

 確かに、大きな胸は、さわり心地はいいかもしれない。

 さりとて、体を重ねるとなれば、大きければ良いということにはならないのだ。

 少なくとも、ディーナリアスは、自分だけが快楽を得られる行為はない、と思っている。

 相手も快くなるから、より深い快楽が得られる、と考えていた。

 

 ディーナリアスは、こういった場面についても、生真面目に向き合っている。

 たとえ欲を満たす行為であったとはいえ、好き勝手に女性の体を扱ったりはしてこなかった。

 相手が、ジョゼフィーネとなれば、なおさら慎重にならざるを得ない。

 

 ある意味、ディーナリアスにとっても初めてのことだからだ。

 

 今まで、ベッドをともにしてきたのは、手慣れた女性ばかり。

 婚姻する気がなかったので、いっときの関係だと、お互い割りきれる相手としか体の関係は持っていない。

 男性を知らない女性との経験はなかった。

 

 参考になるかは不明だが、自分1人で結論づけるのも危険と判断する。

 本来、国王は魔術が使えないとされているし、ジョゼフィーネにも隠していた。

 が、ディーナリアスは、実は魔術を使える。

 ジョゼフィーネの手を握りつつ、側近に呼び掛けた。

 

(リロイ、リスを呼べ)

(かしこまりました、我が君)

 

 リロイは多くを語らなくても、きちんと心得ている。

 姿を現すことなく、ディーナリアスの即言葉(そくことば)に応じてきた。

 即言葉は、特定の相手との会話を可能にする魔術だ。

 もちろん、直接にリスこと、宰相のリシャール・ウィリュアートンに連絡をすることもできる。

 

 だが、それは側近であるリロイを無視することになるため、ディーナリアスは、必ずリロイを通じてリスと連絡を取るようにしていた。

 リロイが、それを不満に思ったりしないとわかっていても、あとから重ねて説明するほうが、よほど面倒でもあるからだ。

 

(っんだよ、うるせえなあ! 新婚旅行中に、ちょくちょく連絡してくんなよ! いつも、どーっでもいいことばっか……)

(お前は、きょにゅうが好みか?)

(は? なんだって?)

(きょにゅうだ)

 

 即言葉ではなく、複数で会話のできる集言葉(つどいことば)をリロイが使っている。

 当然に、リロイにも聞こえているはずなのだが、たいていは、口を挟まない。

 

(リロイ、お前はどうか?)

(恐れながら、我が君。私は、きょにゅうという言葉がわかりかねます)

(あー、そういうことか。なんだ、リロイ、わかんねーのかよ)

 

 魔術での会話は、声の抑揚がほとんど伝わらない。

 それでも、リロイのムッとした雰囲気が伝わってくる。

 

(だいたい野菜のリロイに、女の体のこと聞くほうが、どうかしてるぜ)

(それは、かぼちゃのことであろう? そうか、リロイはかぼちゃであったか)

(いいえ、そういうわけではございません、我が君)

 

 王族の文献の中で、かぼちゃというのは、性に関心のない者と記されていた。

 ロズウェルドで使われることはないし、どちらかと言えば秘匿に近いことだ。

 なぜリスが知っているのかは、この際、問わないことにする。

 リスは、ディーナリアスが知らないような、巷の事柄にまで精通しているので、気に()める必要を感じなかった。

 

(あっそう。んじゃ、お前は、胸の大きい女が好きってことか)

(リス、あなたは単純に過ぎますね。大きさなど、さほど意味はありません)

(そうか。俺も、そう思うのだ)

 

 ディーナリアスの同意に、リスが不満そうに鼻を鳴らす。

 リスは大きさにこだわりがあるのかもしれない、と思った。

 

(けど、大きいほうが目につくだろ? つい見ちまうってのはあるじゃねーか)

(いいえ、大きさではありません。形です)

(形…………そういうものか)

 

 三者三様。

 意見がバラバラになってしまった。

 参考になったような、ならなかったような。

 

(ていうか、ディーンは、どうなんだよ? デカさ? 形?)

(どちらでもない)

(どちらでもない、と言いますと……)

 

 2人の意見は意見として尊重はする。

 そういう「好み」も実在するのであれば、ジョゼフィーネが気に病んでいることにも納得がいった。

 さりとて、ディーナリアスの観点は、いずれとも違う。

 

(反応だ)

(反……っ……ディーン、それは言わ……)

 

 繋ぐのはリロイに任せたが、切る際には、自分で切る。

 術者にしか魔術は解けないとされていても、ディーナリアスには関係ない。

 訊きたいことは訊けたため、ジョゼフィーネのほうに意識が戻っていた。

 まだしょんぼりしている彼女を安心させなければ、と思う。

 

(ジョゼは貴族教育を受けておらん。それゆえ、なおさら不安になるのであろう)


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― 新着の感想 ―
[一言] リカとリロイのおっぱいの趣味がわかった貴重な回でした…!なんだおまえら(笑)中学生か?! 貴重な集言葉で乳の好みを語り合う宰相と王様という展開に生温い笑みが浮かびますね…。
[気になる点] ディーンにとってジーンが曾祖父であるというのは元からある話で、他の話の人物も踏まえると、キースかキースにお姉さんがいたらお姉さんかどちらかの孫ということになりますね。 新語を使っていた…
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