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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第10章:人でなし主とじゃじゃ馬令嬢(ジェレミア&サミー)
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変わらないこと

 完全に油断しきっていた。

 まさか劇場で、あんなことになるなんて思ってもいなかったのだ。

 

(人目とか……彼には関係ないって忘れていたわ……それに……)

 

 頬が、かぁっと熱くなる。

 婚姻して、そろそろ2年目になろうかと言うのに、未だに慣れない。

 

 サマンサは「ほっそり」した体型になったが、だからといって、自分に確固たる自信を持てるようになったわけでもなかった。

 長年の「癖」みたいなものは抜けきれないのだ。

 そのため、彼が自分に嫉妬するのが不思議でならない。

 

 おまけに、彼は嫉妬心が非常に強かった。

 あげく隠す気もないらしく、平然と言い放ってくる。

 

(もともと彼は私の外見になんかおかまいなしだったけれど……)

 

 本当に、自分のどこにそこまで惹かれているのか、わからなかった。

 体型が変わって以来、男性の視線を感じるようにはなっている。

 嘲笑含みの目つきではなく、性的な意味での視線だ。

 好意的と言えなくもなかったが、そうしたものにサマンサはうんざりしていた。

 

 男女を問わず、貴族は外見で判断することが多い。

 ティンザーの家族以外で、彼女をまともに扱う相手はいなかったのだ。

 なのに、少し見た目が変わっただけで言い寄ってくるのだから嫌にもなる。

 

 手のひら返しは貴族の得意技。

 わかっていても、実直で誠実なティンザー気質なサマンサにとって気持ちのいいものではない。

 どれだけ称賛されようと、嘘くさいとしか感じられなかった。

 

 とはいえ、レジーは例外だ。

 彼以外では数少ない、サマンサをまっとうに扱ってくれた内の1人だった。

 レジーはとても親切で、良い関係を維持し続けてくれている、今も。

 

 友達よりは、少しだけ親しいと言える間柄だ。

 たとえば悩みを打ち明けたり、相談を持ち掛け易かったりする。

 感じの悪いローエルハイドの執事ではなく、アシュリーのために茶会を開こうと考えた際、招待客選別の相談相手として頭に浮かんだのもレジーだった。

 

(彼が、まだレジーにこだわっているとは思わずに行動したのは、慎重さに欠けていたかもね。でも、彼が嫉妬するってことだって忘れがちなのだから、しかたないじゃない。森での暮らしは平穏そのものなのに……もしかしてアドラントの屋敷に戻りたがらないのは……)

 

 アドラントにレジーがいるからではなかろうか。

 なんだか、そんな気がしてくる。

 

(子供ができると性格が丸くなるっていう話は、彼には当てはまらないようね)

 

 行きは馬車を使ったのに、帰りは「あの個室」から王都の屋敷に直行。

 彼は点門という、点と点を繋いで移動する魔術を簡単に使うのだ。

 おかげで、お芝居は2幕目すら観られなかった。

 

 あの個室でも散々、屋敷の寝室でも散々。

 

 朝に出かけたはずだったが、すでに夕暮れが近づいている。

 途中から記憶が曖昧だ。

 サマンサは寝室のベッドの上。

 上掛けをはぐって自分の体を見た途端に呻いた。

 

「あの子を迎えに行く前に、全部、治癒してもらうわよ!」

 

 首元まで襟のある服を着ても隠せるかどうか。

 彼の残した痕は、耳の後ろっかわまでありそうだ。

 鏡を使って見るまでもない。

 その辺りが、ちりちりと小さく痛んでいる。

 

 サマンサはベッドから降りて。

 

「……あ……まったくもう!」

 

 へなへな…と、膝がくずおれてしまった。

 腰にも足にも力が入らない。

 それでも、なんとかクローゼットを開く。

 1番、着替えが楽そうなものを手に取った。

 

 一緒に来てくれたメイドのラナを呼べば良かったのかもしれない。

 しかし、こんな姿を見せるのは、さすがに恥ずかし過ぎる。

 床に這いつくばるようにして、ようよう着替えをすませた。

 その上で、力の入らない足を叱咤して立ち上がる。

 

 髪をおろし、首元を隠し、さらにはショールで首筋から胸元を覆った。

 よれよれしながら、寝室を出る。

 彼に「治癒」させなければ、ティンザーの屋敷にも行けない。

 治癒後、彼を()(ぱた)いてからの話だが、それはともかく。

 

「……のよ、ジェレミー」

 

 不意に、甘ったるい声が耳に入ってきた。

 聞き覚えのあるアクセントと口調だ。

 なぜ、ここにいるのかは知らないが、相手が誰かはわかる。

 

 マルフリート・アドラント。

 

 アドラント王族のマルフリートは、今では「女王」となっていた。

 元は別の国だったため、ロズウェルドの王族とは別に、アドラントには独自の王族が存在している。

 マルフリートはサマンサと彼が婚姻して2ヶ月を過ぎた頃から動き出し、結果、望んでいた「権威」を手に入れたのだ。

 

「私が、お忍びをしてまで、ここに来たことの意味はわかるのではなくて?」

「たとえ、わかっていたとしても、私は面倒事になるのは、ごめんだね」

「ジェレミー、私の気持ちを、あなたなら理解できるでしょうに。隠れてコソコソするようなつきあいを私が望むとは思う?」

 

 戴冠式の時のマルフリートの姿を思い出す。

 綺麗に結い上げた白金色の髪と、彼女を飾る王冠。

 同じ白金色の瞳には幼さはなく、堂々としていて威厳さえ感じた。

 民を前に語る口調も今とは違い、甘ったるさはなかったと思う。

 

「やっぱり、私には、あなたしかいないのよねえ、ジェレミー」

 

 どくり、と心臓が音を立てた。

 前は、彼とマルフリートが「取引」をしたと勘付いていたので平気でいられた。

 だが、今の会話に「取引」らしいところは、まったくない。

 それどころか、言いかたはともあれ、マルフリートは懇願している。

 

(彼女……いえ、女王陛下は彼を口説いているの……?)

 

 対して、彼も彼で、きっぱりとマルフリートを拒絶しているふうでもない。

 サマンサの頭が混乱してきた。

 2人がおかしな仲になっているとは、とても思えずにいる。

 なのに、妙な空気に胸がざわついた。

 

「ねえ、ジェレミー。奥様には御子ができたのでしょう? それなら見切りをつけてもいい頃ではなくて?」

 

 見切り、とは、どういう意味だろうか。

 サマンサの心が、ひと際、大きくザワッと揺れた。

 マルフリートがこういう調子なのは、以前からだ。

 それを彼はサマンサよりも知っている。

 

(なぜ、はっきりと断らないの?! 私がこんなふうになるまで……散々なことをしておいて! それとこれとは別だなんて言ったら、脛を蹴り上げてやるわ!)

 

 サマンサは威勢良く、ホールの扉をバーンと開け放ちたかったけれども。

 体がよれよれだったため、力なくギイッと扉を開けるしかできず、誠に不本意な登場となってしまった。


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