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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第1章:理想の男性(ヒト)はお祖父さま(ジョシュア&レティ)
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緊張やら期待やら

 彼の体に寄りかかったまま、レティシアは固まっている。

 耳が、じんじんと痛い。

 

(む、無理……無理だから、マジで……腰抜け……いや、違う、腰が抜け……てるかもしれない……座ってるから、わかんないだけで!)

 

 今までも、彼には、幾度となく額や頬に口づけをされていた。

 特別なことでもなんでもない。

 なのに、一瞬で、本の世界から引き戻されている。

 しかも、耳元で囁かれ、魂が口から出てしまいそうだ。

 

(わ、私が本を落としたからってだけで……なぁあんにもおかしなことは言われてない……なのに……なのに……なに、コレ……ヤバいんデスけど……)

 

 以前から、彼のことを考えたり思い出したりするたび、レティシアは「心の旅」もとい、ぽやぁとすることが多かった。

 が、これは「心の旅」どころではない。

 本気で、魂が、ひょろろろろっと抜け出そうな気がする。

 

「大丈夫かい?」

 

 横から、ひょいと顔を覗き込まれ、ぶわっと顔が熱くなった。

 座ったまま、気絶しそうだ。

 

(ぐぅう……素敵過ぎる……なんでもないことが、なんでもなくなるくらい……)

 

 そもそも、彼は、レティシアの理想の男性。

 その彼が、今は、自分の夫。

 婚姻の式をすませても、未だ信じられない気持ちでいる。

 とはいえ、これは現実なのだ。

 

 彼は、彼女の「旦那様」であり、祖父ではない。

 

 意識すると、じたじたしたくなる。

 嬉しいのか、恥ずかしいのか、わからないような気持ちだった。

 落ち着けと言い聞かせるも、まったく効果はない。

 心臓は、ばくばくし通しだ。

 

「もう読書は終わりにするかい?」

「……う、うん……き、今日は、ここまでで……」

「続きは明日」

 

 パッと本が消える。

 彼は、特異な魔術師だ。

 通常、魔術には動作が必要となるが、彼には必要ない。

 ポケットに手をつっこんだままでも、自在に魔術を操れる。

 

「では、寝ようか」

 

 ずきゅーん、ばきゅーん。

 

 擬音が心臓に刺さる漫画の1シーンが頭に浮かんだ。

 まさに、そういう感じだった。

 ともすれば、うぎゃあ!と叫んで、部屋を飛び出してしまいたくなる。

 レティシア自身、わけがわからない。

 

 好きな人に愛されていて、結婚できたのだ。

 嬉しいに決まっている。

 逃げ出したくなる理由などない。

 にもかかわらず、裸足で逃げ出したくなる気分を止められずにいる。

 

「い、今頃、サリーたち、ど、どうしてる、かなぁ?」

 

 なにか話していなければ、おかしな言動をしかねなかった。

 同じ日に婚姻の式をした執事のグレイと、メイド長のサリーのことを思い出し、話題にしてみる。

 とたん、きゅっと腰を抱きしめられた。

 

(い、いつの間に~っ? き、気が付かなかった……)

 

 本に熱中していて気づかずにいたが、彼の腕が腰に回されている。

 当然なのだけれど、やはり「男の人の腕」と感じた。

 レティシアは意識し過ぎて、あわあわしている。

 最早、まともな思考は残されていない。

 

「新婚旅行中だからねえ。サリーが、グレイを押し倒しているのじゃないかな」

 

 藪蛇。

 

 そんな言葉だけが、頭の周りをウロウロしていた。

 そう、2人は、現在、新婚旅行中なのだ。

 先に行くよう勧めたのはレティシアだった。

 彼らは、レティシアたちより先に出かけるなんてと恐縮していたのだが、彼も、同意し、2人を送り出している。

 

 色っぽいことから離れようとしたのに、むしろ、近づけてしまった。

 このままでは、本気で、おかしげな声をあげてしまうかもしれない。

 そんなみっともないことはできない、とは思うのだけれど。

 

(いい歳して……幼稚っていうか……落ち着きのなさが半端ないわ、私……)

 

 自分でも呆れているし、やはり、わかってもいるのだ。

 さりとて、感情というものは、いかんともしがたい。

 彼の近くにいると意識するだけで、心が右往左往する。

 突然に現れた憧れの芸能人を前に、サインを求めることもできず、オタオタしている、といった感覚に似ていた。

 

「私の妻は、とても可愛いね」

 

 ちゅ…と軽く頬に口づけられ、本気で、くらっとする。

 そして、ハッとなった。

 

(も、もしかして……これ……本気モード……っ?!)

 

 彼は、女性の扱いに慣れている。

 が、自ら口説いたことは、ほとんどないと聞いていた。

 以前、ほんの少し「練習」されただけで、倒れそうになったこともある。

 その後、本気モードを1度だけ体験したが、やはり膝が崩れそうになった。

 

(い、いや、待て、私……そう、そうだよ、私たちは結婚してる! そ、そういうことになっても、おかしくない! ていうか、なるほうが自然!!)

 

 支離滅裂。

 

 そんな言葉が浮かんだが、慌ててかき消す。

 そもそも結婚して7日が経っていて、同じベッドに入っているのに、なにもないほうがおかしいのではないか。

 普通なら「初夜」を迎えているはずだ。

 

(だよね~……読書とかないわ~……私、なにやってんの……)

 

 思うものの、体が緊張してくる。

 がっちがちの、かちんこちん。

 腰に回されている腕にばかり意識が向いていた。

 

 なにをどうしたいのやら。

 

 彼のことが好き過ぎて、収拾がつかない。

 もとより、性的なことは苦手で、あちらの世界にいた頃は、極力、避けていた。

 そのせいで、こういった場合の取るべき態度がわからずにいる。

 というのも、彼にふれられるのが嫌ではないからだ。

 

 心地いいし、頭の端っこでは、ちょっぴりの期待もある。

 しかし、それが、なにより恥ずかしい。

 

「レティ? 機嫌を損ねてしまったかな?」

「えっ?!」

 

 焦って、振り向いた。

 とたん、ぷっと笑われる。

 その顔に、またしても、やられてしまった。

 振り向いた格好のまま、レティシアは固まっている。

 

 以前なら、からかわれた、と少し拗ねてみせることもできた。

 なのに、今はできない。

 そういういたずらっぽいことをするところも、好きだと思うだけだ。

 なにより、彼の笑顔は、とても「素敵」だった。

 

 一瞬で、目どころか心も囚われてしまっている。

 

 彼の手が、そっとレティシアの頬にふれた。

 近づいてくる唇に、どきっとする。

 思わず、目を伏せた。

 

(キ、キ、キス~っ? は、初めての……っ……)

 

 心臓が、ばっくんばっくんしている。

 思考回路は、完全に停止状態だ。

 苦しいくらいに息を詰めていた。

 が、しかし。

 

 ちゅ。

 

 口づけされたのは額。

 気づいて、ぱちっと目を開く。

 彼が穏やかに微笑んでいた。

 

「そろそろ寝ようか、レティ」


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