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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第7章:理不尽陛下と跳ね返り令嬢(セス&ティファ)
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あれがこうしてそうなって

 この展開、どっかで見たことあるような。

 そんな気がする。

 

「陛下!」

 

 ルーファスが、己の腰にさしていた刀を、セスに向かって投げた。

 息室にはルーファス以外の者が訪ねて来ることもあったが、帯刀を許されているのはルーファスだけなのだ。

 セスが、片手で、それを受け取る。

 ティファを庇うように前に出ていた。

 

「いやあ、ヤバかったあ! ありゃ、なんだ? すげえな、あの雪嵐! ハンパな魔術師だと吹き飛ばされるぜ」

「誰だ、貴様」

「え~、弟のくせに、にーサマの顔も知らねーなんて、つれないじゃーん」

「なんだと……?」

 

 セスが振り向く。

 困惑といった顔をしている。

 ティファも、ちょっと混乱気味だ。

 転移で飛び込んできたのだから、魔術師なのは間違いない。

 相手の顔を、じぃっと見つめる。

 

 赤味がかった金髪に、ブルーグレイの瞳。

 

 瞬間、ハッとなった。

 セスの後ろから、相手のほうへと声をかける。

 

「もしかして……チェット?」

「そうそう! 久しぶり過ぎて、わかんなかった? 前に会ったのって、いつだったっけ? まぁ、いいや、お前がチビだった頃だよな」

 

 セスも、じっと相手を見ていた。

 そして、刀にかけていた手をおろす。

 

「その瞳の色といい、髪といい……トマス国王の息子か」

「そ! 12歳から家出してるって聞いた?」

「聞いている。お2人とも心配しておられたぞ」

 

 従兄弟は相変わらずだった。

 相変わらず、自由奔放。

 ロズウェルドの国王トマス・ガルベリーと、ティファの叔母シンシアティニー・ローエルハイドの1人息子だ。

 

 王太子、チェスディート・ガルベリー。

 

 12歳で王宮から逃げ出して以来、戻って来ていない。

 どこにいるのか定かでなかったが、叔父と叔母は常に把握しているらしかった。

 

「いいんだよ、心配させとけば」

 

 チェスディートが、軽く肩をすくめる。

 そして、あっけらかんと言った。

 

「オレの心配してるうちは、長生きするだろ」

 

 本気とも冗談ともとれるような口調だ。

 セスは、刀から手をおろしてはいても、警戒は解いていない。

 ルーファスは、もっとはっきりと警戒している。

 

 ティファの父や兄、叔父や叔母は点門(てんもん)を使っていた。

 点門とは、点と点を繋いで移動する魔術だ。

 その際にできる2本の柱から、向こう側が見える。

 つまり、連絡はないものの、来る時には、門が開くため、事前にわかるのだ。

 今みたいに、バーンっと飛び込んできたりはしない。

 

「ていうか、あの雪嵐、マジすげえんだけど? どうやって、あんなもん作った? いくら魔力疎外で転移は防げねーって言っても、あれじゃ吹き飛ばされちまうっての。マジ、ビビったわ」

「そんな無理して、飛び込んで来なくても、お父さまかお兄さまに言えば、点門で来られたんだよ?」

「知ってるー。でも、1人で来たかったから」

 

 がっくりと、ティファは肩を落とす。

 前に会ったのは、まだ5歳の頃だ。

 そのため、自由奔放との印象しかなかった。

 だが、自由奔放というより、勝手気ままという感じに近い。

 父にも、そういうところはあるが、ここまで酷くはないと思う。

 

「ああ、そうだ。お前、ウチの養子になったんだよな? 実は直系でしたって事にしちゃわない? そんで、ロズウェルドの国王になんない?」

 

 民言葉がわかる、ティファとセスは、唖然となった。

 ルーファスは、3人の顔を見比べ、良くないことが起きていると察したらしい。

 顔をしかめている。

 

「オレ、向かないと思うんだよね。国王とか、面倒くさいじゃん? お前のほうが向いてる。ロズウェルドの言葉も民言葉もペラペラみたいだしー?」

「向いてるって……セス、テスアの国王なんだケド……」

 

 そりゃあ、向いてるでしょうよ、と言いたかった。

 実際、セスは、テスアの「良い国王」なのだ。

 ティファの言葉に、ルーファスがなにか感じ取ったのか、顔を蒼褪めさせる。

 

「陛下は、テスアの国王です! ロズウェルドに連れて行かれては困ります!」

「連れて行くなど人聞きの悪い。それでは、まるで人(さら)いのように聞こえる」

 

 チラっとルーファスに向けた視線が「怖い」ものになっていた。

 チェスディートは、こんなふうでも、叔母の血を引いている。

 つまり、ローエルハイドでもあるのだ。

 セスが、また刀に手をかけた。

 

「ルーファス、下がっておれ」

 

 黙って、ルーファスが下がる。

 父や兄とルーファスが顔を合わせたのは、婚姻が決まったあとだった。

 そのため、こうした雰囲気に、ルーファスは、まだ慣れていないのだ。

 額に汗が浮いている。

 

「チェット、セスとやり合う気はないよね?」

「場合によっちゃ、あるかもよ?」

「無理だよ、チェットじゃセスには勝てない」

「へえ! そりゃ、驚いた」

「セスは、ソルを斬ったんだよ? あなただったら、腕を斬り飛ばされる」

 

 チェスディートが、(まばた)き数回。

 両手を軽く広げ、降参といった態度を示した。

 

「試しにやってみたかったけどね。さすがに、そこまでする価値ねーなあ」

「貴様は、いったい、なにをしに来た? 俺に喧嘩を売りに来たのか?」

「いやいや、そんなわけねーじゃん。オレは、婚姻祝いを持ってきたんだよ」

 

 どうしてだろうか。

 なにか、ものすごく嫌な予感がする。

 こんな従兄弟の祝いの品なんて、(ろく)な物ではないのではないか。

 ふと、頭によぎった想い。

 

(でも、わざわざ持ってきてくれたんだから、おかしな物ではないよ、ね?)

 

 11年振りに、ティファの婚姻祝いのため、ここまで来てくれたのだ。

 そこまで疑うのは失礼だと、思い直した。

 セスも、そう思ったのか、刀から手を離す。

 

「ほい、これと、これ!」

 

 ひょいっと放り投げられたのは、カラフルな小箱。

 ティファにはピンクと白、セスには青と紫の縞模様が入っていた。

 開けたくない。

 どうしてか、ものすごく開けたくない気がする。

 

「新婚半年目限定品。その間しか使えねーっていう、超めずらしい品なんだぜ? ほら、開けてみろって」

 

 促され、渋々、箱にかけられていた紐をほどいた。

 隣で、セスも、渋々といった様子で開いている。

 

 ぽふん。

 

 ティファの箱から、ピンクの煙。

 なんだ?と思った瞬間。

 

「わわわわ、私は、ななななななにも、なにも見てはおりませぬっ!!」

 

 ルーファスが、がばあっと平伏していた。

 ん?と思い、自分の体を見て。

 

 絶叫。

 

「ル、ルーファス!! さ、退がれ!! 今すぐ退がれ!!」

 

 飛び転げるようにして、ルーファスが息室を出て行った。

 セスも動揺しているようだが、ティファはかまっていられない。

 自分の体を抱きしめ、その場にしゃがみこんでいる。

 そのティファに、チェスディートが、あっけらかんと言った。

 

「いいだろ、その寝間着。オレの店で、1番、売れてんだぜ?」


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