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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第7章:理不尽陛下と跳ね返り令嬢(セス&ティファ)
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それとあれとは別ですか?

 

「そうなのですね! ルーの好みは、どういう人ですか? ルーが、どういう人を好きになるのか気になります!」

 

 なんだと。

 

 漏れ聞こえてきたティファの声に、イラっとする。

 なぜ、ルーファスが「どういう人を好きになるのか」が、気になるのか。

 そもそも、あれほど言っているのに、ほかの男の名を呼んでいるのは、どういう了見なのか。

 これだから、ティファを、ルーファスと2人にはしたくなかったのだ。

 

 もちろん、ティファのことも、ルーファスのことも信じている。

 2人がおかしな関係になる心配など微塵もしていない。

 が、そういう問題ではないのだ。

 気に食わないものは、気に食わない。

 

 セスは、息室の戸を、ガラッ!と乱暴に開いた。

 ティファは、きょとんという顔をして、こちらを見ている。

 セスの不機嫌さにも、気づいていないようだ。

 

「帰ったぞ」

「お帰りなさいませ」

 

 ティファが、セスのほうに体を向け、床に指をついて頭を下げる。

 正しい作法だ。

 言葉も、テスアのものを使っている。

 ルーファスがいるからだろう。

 

 2人の時は、ロズウェルドの言葉や民言葉を使ってもいいと言っていた。

 セスは、ティファの兄にしごかれ、民言葉も使いこなせる。

 現状、テスアで民言葉が通じるのは、セスとティファだけだ。

 つまり、2人だけの共通言語、とも言える。

 

 無自覚ではあるが、そのことに、セスは、ちょっぴり優越感をいだいていた。

 自分たちにしか分からない会話に、親密性を強く感じる。

 苦労をした甲斐があったというものだ。

 

 テスアの風習や作法を、セスは大事にしている。

 出会った当初は、ティファに強要もしていた。

 さりとて、今となっては、なにやらよそよそしく感じてしまうのだ。

 

 平たく言えば、人前でも自分たちにしかわからない会話をし、いかに親密な関係かを周囲に見せつけたい。

 そんなふうに思うことも、しばしばあった。

 

 ティファの髪や目の色が変わったことについて、周りはとくに気にしていない。

 もちろん、テスアでも、それがいかに「特殊」な色かは知られている。

 とはいえ、実際、ティファがなにかしたわけでなし。

 暮らしに変わりがないのだから、気にする必要もないのだ。

 

 むしろ、好意的な視線が増えている。

 と、セスは感じている。

 それが、うっとうしい。

 煩わしい。

 

(誰だ、ティファを、“スノードロップの君”なんぞと言い出した者は。絞め殺してやろうか。いや、それはできん。皆、俺の民なのだ)

 

 スノードロップとは冬に咲く花の名だ。

 厳しい冬を待っているとされてもいて、儚げな中にも凛とした強さを感じさせると言われていた。

 加えて、見た目に白く、健気で、たおやかな印象も持っている。

 

 その花に、ティファを見たてている者がいるのだ。

 はっきり言って、ティファには、まるでそぐわない。

 ティファは儚くもなければ、たおやかでもなかった。

 凛とした強さというより、無鉄砲な強さだし、健気さの持ち合わせがあるとは、とても思えない性格をしている。

 

 さりとて、そういうティファに、セスは惚れていた。

 簡単に手折られるような花ではないからこそだ。

 実際、手に入れるのに、どれほど苦労したことか。

 なのに、ここにきて、周りから「熱いまなざし」を向けられている。

 なんの苦労もしていない輩どもから。

 

 ティファは王妃としても認められていた。

 そのこと自体は、喜ばしいことだ。

 それ以外で注目されていなければ、苦々しく思うこともなかっただろう。

 

 断然、気に食わない。

 

 だからこそ、見せつけたくなる。

 自分とティファの仲は盤石で、付け入る隙などまったくないと知らしめたい。

 というわけで、最近のセスは、ちょっぴりイライラしているのだ。

 明らかに、ティファに会うことを目的にし、目通付(めどおりづけ)を申し出てくる者がいたりもするので。

 

(これでは、目通付の同伴を減らし、学びの時を増やしたのが逆効果ではないか)

 

 むうっとしながら、ティファの(そば)に歩み寄った。

 頭を上げたティファが、少し体を乗り出してくる。

 そういえば、さっきもこんなふうに、ルーファスのほうに体を乗り出していた。

 

「先ほど、ルーに婚姻のことを聞……っ……」

 

 セスは、しゃがみこむや、ティファの顎をつかみ、唇を重ねる。

 視界の端で、ルーファスが平伏していた。

 が、関係ない。

 繰り返し、口づけてから、顎を離す。

 

「な……なに……なにするのっ?! 急に!! ルーだって居……っ……」

 

 また口づけた。

 今度は長く深く唇を重ねる。

 抱き寄せていたティファの体が、くたっとなっていた。

 それを感じてから、唇を離す。

 

「な、なんで……こ、こんな……」

 

 ティファは涙目で、セスを睨んでいた。

 悪態をつきたいのだろうが、呼吸が乱れていて、言葉にならないらしい。

 その姿に、ふんっと鼻を鳴らす。

 

「俺は言ったはずだ。今後、ほかの男の名を呼ぶたび、仕置きする、とな。そこがどこであれ、誰がいようと仕置きされると覚悟しておけ、とも言っただろうが」

 

 ティファが、ハッとした顔をした。

 どうやら、ルーファスを名で呼んだのは、無自覚だったようだ。

 それほど、気軽に呼んでいる、ということでもある。

 

「い、いやぁ、大取(おおとり)が婚姻に興味が出てきたって聞いて、つい……」

「なにが、つい、だ。俺がいなければ、いつも呼んでおるのだろう。そのせいで、癖が出たに過ぎんのだ。俺を(たばか)れると思ったか」

「今後は気をつけます」

「仕置きされたければ、気をつけぬでもかまわん」

 

 ぷいっと、ティファが、そっぽを向いた。

 セスは床に寝転がり、ティファの膝に頭を置く。

 すると、なぜかティファが、顔を赤くした。

 ティファの感情は、コロコロと目まぐるしく変わるのだ。

 

「それで、お前は、なぜ婚姻に興味を持ち始めた?」

「お2人を見ておりますと、婚姻も悪くはないものだと思ったのです」

「しかし、お前に見合った者がいるか、難しいところだな」

「ですから、ティファ様の……」

 

 キロッと、ルーファスを睨みつける。

 ルーファスらしからぬ失態だ。

 王妃の名を、国王の前で呼ぶなど、有り得ない。

 どれだけ気が抜けているのか、と思う。

 

 すぐに気づいたのだろう、ルーファスが平伏しかかった。

 詫び事を言う前に、ティファが、つんっとした口調で言う。

 

「大取にも仕置きが必要なのではありませんか、陛下?」

「なんだと?」

「同じ失敗をしたのですから、当然でしょう?」

 

 ぴくぴくっと、セスの眉が引き攣った。

 なんという可愛げのない女だろうか。

 だが、そういうところも、可愛く思えてしまうのだから重篤だ、と思う。

 

「そうか。王妃たっての裁定であれば、しかたあるまい」

「へ、陛下……お、お戯れを仰られては……」

「戯れだと? 今まさに王妃より、お前の罰が言い渡されたではないか」

 

 セスは、すくっと立ち上がった。

 そして、ティファに向かって、ニっと笑ってみせる。

 自分をやりこめようだなんて百年早いのだ。

 

「ちょ……セス……あの……さっきのは……冗談……」

 

 焦っているティファに、もう少し思い知らせてやろうとした。

 その瞬間。

 

 バーンッ!!


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