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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第5章:うっかり王子とニセモノ令嬢(ダドリュース&キーラ)
20/40

うっとりしました

 ダドリュースは、内心、小躍りをしている。

 新年の祝賀の花火よりも、花火が盛大に上がっている。

 すっかり有頂天になっていた。

 

「私は、毎日でも、お前といたしたい」

 

 琥珀色の猫目が、見開かれている。

 とても可愛らしい。

 そして、恥ずかしそうに胸の(うち)を語ったキーラは、ものすごく可愛らしかった。

 ダドリュースの理性を木端微塵に砕け散らせるほどに。

 

(まさか、キーラが……てっきり嫌がっているものと思っておったのだが)

 

 いわゆる「初夜」で、ダドリュースは、キーラに平手打ちをされている。

 ぶたれた理由を「自分が強引だったから」だと、思っていた。

 合意は取れていても、もっとキーラの意思を尊重すべきだったと反省している。

 おまけに、ダドリュースは、誘いかたを知らない。

 

 結果、視線で、自分の気持ちを伝えることくらいしかできずにいたのだ。

 ナイジェルの言葉も気になっていた。

 

 『妻からは少し控えてくれと言われたりもするのですが、新婚ですから、まぁ、しかたないかと』

 

 いいや、しかたなくなどない。

 言いはしなかったが、ダドリュースは、そう思った。

 新婚であろうとなかろうと、相手の気持ちは尊重すべきだ。

 キーラに我慢させてまで、ベッドをともにしようとは思っていない。

 

 強引なことばかりしていては、(うと)まれる可能性だってある。

 ある日突然、背を向けられるかもしれない。

 ベッドをともにするということは、互いの気持ちが真に「合意」していなければならないと、ダドリュースは考えている。

 

 だいたい、キーラに拒否されたら、立ち直れない。

 

 もうあなたとはベッドをともにしません、などと言われたら。

 あんなに可愛らしいキーラを見られなくなるなんて、その先の人生は真っ暗だ。

 考えただけでも、泣きそうだった。

 

 ダドリュース・ガルベリーは、心底、残念な男なのだ。

 

 けれど、それらはすべて勘違い。

 キーラは、嫌がってなどいなかったのだ。

 そうとわかれば、我慢することもなかった。

 

 わふっ。

 

 キーラならば、そう聞こえたかもしれない。

 ダドリュースは、キーラに飛びつくようにして、ソファに押し倒す。

 そして、額に頬にと、口づけをした。

 

「ちょ……っ……ダド……」

 

 キーラの言葉を遮り、唇を重ねる。

 初めての口づけは、キーラからだった。

 ダドリュースからしたことは、あまりない。

 キーラが嫌がっていると思っていたからだ。

 

 キーラは、されるより、するほうが好み。

 どこかで、そう結論づけてもいた。

 が、もう我慢する必要はないのだ。

 好きなだけ、キーラに口づけたり、ふれたりできる。

 

 ダドリュースの頭には、花火が上がりっ放し。

 とにかく嬉しくてしかたがない。

 唇を重ね、手でキーラの頬を撫でる。

 寝間着が邪魔だ、と感じた。

 

「ダ……ダド……ちょ……」

 

 唇を軽く合わせつつ、寝間着を「なんとか」しようとするも、うまくいかない。

 いつもは、キーラ自ら、脱いでくれていたからだ。

 その間、ダドリュースは大人しく待っていたのだけれども。

 

「ダドリー! ステイッ!!」

 

 びたっ。

 

 ダドリュースは、聞き慣れない言葉に、動きを止める。

 キーラが、赤い顔をして、小さく睨んでいた。

 

「すてい? 私に、なにかしてほしいことか?」

「そうだよ! 待てって意味! わかった?!」

「なぜだ? 私から誘ってもよいと言ったではないか」

「言ったけど、極端過ぎじゃない?」

「今までは、我慢をしておったに過ぎぬ」

「そうだったんだ……」

「お前に平手をされたのでな。嫌がられておると思ったのだ」

「あ……あれは……」

 

 キーラが、上を見たり、下を見たりと、目を泳がせている。

 やがて、手を伸ばし、ダドリュースの頬にふれてきた。

 キーラにふれられるのは、とても心地いい。

 平手打ちを食らわせてきた手すら愛おしかった。

 

「いきなり、裸にしたりするから……びっくりしたのと、恥ずかしくて、つい手が出ちゃったんだよ」

「そうであったか。しかし、ドレスも寝間着も邪魔ではないか?」

「ダドリー、あんまり即物的過ぎるのは、どうかと思う」

「即物的……」

 

 もしかすると、元々、キーラのいた世界と、この世界とでは、性的な考えかたに違いがあるのかもしれない。

 ロズウェルドだけとも考えられるが、男女のいとなみについて、親しい者と話すのは一般的なことだった。

 そして、お互い、その気であれば、即行為となるのも、めずらしくはないのだ。

 

「私にだって理想っていうか、こんなふうだったらいいなぁっていう夢があったんだからね。その私の理想の初夜の中に、いきなり全裸っていうのは、ない」

「…………お前の理想を、私は台無しにしたのだな……」

「台無しと言えばそうだけど……ダメだったってわけでもないよ」

 

 しょんぼりするダドリュースを、キーラが抱きしめてくる。

 すぐに、ぎゅっと抱きしめ返した。

 それでも「駄目ではなかった」と言ってくれるキーラは、やはり心根の優しい女だと思う。

 

 ダドリュースは女性経験どころか、恋もキーラが初恋だ。

 そのため、女性に、そうした理想があるとは知らずにいた。

 本当は、もっと、よく「好み」を訊いておくべきだったのだ。

 

「お前がどうしてほしいのか教えてくれれば、そのようにする。できるだけ詳しく教えてくれぬか?」

「え…………いや、それはちょっと……サシャに訊けば?」

 

 がばっと体を離し、キーラの顔を見つめる。

 頬を赤くしているキーラは、とても愛らしい。

 が、しかし。

 

「なぜサシャなのだ?! サシャには話しておったのか?! 私ではなく、なぜ、サシャにだけ話したのだ?!」

「言ってません。サシャなら知ってるはずだって思っただけ」

「そうか。言っておらぬのならばよい。確かに、サシャなら知っていそうだ」

 

 少しだけ考える。

 サシャに相談したほうが早いことは、多々あった。

 とはいえ、なんとなく釈然としないものを感じる。

 

「私は、お前から訊きたい」

「なんで、そうなるわけ?」

「たとえサシャであろうと、お前とのことを話すのは気が進まぬ。私とお前だけの話にしておきたいのだ」

 

 2人は、国王と正妃という立場であり、世継ぎも求められている。

 自分とキーラがベッドをともにしているのは、公然のことであり、秘密でもなんでもない。

 だからといって、その内情まで、人に知られたくはなかった。

 

 「何人たりとも、我らの間に介させる気はない」

 

 ベッドの中でのことは、自分たち2人だけの大事な世界なのだ。

 誰であれ、踏み込まれるのは嫌だった。

 

「あ~……うん……それは、わかる……」

 

 ふわん…と、キーラの頬が、さらに赤味を増す。

 それから、ダドリュースの首に、くるんと腕が回された。

 

「ダドリー、大好き。すっごく好き」

 

 なにがキーラの心に刺さったのかまでは、ダドリュースにはわからない。

 ただ、キーラに愛されていることは、実感している。

 すかさず、キーラを抱き上げた。

 

「もう魔術は使わないでよね……ちゃんと、教えるから……」

 

 キーラの小さな声に、胸の奥が暖かくなる。

 これから2人だけの大事な世界にひたるのだと、ダドリュースは、うっとりしながら、寝室に向かった。




シリアスベースで、笑えるところも有りという感じで書いてきたのですが、実は、コメディベースの話を書くのも大好きだったりします。

この話は登場人物を考えている間に、すでにコメディベースが決まっていました。

書いていても、気持ちが楽で「ここは笑ってもらえるかな」と思うことが多かった気がいたします。

常に、各話タイトルに時間がかかるのですが、最も早く決まった話でした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 改めて読んでダトリュースの、好きな女子に向けるストレート過ぎる発想に笑いしか込み上げません!!毎回、ひでーなおまえ!と突っ込みつつ読んでしまいますねこの二人。一番色々ヤバいはずなのに。ダト…
[一言] このシリーズの男性は大抵経験者が多いですが、お互い初めてというのはここだけですかね。 恋愛小説的には理想的と言えなくもないけれど、やはり大変なんですね。 とりあえず一緒に入るだけだったら許…
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