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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第5章:うっかり王子とニセモノ令嬢(ダドリュース&キーラ)
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どっきりしました

 ダドリュースの、がっくりしている姿に、胸が痛まないと言えば嘘になる。

 キーラとて、好きな相手のがっくりしている姿を見たいわけではないのだ。

 むしろ、喜ばせてあげたい、とは思っている。

 

(それにしたって、ハードル高過ぎだわ。お風呂で……とか、有り得ないでしょ。ていうか! ナイジェルも、そこまで話す?! 私が嫁だったら、ぶっ飛ばしてるとこだよ! いくら相手が国王でもさあ)

 

 訊いたダドリュースが悪いのだろうが、ナイジェルに八つ当たり。

 結果として、ダドリュースの落ち込みは、ナイジェルが「よけいなこと」を吹きこんだからなのだ。

 もっとも、話したくて話したのではないのだろうけれども。

 

 がっくりしているダドリュースは、まるで大型犬が耳を、くたっとさせている姿そのものだ。

 つい頭を撫でてあげたくなる。

 とはいえ、キーラには、キーラなりの想いもあった。

 

 2人は婚姻関係にあり、ベッドをともにする仲となっている。

 が、新婚生活3ヶ月、思ったより回数は少ない。

 婚姻前のことを考えると、キーラは、ダドリュースが、毎日のように「いたしたがる」と思っていた。

 そのため「思ったより少ない」のだ。

 

 けして、キーラが、夜毎の行為を求めているわけではない。

 いや、求めていなくもなくもないが、それはともかく。

 ダドリュースは、自ら「いたしたい」と、あまり言わなくなったのだ。

 意味有りげな視線を、ちらっちらっとキーラに向けてくるだけで。

 

(初夜っていうか……最初があれで、ああだったから……がっかりした……?)

 

 それこそ彼にとって「思ったより」いいものではなかったのかもしれない。

 台無しにしてしまった感もあるし。

 

 あの日は、正妃選びの儀だった。

 キーラは、初ドレスに身をつつんでいたのだが、とても1人で脱げるような代物ではなかったのだ。

 着せてもらう時も、複数の侍女の手が必要だったのだから。

 当然、ダドリュースに脱がせられるはずがない。

 

 そして、彼は、(ろく)でもないことしか考えない男だった。

 

 しかも、それを、あたり前といったふうに実行する。

 ダドリュースの中にある理屈が、未だにキーラには理解できなかった。

 

(そりゃ、脱がせにくかったっていうのはわかるよ? でも、魔術で全裸って……なくない? いきなり全裸にされる身にもなってほしいわ。だいたい、あのドレス自体、あなたが選んだんでしょうが……)

 

 思えば、魔術師長のサシャは偉い。

 サシャが最初に出したドレスを見て、キーラは「着るのも脱ぐのも、楽そう」と感じたのだ。

 おそらく、後のことを察していたからに違いない。

 

 なのに、却下したのはダドリュースだった。

 肌の露出が多いとかなんとか言って。

 

(でも、やっぱりビンタしたのはマズかったかな。いや、でもさぁ……)

 

 うう…と、呻きたくなる。

 キーラにとっては、とても悩ましい問題なのだ。

 ビンタはかましたものの、いたすことはいたした。

 さりとて、色々と大変だったという気持ちも残っている。

 嫌だったとか、もう2度とごめんだとか、そういうふうではなく。

 

 ただただ「大変」だった。

 

 お互いに初めて同士だったのだから、しかたがない。

 それでも、知識としては、自分のほうが上だと、キーラは思っていた。

 諜報活動として、その手の行為を求められることもある。

 キーラが拒否していただけで、中には、常套手段としていた者もいたのだ。

 

 だから、いずれ必要な時が来ると、知識だけは与えられた。

 実践も練習もしなかったが、あのままフィンセルにいたら「いずれ」が来ていただろう。

 好きな人と結ばれることができたのは、キーラにすれば、奇跡に近かった。

 

 ダドリュースに会うまでは、いろんなことを半ば諦めていたから。

 

 が、しかし、知識以前の問題だったのだ。

 とにかく、思い返すたびに、恥ずかしくなる。

 そして「大変だった」と思う。

 

 その「大変さ」に、ダドリュースは消極的になっているのかもしれない。

 思って、訊いてみた。

 

「ダドリーは、そういうとこでいたしたいわけ? ベッドじゃなくて?」

 

 特殊な環境のほうが、その気になり易い、と女性諜報員から聞いたことがある。

 どうしても気分が乗らない時は、あえて、場所を変えてみるのだとか。

 

「まだ新婚3ヶ月なのに倦怠期ってこと?」

「ケンタイキとはなんだ?」

「飽きた、みたいな感じ?」

 

 バッと、ダドリュースが頭を上げた。

 ものすごく驚いた顔をしている。

 

「なぜ、そのような無体なことを言うっ?! もう私に飽きたというか?!」

「いや、そうじゃなくて……」

「いかがすればよい?! どのようすれば、今一度、お前に、恋の病をかけられるのだ?! 言え、キーラ! 私は、精一杯、尽くすと約束したであろう?!」

 

 ずずずいっと体を寄せられ、キーラは、今にもソファに押し倒れそうだ。

 あまりに真剣なまなざしに、どきっとする。

 言っていることは、とても残念なのだが、それはともかく。

 

「違うって! 違うから、ちょっと落ち着いて!」

「だが、お前は、ケンタイキとやらになっておる。それは、私に飽きたということではないか」

「私じゃなくて、あなたが!!」

 

 とたん、ダドリュースが、きょとん、という表情になった。

 違ったのかと、安心する反面、恥ずかしくなる。

 やはりダドリュースが相手だと、ペースが乱れるのだ。

 自分でも、理屈の通らないことを考えたりする。

 

「私が、お前に飽きるなど有り得ぬ……なぜ、そのように考えたのだ、キーラ」

「だって……」

 

 言いかけて、顔が、カカーッと熱くなった。

 ダドリュースには、こと具体的に話さなければ伝わらない。

 が、それは、とても恥ずかしかった。

 大人びてはいても、キーラは、16歳の女の子なのだ。

 乙女心だって、ちゃんとある。

 

「いかがした? 話せぬようなことなのか?」

「そうじゃないけど……」

 

 ダドリュースには「察する」なんて高等な能力はない。

 知っている。

 わかっている。

 

 キーラは、大きく息を吸い込み、ゆっくり肺から押し出していった。

 おかしな勘違いをされるよりは、羞恥にのたうち回るほうがマシだ、と判断したからだ。

 それに、なによりダドリュースを傷つけたくない。

 

「ダドリーのほうから、なんにもしないから、そう思った」

「なにもしないとは、どういうことか?」

「く、口づけとか……よ、よ、夜の……おさ、お誘い、とかさ……なんにもしないじゃん……いっつも、私ばっかり……」

 

 しーん。

 

 無言に、いたたまれなくなる。

 恥ずかしいだけではなく、なんとも言えない心境だ。

 

「なんと……お前が、そのように考えておったとは……」

 

 つぶやきに、ムッとした。

 ダドリュースを傷つけたくなくて本音を(さら)したのに、呆れられたのでは割に合わないと思う。

 ちょっぴり意地悪な気分になった。

 

「だから、お風呂とか、そういうところじゃなきゃ、その気にならないんだなー、そのくらい、私に飽きてるんだなーって思ったんたよね。だって、婚姻してから、ダドリー、私のこと、ぜーんぜん誘わなくなったしさ」

 

 ほんの少し、困らせてやろう、と思っただけだ。

 ダドリュースから大事にされていて、愛されていることは、信じている。

 そちら方面で、どうかはともかくとしたって。

 

 がしっ!!

 

「え……?」

 

 ダドリュースが、キーラの腰に腕を回し、顔を寄せてきた。

 黒い瞳で、じっと見つめられ、心臓が、どきどきする。

 なにかを間違えた気もしているキーラに、ダドリュースが真面目な顔で言った。

 

「では、私から言ってもよいのだな?」


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