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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第4章:世話焼き宰相とわがまま令嬢(ユージーン&ルーナ)
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唯々諾々

「ジーン」

「なんだ?」

「私って、ジーンの“妻”だよね?」

「むろん、そうだ」

 

 かしゅかしゅかしゅ。

 

 うーん…と、彼女は、ちょっぴり悩み気味。

 今の生活に不満はない。

 まったくない。

 むしろ、快適。

 

 が、しかし、そういうことではないのだ。

 

 彼女ルーナティアーナ・ウィリュアートンは、半月前に婚姻している。

 生まれた頃からずっと好きだった相手と、ようやく結ばれたのだ。

 公爵家の令嬢として生まれはしたが、育ててくれたのは、ほとんど彼と言っても過言ではない。

 

 ルーナティアーナこと、ルーナには、乳母もメイドも必要なかった。

 今では伴侶となった男性が、長らく世話をしてくれている。

 泣けばあやしてくれ、服の着替えから、風呂まで、誰よりも手をかけてくれた。

 体の弱い母に、父がつききりになれたのも、彼のおかげと言える。

 

 母と頻繁には会えず、寂しくなくはなかった。

 けれど、そういう時も、一緒にいてくれたのは、彼だ。

 ルーナの、どんな我儘も聞いてくれ、甘やかしてくれている。

 本人に、その自覚があるかはともかく。

 

 そして、16歳になった今年、やっとの思いで、彼の心を射止めた。

 ルーナは、正真正銘、彼の「妻」なのだ。

 

 ロズウェルド王国宰相、ユージーン・ガルベリーであった人と。

 

 ユージーンは、ロズウェルド王国の王族であり、元は、王位継承第1位の王太子だった。

 それを、ある時、急に放棄し、宰相となっている。

 ユージーンの代わりに国王となったのは、弟のザカリーだ。

 

 ルーナが生まれて間もない頃のことなので、どういう経緯があったのかは、よく知らない。

 ただ、ユージーンは「宰相となり、より良い国にしたかった」と言っている。

 なので、そうなのだろうと思っていた。

 

 ルーナは、ユージーンを無条件に信じているのだ。

 彼の言葉を疑ったことは、1度もない。

 たいてい、ユージーンは、ルーナが聞けば答えてくれる。

 答えられないことは、答えられないと言ってもくれるので、ルーナも、それ以上は聞かずにいた。

 

 彼とルーナの間には、恋に発展する前からの繋がりがある。

 16年をかけて培われた信頼関係は、絶対的なものだった。

 

 それに、ユージーンはルーナのため、王族であるガルベリーの名を捨てている。

 あまり体調の芳しくない母の元を去りがたいと思うルーナの気持ちを優先して、ウィリュアートンに養子に入ったのだ。

 王族が貴族の養子になるなんて、はっきり言って、前代未聞。

 

 そこまでしてくれるユージーンの心を疑うほうが、どうかしている。

 とは思うのだけれども。

 

「これでよい」

 

 うむ、とユージーンが満足そうにうなずいた。

 ルーナは、ユージーンの膝の上に座っている。

 王宮内のユージーンの私室だ。

 カウチに座るユージーンにまたがる格好で、向き合っている。

 

 ルーナの赤味がかった髪は、サラサラのツヤツヤ。

 いつも湯上りには、丁寧に拭かれ、きれいに梳かれているからだ。

 寝て起きると、すっかりぐしゃぐしゃになっているのだが、それもまた、すぐに整えられるのが日常。

 

(これ、婚姻前と変わんなくない?)

 

 繰り返しになるが、ルーナは、ユージーンの「妻」だ。

 普通は、妻が夫の世話をするものなのではなかろうか。

 もちろん、長くルーナはユージーンに世話をされる側だった。

 そのため、違和感はまったくないのだけれど、それはともかく。

 

「ジーン、私のこと、ちゃんと妻だと思ってる?」

「でなければ、なんだと言う? お前は、俺の“嫁”だ、ルーナ」

 

 ユージーンは宰相の仕事をするかたわら「民言葉の字引き」とやらを編纂中。

 ルーナも懇意にしているローエルハイド公爵家でのみ使われている言葉を、国に広め、表現豊かな会話ができるようにしたいのだとか。

 ルーナ自身は、小さい頃から慣れ親しんでいる言葉の数々なので、いまひとつ、ピンとこない。

 とはいえ、貴族言葉が堅苦しいのは確かだった。

 

 ユージーンの使った「嫁」というのは、その民言葉のひとつだ。

 貴族言葉で言うところの「妻」を指す。

 

「じゃあ、私を愛してる?」

「むろんだ。俺は不逞なことはしておらんぞ」

「うん、それはわかってる」

「ならば、毎日、問う必要はなかろう」

 

 と言いつつも、ユージーンは、ルーナが訊くたびに答えてくれた。

 それが毎日のことであれ、煩わしそうにされたことはない。

 答えは同じなのだが、律儀に答えてくれる。

 ルーナとて、疑って訊いているのではなかった。

 

 向き合い、間近にあるユージーンの顔を濃褐色の瞳に映す。

 目に眩しいほどの金髪に、翡翠色の瞳。

 22も年上のユージーンは、現在、38歳。

 なのに、とても、そんなふうには見えない。

 

 中身は、しっかりと大人なのは、わかっている。

 そうでなければ、上位貴族で構成されている重臣たちを、束ねることなどできるはずがない。

 さりとて、外見は別。

 

 ロズウェルドでは、男女を問わず、ある一定の歳を越えると外見の変化が乏しくなるのだ。

 その傾向は人により異なるが、ユージーンは、とても顕著だと言える。

 

(十歳くらいは、若く見えるもんね。そのうち、私のほうが、年上に見えるようになったらどうしよう)

 

 などと心配してしまうくらいだった。

 なにしろ、ユージーンは、とても恰好良く、かつ、美麗なところもある。

 歩いているだけでも、人の視線を引きつけ、女性たちの心を掴んでしまう。

 婚姻したからといって、安心はできない。

 いくらユージーンに「不逞」をする気がなくても、近づいてくる女性はいる。

 

 そういう、あれこれが心配でもあり、今の状況がハテナでもあり。

 ルーナは、毎日のように訊かずにはいられないのだ。

 ユージーンは、ちゃんと自分を「妻」と認識しているのか。

 愛してくれているのか、と。

 

「じゃあ、私のどこが好き? どういうところがいいと思ってるの?」

「俺を退屈させぬところだな」

「は? そんな理由?」

「そんな理由とはなんだ。これは、重要なことだぞ」

 

 言われても、なんとなく納得できない。

 性格や見た目など、もっと分かり易い「好きの理由」があってもいいと思う。

 退屈させないから、なんていう理由は、褒め言葉に聞こえないし。

 

(ちっとも甘い台詞じゃない! 新婚なのに……前と変わらないなんて、やっぱりかなり変! これ、普通?! 絶対、違う気がする!)

 

 婚姻すれば、ユージーンと「甘々」な生活が待っていると思っていた。

 が、そのルーナの考えこそが「甘々」だった。

 

 2人は、まだ新婚旅行にも出かけていない。

 

 それどころか、ほぼ、この私室で生活しているも同然だ。

 婚姻の前後で、ルーナの日常は、あまり変わっていなかった。

 相変わらず、ユージーンの執務室や私室に入り浸り。

 

 ふわっと、ルーナの体が抱き上げられる。

 ルーナは、ユージーンの首に両腕を回し、抱き着いた。

 そろそろ時間だ。

 

 変わったことがひとつ。

 

 それは眠る場所だった。

 今までは、そのまま、この私室に泊まっていたが、今はウィリュアートンの屋敷に戻ることにしている。

 

 ウィリュアートン公爵家のおかかえ魔術師が、ユージーンの指定した時間になると点門(てんもん)を開くのだ。

 点門は、点と点を繋ぎ、移動する魔術で、こことウィリュアートンの屋敷の間を簡単に行き来できる。

 

 こうして、必ず、毎日、屋敷に戻り、「2人の寝室」で休むのだ。

 まだ釈然とない気持ちはあれど、ルーナは、なすがまま。

 ユージーンに抱きかかえれ、開かれた点門の2本の柱を抜ける。


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