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本編有り後日談イチャらぶSSセット  作者: たつみ
第3章:ウソつき殿下とふつつか令嬢(ナル&セラフィーナ)
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近距離恋愛

 ナルは、ヘトヘトになっている。

 屋敷中を、くまなく探した。

 そこでようやく、戻れるはすがないことに気づいたのだ。

 

(ずいぶん時間を無駄にしてしまった)

 

 その後、自分の屋敷から父の屋敷までの道を探したが、やはりいない。

 気分転換に街に出たのだろうかと思い、街も探したが、見つからなかった。

 魔力感知も、魔力を持たないセラフィーナに対しては無力だ。

 自分の足で探すしかないが、思い当たる場所がない。

 

(本気で、婚約を解消するつもりではないよな……もし、そんなことになったら)

 

 背筋が、ゾッと凍る。

 本気で、どうすればいいのか、わからなくなった。

 街の広場にあるベンチに座り、頭をかかえる。

 

 コマドリのようなかわいらしい瞳に、赤い髪。

 その髪は、時に炎の妖精のように真っ赤に燃える。

 まっすぐに感情をぶつけてくるセラフィーナには、嘘がない。

 いつでも真っ向勝負。

 

 負けるのは、常にナルのほうだ。

 

 自分の手の中にいてくれると思っていた。

 自ら望んで、その手の上に(とど)まってくれると思い込んでいた。

 

(なんという愚かなことを言ってしまったのか)

 

 彼女に「羽」があることやなんかは、とうに知っていた。

 その風きり羽を切ってしまいたくなるくらい、承知していたのに。

 

 勝気で負けず嫌い。

 自分を折り曲げられることを(よし)とはしない。

 それが、セラフィーナ・アルサリアという女性なのだ。

 

 ナルが、どうしても手放せずにいる、唯一の女性。

 

 ある意味では、ずっとナルの心の拠り所でもあった。

 いろんなことに嫌気がさしていた彼に光を与え、それが、人に対してのわずかな期待を、ナルに遺させたのだ。

 

 不意に、ハッとなって立ち上がる。

 すぐさま転移した。

 

「遅かったじゃない」

 

 エセルハーディの屋敷を出た時には昼だったが、すでに陽は落ちている。

 月明りの中に、セラフィーナが立っていた。

 2人が初めて会った場所だ。

 

 さりげなく視線を、セラフィーナの手に向けてみる。

 が、彼女は両手を腰の後ろにしていて、見ることができない。

 セラフィーナは、まだ指輪をはめていてくれるだろうか。

 いつになく不安な心持ちになった。

 

「今夜は、どうしたの? フクロウ以上に、せわしなく飛び回っているあなたが、ここにいるなんて驚きだわ」

「私のちっちゃな小鳥が、逃げてしまってね。探していたのだが、どこにいるか、きみが知っているのじゃないかと思って」

「どうかしら。もうあなたの小鳥じゃないかもしれないでしょう?」

 

 セラフィーナは、指輪をしていないのだろうか。

 どこかに投げ捨ててしまったのかもしれない。

 

「そうやって探るのはやめてちょうだい。あなたが人間不信だからって、どうして私が、それを押しつけられなきゃならないの? 理由も知らないのに」

 

 セラフィーナとの距離は、1メートルほどだ。

 なのに、それ以上は近づくことができない。

 彼女に許されていないと感じる。

 

「私には関係がないと言うなら、それでかまわないわ。その代わり、さようなら、オリヴァージュ・ガルベリー。2度と会うことはないわね」

 

 ナルは、大きく息を吐いた。

 セラフィーナは、本気だ。

 彼女に嘘はないのだから。

 

「最後の機会を、私に与えてくれたことに感謝すべきだろうな」

「そうよ」

「もう少し、近くで話してもいいかい?」

「嫌よ。そこで話して」

 

 セラフィーナの反応に、少しだけ安堵する。

 彼女は、まだ決定的な判断をくだしていない。

 ナルに影響を受けるとわかっているから、近寄られたくないのだ。

 

「私の幼馴染みは複雑な生い立ちでね。私たちは16歳になるまでは、父の屋敷で兄弟同然に育ってきた。あいつは気にしちゃいないが」

「だから、人間不信なの?」

「それもあるが、大きな原因は貴族だ。彼らは、私が王族だというだけで、自らの娘をベッドに投げ込んでくるような者ばかりだった。あれやこれや手を使ってね。時には、友人だと思っていた者にまで利用されかけたよ。それに姉のこともある」

「お姉さまは、ウィリュアートン公爵家に嫁いでいらっしゃるのではなかった?」

 

 ナルは、軽く肩をすくめる。

 5歳上の姉とは仲が良くも悪くもない。

 幼い頃から、たいして一緒に遊んでもいなかったからだ。

 ナルには幼馴染みという遊び相手がいた。

 

「ウィリュアートンといっても分家でね。私の幼馴染みとは折り合いが悪いのさ」

「そうなの?」

 

 セラフィーナに、近づくなと言われていたが、ナルは、ほんの少しだけ近寄る。

 話に気をとられている彼女は気づいていない。

 こういうところが、可愛らしいのだ。

 危なかしいとも言えるけれども。

 

「あまり言いたくなかったが……私たちの婚姻の式に、姉は参列しない」

「え……」

 

 セラフィーナの見開かれた瞳に、ちくりと胸が痛んだ。

 姉との仲はともかく、姉の夫とは仲が悪かった。

 ナルの幼馴染みは、現ウィリュアートン当主。

 姉の夫は、それが気にいらないらしく、なにかと嫌がらせをしてくるのだ。

 未だに、ナルは、なぜあの男と姉が婚姻したのか、わからずにいる。

 

「代わりにフィア……ああ、義理の娘のフィリシアを参列させるなんて言い出したものだから、断りにね。ここのところ、奴の屋敷に行っていたのさ」

「そのかたを断る理由があるのね?」

「言っておくけれど、私に、その気はない」

 

 フィリシアは、昔からナルを「狙って」いた。

 目をつけられるだけでも厄介なのに、ウィリュアートンという家まで絡んでくるのだから、とても相手をする気にはなれない。

 通り一遍の挨拶すら、まともにしたことはなかった。

 

 また少し、ナルは、何気ないふうを装って、セラフィーナに近づく。

 転移をすれば簡単なのだが、それをすれば、間違いなく彼女のご機嫌を損ねるとわかっていた。

 今は、そんな危険を冒すことはできない。

 

「それなら、なにも骨を折ることはなかったのに」

「どういうことだい?」

「参列してもらいましょうよ。諦めをつけるのに、ちょうどいい機会になるわ」

 

 なんということもない、と言わんばかりのあっさりとした口調だ。

 すると、今度は、すぐに眉をひそめた。

 

「私は、あなたが婚姻を考えていた女性と最後のお別れでもしているのかと……」

 

 セラフィーナが、言いかけた言葉を途中で切る。

 そして、バツが悪そうに、肩をすくめてみせた。

 瞬間、駆け寄り、セラフィーナを腕ごと抱きすくめる。

 

「捕まえたよ、私のちっちゃな可愛い小鳥」

「ち、近づかないって約束したじゃない! この詐欺師ッ! ペテン師ッ!!」

「約束はした覚えはないなあ。きみは、そこで話せと言っただけじゃないか。もう話は終わったのだから、近づいてもかまわないはずだ」

 

 セラフィーナは、ぐぐっと背をのけぞらせていた。

 ナルは、小さく笑う。

 

「どうしたら見せてくれる? (ひざまず)いて、懇願しようか?」

「あなたは、魔術師でしょ? わざわざ騎士の真似をする必要はないわ。それに、跪く程度で、私が許すと思っているの?」

「なにしろ、私の首の上に乗っかっているのはスイカか大きな瓜みたいだからね。どうすれば許してもらえるのかわからないのさ。だから、きみが、ちょいと手助けしてくれることを期待している」

 

 セラフィーナが、ナルの頬に両手を伸ばしてきた。

 月明りに、指輪が光っている。

 

「手助けになったかしら?」

「おおいにね。戸は空けておくが、どうか飛び立たないでおくれ、私のちっちゃな可愛い小鳥。ほかに女性などいない。私は、きみを愛しているのだから」

「戸が開いているのに、ちょこんとカゴの中にいるだなんて、自分でもどうかしていると思うけれど、しかたがないわ、私もあなたを愛しているから」

 

 顔を寄せ合って、笑った。

 彼女は、自分がどれほど彼女を愛しているか知っているだろうか。

 思いながら、ナルは、セラフィーナに、そっと唇を重ねる。




自分の中では、短い話を書こうと思い立ち、書き始めた話でした。

恋愛に、がっつり寄せた話が書きたい!と思ったというのもあります。

報復的なものは、ほとんどないのですが、ザ・恋愛という感じを楽しんで頂けるといいなぁと思いながら、書いておりました。

皮肉や嫌味の応酬が、小気味よく感じて頂けていけば嬉しいのだけれどと、思っておりました。


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― 新着の感想 ―
[一言] R15のような展開もなく婚姻前でもある、にも関わらず、これまでの更新の中で一番のいちゃいちゃをみたような気がします。ごちそうさまでした。 それにしても、婚姻を考えたこともある、って脳内シミュ…
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