表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある男と女の話  作者: みちをゆく
3/3

ある女の話 三

私はお腹に感じるゴツゴツとした、けれども安心感のある感触のなか目を覚ます。どうやら眠ったまま背負われて運ばれていたようだ。その事を把握すると恥ずかしくなってきた。あれだけ大泣きしたが、私はもう12だ。おんぶをされるような年齢ではない。

「あの」

「ああ、起きたか。重いから降ろしてもいいか?」

「あ…はい」

もう一度いうが私は12だ。重いと言われて不快になるのがどうして分からないのか。凝った肩をほぐす様な仕草をする男をみて、その思いは一層強くなる。

「ねぇ、あなたって奥さんいるの?」

前に持っていた荷物を背中に背負い直した男の後を追いながら聞いてみる。きっとこの男には、奥さんどころか恋人もいないだろう。それを分かって上で聞いてみた。ムカついたからだ。

「いない。というか、そんな事よりも聞くことがあるだろ」

あまり効いていないようだ。もっとムカついてきたが、聞くこと?

…そういえば名前

「あなたの名前はなんていうの?私はローリア。花を売る仕事をしていたわ。」

「ブロウド・ガルードル」

「名前だけ?」

「聖石を探す仕事をしている。」

「やっぱり!ところで、聖石ってなに?」

「それは…もうじき分かる。」

「今向かっている方向に聖石っていうのがあるの?」

「フッ」

好奇心から聞いてみると鼻で笑われた。知っていて当たり前のことだったのだろうか。でも笑うまでもないだろう。

「なんで笑うのよ」

「いや、俺の妹によく似ているなと思ってな。」

「妹さんがいるの?」

「あぁ、いた。俺がまだ20くらいの時だったが。」

「あ…ごめんなさい」

「いや、いいんだ。お前を助けた理由を聞かれたときに言うことも考えたからな。」

すると二人は黙り込む。しばらく歩いているところで重くなってしまった空気を軽くしようと口を開く。

「じゃ、じゃあ、妹さんとどこが似てるの?」

「そうだな…まず見た目が似てるな。髪の色や目の色は同じと言っていい、お前を崖で見たときは妹が生き返ったのかと思ったくらいだ。」

「他には?」

「声はあまり似てないが、そうやって後ろにひっついて質問攻めにしてくるのは妹そっくりだ」

「へぇー。あ!もしかして妹さんとそっくりだから私を連れて行ってくれるの?」

「それもあるかも知れないが、長年独りでいたせいか人が恋しくなったのかもな」

案外素直な人だ。

「もう一つ質問し」

「いや、目的地に着いた。話はまた後でだ。」

そう言うとブロウドは荷物を下ろし、大きな袋の中から透明なピッケルやランタンなどを取り出し、目の前にある洞窟へ入る準備を始める。

「ねぇ、私もついていっていい?」

「駄目だ。この先は危険だからな。」

「どうして?獣ならブロウドがやっつけてくれるじゃん。それに私一人でいたらまた獣に襲われちゃうかもよ?」

「獣は出てこない。あののイノシシがここら一帯で暴れまわっていたみたいだからな。それに…この先には、俺にはどうしようもすることのできない危険があるんだ。」

ブロウドの顔が一瞬、悲しみと悔しさを混ぜたような表情に染まる。

「わ、分かった。じゃあここで待ってる。」

私がそう言うと、ブロウドは覚悟を決めた表情で洞窟の中へと入っていった。


そこからかなりの時間が経過した。待っても、待っても、ブロウドは出てこない。もしかしたら、洞窟の中を迷ってしまってなかなか出れずにいるのではないだろうか。だんだんと不安になってきた。既に数回鳴っているお腹がまた鳴ったころ。洞窟の中からブロウドが出てきた。それを見ると、座っていた木の根っこから勢いよく立ち上がり、ブロウドのもとへと駆け寄った。

「どお?いい収穫はあった?」

「ああ。ひとまずご飯にしよう」

「うん!」


ブロウドが調理の準備をしていると、あのイノシシのことを思い出した。

「ねぇブロウド。あのイノシシはどうしたの?大きくて肉がいっぱい穫れそうだったのに。」

「あれは食べない方がいい。ああいう獣は力の源をたくさん蓄えてる事がある」

「力の源?」

私がそう聞くとブロウドは木の根っこに座り、私の目を見て話し始める。

「お前が命の危険を感じたとき、心臓が大きく脈打たなかったか?これは人によるが、身体の力が高まった様な感覚がしなかったか?」

そういえば、とイノシシに襲われた時の事を思いだす。思いっきり投げた自分の靴が、自分の思ってもいない速さで飛んでいっていた。

「たしかにそんな感じはしたかも」

「それが人間や獣に備わっている、限界を越える力だ。その力を行使するのに、力の源が必要なんだ。」

限界を越える力…。ブロウドがもの凄い速さでイノシシに激突して、その衝撃で木をへし折ったあの光景を思い出す。

「そしてその力の源は、体に溜まりすぎるとクローリア病という病気の原因になる。その病気は聖石を使わなければ治すことはできず、やがてその体を異形へと変化させる。」

異形という言葉を口にした途端、ブロウドは気持ち悪くて哀れなものを目の前にしたように顔を歪ませる。

「ブロウドはその異形っていうのを見たことがあるの?」

「ああ。妹の死体がそうだった」

また空気が重くなった。この人は素直過ぎるんじゃないだろうか。重くなった空気の中、私はその、まるで今までの世界とは別世界のような情報に頭を巡らせる。…そういえば、と洞窟に入る前にブロウドが浮かべていた表情を思いだす。

「…もしかして、あの洞窟に私が入ったらその異形っていうやつになっちゃうの?」

「いや。洞窟に入るなといったのは、この…聖石が関係している。」

ブロウドは厚手袋を身につけると、袋から変わった石を取り出す。袋から取り出したのは私の顔程もある透明な、だがピッケルやナイフのものとは違い少しキラキラと輝いている石であった。

「この聖石は直接肌に触れたものの力の源を吸収する性質がある。」

「?それだけじゃ別に危険じゃないよね?」

「ああ、それだけならな。…これから教えることは誰にも言うなよ。」

私が頷くとブロウドは話を続けた。

「この石は力の源を吸い過ぎると邪石に変化する。邪石は少しでも衝撃を加えると破裂し、周りにいる生き物を無差別に異形へと変化させてしまう。」

「えっ!?」

私はそれを聞くと一目散に後ろにあった木の裏に隠れる。少し顔を傾けて様子を伺うとブロウドが笑って言った。

「大丈夫だ、安心しろ。邪石はこの石と比べてもっとキラキラと光り輝くものだ。」

「なんだぁ、そういうのは先に言ってよ。」

私は一安心して座っていた場所まで戻る。

「でもその聖石で異形を治すことはできないの?」

「ああ、それは無理だそうだ」

「"そうだ"って、ずっと一人でいたはずなのになんで知ってるの」

「そりゃあ、旧い友人から聞いたからだ。」

「ええっ!?ブロウド、友達がいるの!?」

「何を驚いてる。当たり前だろ。だがまぁ、王直属の()()()にいた頃のだがな。」

ブロウドは自慢げに「騎士団」の部分を強調して言った。

「ふーん。ブロウドが友達ね。」

「今度は逆に何で驚かない。騎士団だぞ?しかも王直属の!」

「だってブロウドは強いじゃない!だからそれは別に不思議なことじゃないよ。」

私は自慢げに言った。

「何でお前が自慢げなんだ。昨日会ったばかりだぞ?」

「じゃあ、あと何年一緒にいれば自慢げに言っていい?」


その日は次の野宿地にたどり着き、私が眠りに着くまで互いの事について語り合った。


次の日、美味しそうな匂いに目が覚めるとブロウドがご飯を作ってくれていた。

「おはようっ!」

ブロウドがいることの安心を胸に元気一杯に挨拶をした

「ああ、おはよう」

ブロウドは私に挨拶を返してくれた。


私の明るい第二の人生が今、始まったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ