出逢えた奇跡
前方に『選びの森』が見えてくると白い一羽の鳥が私達に向かって飛んで来た
[アーデン!エリー!]
「スペラ!ただいま」
[阿呆!どれだけ心配したと思ってるんだ!馬鹿やろー!オーディンだって…]
森に降り立つと凄い勢いで突かれる……
「痛い!痛いってば!御免なさい、悪かったわよ」
[あの後大変だったんだぞ、シャルナークは軍隊まで準備するし、ジェシカやライナスは半狂乱で城に怒鳴り込むわ、ゼイグロアでの惨劇が聞こえて来ると王も侵攻すると怒鳴りまくるしで!取り敢えずレオナルドが止めていたが直ぐにシャルナークに会いに行ってお前達が無事な事教えて止めろ!]
「ア、アーデン!急ごう、やばいぃ」
「あ、あぁ急ごう」
私とアーデンは街近くの森まで飛んでそこからアーデンに抱かれたまま門に突入した。
「アーデン殿!エリ殿!ご無事でしたか!」
いつもの門番さんが慌ててやって来て直ぐに城に向けて鳩を飛ばしてくれた。
私達は『森への道』に行きビクターさんと、ヘレンさんに無事な事を告げるとその足で城に向かった。
何処に行っても、沢山の人に声を掛けてもらい無事で良かったと言ってもらえ、その度にロットバルドさんの事を思い出していた。彼がもし最初に訪れたのがこの国だったのならあの悲劇は起きなかったのではないだろうかと。
ザクロス山が妖精の村とつながっていた事がそもそもの悲劇の発端だったのか?
初めて訪れたのがゼイグロア国だとしたならそれが濃厚の様な気がする。
城に着くと城門前にレオナルドさんが待っていて、私達の姿を見とめると顔を崩し泣き顔とも微笑み顔とも取れる様な顔で迎えてくれた。
「よくぞご無事で……急ぎシャルに会って彼を止めて下さい!」
そう促され私達は王の執務室へ向かった。執務室のドアを叩こうとするといきなりドアが開きシャルナーク王が私に抱きついて来た
「良く、良くぞ御無事で叔母上様……」
そんな感激の中私に抱き付いているシャルナーク王の首根っこをアーデンは掴むとポイッと投げ、いつもの様に言う
「絵里子に抱き着くな!触れて良いのは俺だけだ!」
こんな時までいつもと変わらないアーデンの仕草でシャルナーク王もレオナルドさんも今迄の緊張が解けてお互いに顔を見合わせ笑い出していた。
私はシャルナーク王に全てを話す事にし、その上で改めてアーデンと私は争う気も無ければ今まで通り普通に静かに暮らしたいのだと告げた。
シャルナーク王は妖精王の事こそ知らなかったがアーデンの事、私の事は暗部隊から聞いていたと教えてくれ、それでも尚且つ守るつもりでいた事、親族が居た事が嬉しいと言って好きな様にこれからは暮らして欲しい、ただ時々意見をくれて、会ってくれたら嬉しいと言い何度も何度も無事だった事を喜んでくれた。
この年上の甥はこの後レオナルドさんから散々揶揄われたらしい。叔母馬鹿殿下と………。
ゼイグロア領で私と別れたマーカスさんも無事である事が分かり、彼のせいでは無いから彼を責めないで欲しいと告げ城を後にした。
『森への道』に戻るとジェシカもライナスさんも居てくれて、ジェシカには号泣されるし、ライナスさんには注意が足りないと叱られるしでここでも温かい人達の想いに感謝した。
「アーデンが入ってきた時只事では無いって分かったよ、だってアーデンの顔色が真っ青で怖かったもの」
それは多分変身しそうに成ったのが出てたのかも知れないけどね。
「兄さんを起こして来てみればもうアーデンの姿は何処にも無いし、何日も音沙汰ないし……その内にゼイグロアで魔王が出たって大騒ぎになるしで。本当に心配したんだからね!」
「浅はかだったって反省してる。皆さんに心配かけてしまって本当に御免なさい」
私はこの温かな人達に心の底から詫びた。有り難くもあり、優しくも有るこの人達に出会えて幸せだとつくづく思う。
ビクターさんがお腹減っただろう?と言って夕食を作ってくれて、みんなでワイワイしながら食べたこの日を私は決して忘れないだろう。
その後又改めて来るねと伝え馬屋に向かい預かって貰っていたオーディンを引き取り家路につく。
オーディンはきっと迎えに来てくれると信じてたから良い子で待ってないといけないと大人しくしていたらしく、馬屋の叔父さんがこんなに性格が落ち着くなんてと偉く喜んでいた。
きっとアーデンのご両親も心配してるだろう。明日は会いに行こうとアーデンと話し、さほど日も空けては居ない我が家を懐かしみながらアーデンと抱き合い眠りに付く。
隣にある温もりが消えかけていたあの時を思い出すと、未だに隣を探りその温もりを求め見つければしがみ付き安堵する……しばらくはこのトラウマが抜ける事は無いのかもしれない。
今頃ロットバルドはどうして居るのだろうか?
目が覚め己のしでかした事を悔いてくれて居るだろうか?許される事ではないけれど、どうか出来る事ならば幸せに余生を終わらせて欲しい。
私は寂しかった時も、苦しかった時も感じたあの優しい瞳を信じたい。
ルネテリアの言っていた通り本当はとても優しかった人なのでは無いかと思うから。
「眠れないのか?絵里子」
「うん、とても疲れて居るんだけどね。アーデンと知り合って色んな事が有ったね。でも、どれも私には大切な思い出だから忘れたくないの。例え嫌な出来事でも、それすらも大事な思い出」
「絵里子、俺を選んだ事を後悔だけはしないでくれ。俺が今こうして穏やかな気持ちで全てを受け入れられたのはきっとお前が居てくれたからだ。その点では叔父に済まないと思う。けれど、今更お前を失うくらいなら俺はもうこの世界にすら居たくはない」
「アーデン後悔なんてしないよ。私もロットバルドさんに悪いとは思うけど私が運命を感じて側に居たいと願ったのは間違いなく貴方なんだもの。だから何処にも行かないで、ずっと私のそばに居て」
見つめる目が潤いだし彼の顔がハッキリとみえなくなるころには私の顔は彼の胸に閉じ込められて居た。ドキドキと聞こえる鼓動の音が幸せの音に変わっていく
「絵里子、鼓動が止まる瞬間思った事があるロットバルドの前に絵里子にそっくりな女が息絶えていたのに何故俺は死ねないのだと。その時気が付いたんだあれは絵里子じゃ無いと。一瞬遅れた為に刺されたが生きたいと願った、まだ絵里子はきっと何処かで生きて居る筈だからと」
「私も思ったよでも、それよりも血だらけで横たわるアーデンが悲しくて一時的にでも鼓動が止まってしまってたんだよ。なのに不思議と私は生きているそれが逆に悲しかった。私も死ねる筈じゃなかったの?ってだからね、貴方の後を追うよって思ってた」
「絵里子が死ななくて良かった……絵里子、愛してる」
「うん……うん……アーデン、愛してる生きててくれて有難うね」
その日何度も口付けを繰り返してはお互いを確かめ合い抱き締めてはお互いの温もりを求め合う出会えた奇跡を再び喜びながら




