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森の中の美丈夫

今目の前にある光景をなんと表現したら良いのだろう

大人3人が手を繋いでも届かない程年を重ねた大きな樹々が覆いかぶさる


そんな樹々の葉の隙間から、まるでスポットライトの様な光がそこかしこに差し込みその先にある水に濡れた苔を照らしている。

苔はキラキラと輝き不思議な世界を描き出していた。

空気は澄み渡りキーンと言う音が響きそうな程張り詰める。


「凄いねアーデン、こんなに大きな木が沢山ある森見た事無い」

私は周りを見渡しながらその壮大な景色に見とれてしまう。


「彼らも俺達のように生きて成長するからな」


「そりゃぁ生きてるでしょ?」


「聞いてみるか?彼らの声を」


「?どう言う事」


「木に額をつけて声を聞かせてくれと話しかけてみろ」


「え?こう?」

私はアーデンに言われた通りに木に額をつけて話しかけて見た。


(何?誰かが頭の中に話し掛けてくる。)

それはその木が産まれてからの楽しかった思い出や出来事。


(そうか……最初は小さくて獣が潰すんじゃ無いかと怖かったのね。初めて小鳥が止まって雨宿りしてくれたのが嬉しかったんだ。ふふ、その子が巣を作って子供達が巣立ったのは寂しかったのね。)


「絵…?……絵里…?…絵里子?」


「アーデン?私」


「声は聞こえたようだな。余り聞いてると戻れなくなるぞ」


私はその木にありがとうと告げるとアーデンの方へ振り返る。

「とても優しい木だったわ。沢山いろんな事話してくれたの」


「そうか、よかったな」


「うん、アーデンありがとう」


「何がだ?」


「何だかとても幸せな気持ちにさせてくれたから」


「精霊に感謝だな 俺たち魔族は魔法を使う時 精霊の力を借りる。精霊の声が聞こえなくなった時は魔法が使えなくなるか、死んだ時だ」


「産まれたときから使えるんじゃなくて?」


「儀式で精霊の声が聞こえた者だけが魔族になれる、聞こえない者は里を降り人として暮らす」


「と言う事は、人も魔族も元は同じって事なの?」


「そうだ、魔族に成った者は人と離れて暮らすが その事を知ってる者ももうあまり存在しないだろう」


そう言いながらアーデンは愛しそうに樹々を優しく撫でていた。


「それは何故なの?」


「力が……強過ぎるからだ。人は楽をしたがり、争いを起こしやすい。今回もそうだ  本来ならば 俺は人の近くで暮らしてはいけない……争いを起こさせてしまうからな」


「そんな……そんなの寂しい」


「仕方のない事だ。それよりも日が暮れる前にどこか休めそうな場所を探す方が良いだろう」


「そうだね、枯れ木とか集めながら探しましょ」

そう言ってそばにあった枯れ木に手を伸ばすと


「絵里子、その木は駄目だ赤茶色の木は燃やすと毒になる」


知らないと危険だ………

「わ、わかった……アーデン色々この星の事教えてもらわないと私生きていけないかもしれないね。」


「ハハハ、そうか」

(笑ったと言うか笑われた。)



夕方になりパチパチと音をたてる焚き火にあたりながら何故今ここに居るのか思い出そうとするのだけど、どうしてもお墓参りで手を合わせた後のコトが思い出せない。

アーデンは、狩りをしてくれたらしく私から見えない様に後ろを向き獲物を捌いてくれている。


わたしは、アーデンに頼まれて木から少しだけ水を分けて貰う。

アーデンが魔法で作ってくれた木のコップに


不思議な経験だった。

木に「少しだけ水をくれる?」と話しかけると上の方からポタポタと落ちて来る水をコップで受け止める「ありがとう、もういっぱいだわ」と言うと雫は止まる。まるで木が「どうぞ」と言ってる様に


「絵里子、焼けたぞもう食べられる」


「アーデン鳥達は食べられる事どう思うのかしら」


「自然の摂理だ。増え過ぎれば今度は子供達の食べるものが無くなる。そうなる事を分かっている……だが、人は違う」


「アーデン……」


「絵里子には話しておいた方が良いだろうな。今はこうして俺と話してるがもうすぐ話せなくなる」


「え?何故?」


「魔法の力が切れるからだ。だからその前に補充するしかない」


「補充って……」(またキスするって事?)


「あの時は手が使えずに口を使ってしまった……すまない。嫌な思いをさせたな」


「え?口以外でも良かったの?」


「そうだ、俺の血を与えられればそれで良いからな」


「待って、待って、血?」(そう言えば血の味がしてた気がする)


「俺の血は魔法を伝えるために必要だ。魔法を使えない者が一時的にでも使う為には俺の血と俺の魔法が必要だ」


「じゃあ、アーデンが捕らえられていたのはその血の為なの?」


「俺の血と俺の魔法が無ければ軍隊は作れない」


「そんな………私はてっきりアーデン自体が戦わせられるのかと思ってた。」


彼は小さくなり始めた焚き火に木を足しながら

「そうか……俺が戦う事でもそれは可能かもしれない  だが、俺はそれを望まないそんな事を強制されるぐらいなら死を選ぶ。そして奴の言い成りにならない事も奴は知っている」


「それって王様の事よね?アーデンは王様を知ってるの?」


「知ってる。奴は精霊と話せず郷を追われた者だからな……そして俺の叔父だ」


「え?親族なの?それなのにアーデンを使う為に牢に閉じ込めていたって事?」


「そうだな、奴は人族に入った事で野心を持った。先の王に取り入り王を殺し自分が王に成り代わった男だ」


「酷い、だからアーデンの事を知っていたのね」



「話は戻すが、俺の血は少しでも1日は保つ。多く取ればもっと保つだろうが、血を得ただけでは何も起こらない。得た血に俺の呪文が重なって初めて使える。だから奴は俺を生かして置いたのだろう」


「じゃあ、何故アーデンは 」私は言いかけて辞めた何故捕まったのかなどと酷い事を


「絵里子が聞きたい事は何故死なずに生きて捕まっていたのかだろう?」


「アーデン、いい、言わなくて良いから」


「大丈夫だ……俺は叔父に逢えた事が嬉しかった。父も母も精霊と話す事ができず俺が幼い頃郷を出された。その後郷の人達も次々に亡くなり俺は一人で生きていた そこに現れたのが叔父だ。

だがその夜俺は叔父の用意した酒を初めて飲み眠った。気が付いた時にはあの牢に。そして絵里子君が側にいた」


「酷い、酷いよ」


「絵里子、俺は感情が乏しいのだと思う。笑う、泣く、怒るそれらの人らしい事は知らない だが、絵里子お前が笑う事を教えてくれた」


「アーデン………叔父さんは追って来る?」


「だろうな、だから絵里子この国の言葉を話す事、読む事を俺が教える早く覚えるんだ」


「アーデンもしかして」


「俺と一緒だと絵里子は危ない。きっと奴は気がつく」


「何を?何を気がつくと言うの?」


「いや、何でもない。とにかく覚えるまでは俺の血を使えそして1日でも早く言葉を、絵里子が言うこの星の事を知るんだ」

(だがもし、もしも絵里子が俺を望んでくれたなら俺は……望むな……望んでもきっと叶わないなら望むべきじゃない)


「そんな、アーデン一緒に逃げよう。二人で遠くに逃げよう」


「とにかく今はこれを」


そう言ってアーデンは指の先を風の魔法で切り私の方へ差し出してきた。

「これを舐めないと駄目なんだよね?」


「嫌だろうが今はこれしか方法が無い」


「わかった」そう言って私はアーデンの指先に唇を押し当てた

そしてアーデンが何かを呟く。




朝目覚めると日差しの中にアーデンは立ち指先に小鳥を乗せ何か話しかけていた まるで絵画の中の人物の様で現実感がない。

私に気がついた彼は微笑み


「目が覚めたか?腹が空いただろう?」

そう言って木ノ実と柔らかいパンの様なものを渡してくれた


「アーデン、これは何?」


「さっきの鳥達に聞いて取ってきた美味いそうだ」


「そうなんだ、アーデンって鳥とも話せるのね」


「話すと言うよりも頭の中でイメージを伝え合う感じだ」


「昨日の木との会話みたいなもの?」


「そうだ。朝飯を食べ終えたら行こう長居は危険かもしれない」


「そうだね、これから何処に向かうの?」


「今いるのは俺達が捕らえられて居たゼイグロア国の左横に有る『深き森』の入り口付近だが、このまま左に向かうとシエナナと言う町がある、まずはそこに行き必要なものを揃えよう」


「ゼイグロア国………でも、私お金が……」


「大丈夫だ、この森の精霊達から色々金になりそうな物を教えてもらえた。それを採り集めながら進もう」


「精霊さんに感謝しないといけないわね。」


「精霊達がどう致しましてと言ってる」


「ふふふ、伝わって良かった」


そして私達は精霊に教えられながら必要なものを採りつつ歩き始めた。

始めての町を目指しながら









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