サーチライト2
海底はとても暗く、どこまでも黒いのです。
灯りをつけないアンコウは深海を泳いでいます。
痩せた体には冬の冷たさがこたえるのでしょう、よろめきながら沈んでいくのです。
流石のアンコウでも、周りに何があるのか定かではありません。そこでライトをつけようとしましたが、
「あれ、おかしいな」
仲間のアンコウが言っていましたが、栄養がないとライトは点かないのでした。折角美しい光を灯せたアンコウですが、点かなくなったチョウチンを見上げてため息をつきました。
「ボクはどうしてアンコウに生まれてしまったのだろうか。プランクトンを食べ、チョウチンを光らせる。それだけで良かったのに。でもやっぱり、やっぱり嫌なんだ。どうしても嫌だった。美しい光は心を温めるためにあるのだから」
アンコウはひとりごちて、海底の地面にゆっくりと落っこちていきます。
「ああ、体が温かいなあ。心地好いなあ」
海底は地熱で温かです。目も虚ろなアンコウ。ふいに体を包み込まれます。
「これはどうしたのだろう?」
「キレイなアンコウさん、ワタシたちの光を見て」
何百、何千匹ものプランクトンが、アンコウの周りを覆っているのです。赤や青、黄色に紫。たくさんの色とりどりに発光しています。
これまでアンコウの美しい光に心奪われたプランクトンたちが集まってきたのです。あのとき食べなかったからこそ、アンコウと最後のお別れをすることができます。
「なんて美しいんだい。まるで深海のオーロラみたいに」
灯りをつけないアンコウ。短い生涯でしたが、他のアンコウが決して見ることのできない素晴らしい景色に巡り会うことができたのです。
おしまい
生まれた意味が最後まで見つからなくても
信念を貫徹すればきっと後悔なんてしない