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現代的男女同権ハーレム 列伝2  作者: 今谷とーしろー
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戦友後楽 後編

 両親揃っての食事会から数日後。婚約者の片桐掟の主催による神林希総の誕生会が盛大に開かれた。大学を卒業して社会人となれば、彼の誕生会は神林家の公式行事となってしまう。これは私的に祝える最後の機会でもあった。

 招待客の筆頭は長兄西条総志とその妻沙也加、そして双子の子供たち。他には矩総の名代として来た妹の華理那とそのパートナー竜ヶ崎麗一。希総を補佐した副会長として知られる滝川万里華の隣にいるのは同級生だった野田刹那である。

「身長差が凄いわね」

 と沙也加が声を掛けるが、

「それをさーや姉が言いますかぁ」

 と刹那が返す。

 万里華と刹那の身長差は30センチ近いが、総志と沙弥加では40センチに達する。

「まあここには総志兄さんよりも大きい男子もいますから」

「みんな南高の男バレでしょう」

 と沙弥加。

「大きい子はバスケよりもバレーに来たからねえ」

「バスケ部は高さよりも機動力を重視して取りましたから」

 と万里華が答える。総志のプレイを継承するには高さよりも敏捷性の方が重要と考えたのだ。

「ご無沙汰しています。先輩」

 希総よりも一級上、南高バレー部でセッター兼主将を務めた柳原高之。昨年大学を卒業して神林グループの社員となっている。その隣には帰国して間もない御堂真梨世。彼女は兄春真の名代と言う形だ。

「先日の歌は見事だったな」

 と言われて、

「あら。仮面の下の正体はまだ明かしていませんよ」

 と返す。

「それはばらしているのと同じでしょう」

 と苦笑する華理那。

「パートナーが居ないと言ったら紹介されたのだけれど」

 柳原兄は春真と大学でつるんでいたので妹の真梨世とも面識は有った。

「もっとおとなしい子だと思ったのに」

「りせは人見知りですから」

 と華理那。

「どっちが上なんだっけ?」

 と希総に確認する柳原兄。

「華理那が五月生まれで、真梨世が八月生まれですね」

「三カ月違いで同級生の異母姉妹とは、面倒な関係だな」

「御堂の兄と僕は七か月違いで、幸いにも学年が違いましたけれどねえ」


 続いて久しぶりに一堂に会した希総の同学年五人組であるが、以前に集まったクリスマス会の時には同伴者のいなかった二人の連れに関してこんなやり取りが展開していた。

「卒業以来ですね。先輩方」

 と声を掛けたのは桜塚の同伴者である菊池羽衣音。

「まさかこんなところでお会いできるとは」

 と松木の連れの鶴田愛も追随する。

 大鳥が連れてきたのは二人の二年先輩に当たる小野田清子、そして梅谷の方はその一級下の先輩で琴平佐智子。どちらも元主将だった。二人に続くのが引退したばかりの鶴田愛で、新チームの主将が望月の許嫁である海野睦実。つまりA大女子バレー部の主将が四代勢揃いしているのである。

「この顔ぶれは二年前を思い出しますね」

 二年前、希総がユニバーシアード大会に出場した時に、試合会場で出会ったのである。睦実だけはまだ未成年だったので望月と共に帰り、残った八人で一緒に呑みに行った。桜塚と羽衣音、松木と愛が付き合いだしたのもその時からなのだが、

「私は連絡先を交換しただけで、付き合っていた訳では無いわ」

 と清子。

「就職してからは色々と多忙で、それどころでは無かったし」

 と佐智子が言い添える。

 小野田清子は外務省のキャリア官僚、琴平佐智子は神林系の企業で研究員をしている。


 残るは後輩組。希総の一級下の四人は特定の相手が居なくて、華理那が仲介した女子が宛がわれているが、二級下の二人は連れが居た。

「俺たちは相手に困っている訳じゃないぞ」

 と言い訳がましいのがW大で新チームを率いる猪口猛。

「ここに連れてくるのはハードルが高くて」

 と言い添える蝶野睦紀。こちらはK大で先輩の桜塚から主将を引き継いだ。

「俺は今のところいないけれどなあ」

 と開き直っている鹿角晃は梅谷からT大バレー部を託された。

「俺は、姉さんが居るから連れて来なかった」

 と菊池静馬。彼も先輩の松木からM大の次期主将に指名された。

「自分たちも別に交際相手と言う訳では無くて」

 と後輩の八橋尚武。T大で鹿角の後釜候補である。

「二対二のグループ交際と言うやつです」

 と藤村防人。R大で望月からリベロのポジションを引き継いでいる。

 ここで、

「会場の準備が整いましたので、移動してください」

 と声が掛かったので一同は控室から大広間へ移動した。


 大広間には中央に大きなテーブルが置かれてそこに料理が大量に並べられている。入室に際して乾杯用のグラスが配られて、

「では乾杯の音頭を、西条総志様にお願いいたします」

 と掟から指名を受けた。

「雌伏の時を終えて、いよいよ雄飛せんとする我が賢弟神林希総の活躍を祈念して、乾杯」

 四方向に配置された丸テーブルにそれぞれ数脚の椅子が用意されていて、各人が分散して談笑を始めた。

 希総と掟のいるテーブルには最も付き合いの長い三人組が真っ先に駆け付ける。

「こんにちわ、睦実ちゃん」

 と掟。

「昨年のクリスマスの時は二十歳前だったけれど、もうお酒は解禁で良いのね」

「はい。掟お姉さま」

 三人姉妹の末っ子である掟はお姉様と呼ばれて嬉しそうである。

「松木君と大鳥君のお連れはどこに行ったのかしら?」

「二人には先に挨拶しておきたい相手がいるらしいです」

 と松木。

 松木のパートナーである鶴田愛は既に掟とは面識がある。大鳥の方はまだ付き合っている訳では無いので、

「正式に付き合う事に成ったら改めてご紹介します」

「その目はあるのか?」

 と希総に揶揄われて、

「三割弱でしょうか」

 と答える大鳥に、

「それって高いのか低いのか?」

 とツッコむ望月。

「小野田嬢は俺たちより二歳上で、A大バレー部の元主将なんですが」

「つまり沙也加義姉さんの同学年と言う事だな」

 と察しの良い希総。出身高校名を聞いて、

「それは姉さん達の公式戦最後の相手だよ」

「彼女は勝ち逃げされたと言っていましたけれど」

「はて。少なくとも最後に勝ったのは向こうの筈だけれどねえ」

 と希総も首を傾げた。

 希総たちのテーブルから時計回りに見て行こう。

「お久しぶりです。西条先輩」

 梅谷は短期間だけ世話に成ったバスケ部の伝説の先輩西条総志に挨拶した。

「バレー部へ移籍して大成功を収めたな」

 総志は梅谷の方を叩く。

「別の成功もあったみたいだけれど」

 隣に居た沙也加の視線は梅谷の背後に向ける。

 そこには梅谷の同伴者である佐智子の他にも二名の女性が居た。

「こちらが自分の同伴者で、と言ってもまだ付き合っている訳では無いんですけれど…」

「琴平佐智子と申します」

 と自分で名乗り、

「実は南高とは二年生の時にインターハイで対戦しました。と言っても私はまだベンチウォーマーで試合には出ていませんけれど」

 学校名を聞いて、

「確かその年の春高の優勝校ね」

 佐智子の母校は保守的で、下級生がなかなか試合に出してもらえなかったのだが、佐智子が新チームの主将に指名されてからは、選手主導のチーム運営に切り替えて大成功を収めたのだ。

「南高を参考にしました」

 と言われて、

「それは光栄ね」

「私は覚えているわよね」

 と割り込んできたのは小野田清子だ。

「あら懐かしい。ヨキ子ちゃんじゃないの」

 斧の異名であり名前のきよこをひっくり返した仇名で、付けたのは沙也加の相棒である西条総美だ。

「私たちの最後の公式戦の相手だもの。忘れる訳が無いわ」

 同学年の二人は中学時代から三度の対戦があって二勝一敗。つまり最後の最後で一矢報いたのだ。

「やっぱり勝ち逃げされた気分だわ」

 と言った清子の視線の先に居るのは総志だった。

「ああ思い出した。試合後に雑誌を持って来てサインを求めてきた娘だね」

 と総志。

「小っちゃくて可愛い娘が好きなんですか。と訊かれたけれど、昔は俺の方が小さかったからねえ」

「中学に上がるころまではほぼ同じくらいだったのに、そこから一気に伸びたのよね」

「そんな古くからのお付き合いなの?」

 と清子。

「私の相棒の双子の弟よ。知らなかったの?」

「西条って。全然似てないじゃないの」

「まあ二卵性だからねえ。ふうは父親似で、こちらは母親似なのよ」

「清子先輩って、意外に抜けてますね」

 と後輩の佐智子にも呆れられた。

「ヨキ子ちゃんは、昔から猪突猛進タイプだからねえ」

 と沙也加。

「でも面倒見が良くて、うちの後輩も世話に成ったわね」

 と三人目に視線を向ける。

「お久しぶりです。さーや先輩」

 先輩たちに遠慮して後ろに控えていた愛がようやく口を開く。

「元気そうね。マナ」

 背の高い愛が背の低い沙弥加にぺこぺこしている様子が微笑ましい。

 鶴田愛にとって沙也加はバレーを始めた小四の頃からの目標だった。その当時の愛は細身で危なっかしかったが、中学に上がって来た頃には背が伸びて将来性を感じさせた。その起用法を巡って沙也加は相棒の総美と激論を交わした。自分の後継者としてセッターをやらせたい沙弥加に対して、チーム一の長身を攻撃力アップに使いたい総美。二人が入れ込み過ぎたために周囲からのやっかみを受けて、二人が卒業した後の新チームでまだ二年だった愛は干されてしまう。その結果、新チームは全国行きを逃し、同級生から押された愛が次の主将となってチームを再建する。

「色々と申し訳なかったと思うけれど」

 沙也加にとっての最大の心残りは、二歳違いなので同じチームで直接指導できる時間があまり取れなかった事だ。強豪であるA大学に進んで初めてチーム一の長身ではなくなった愛は念願のセッターとしてポジションを獲得した。

「鶴ちゃんは最初からセッターとしての最低限のスキルは持っていたけれど、あれは貴方が仕込んだんじゃないの?」

 と清子に訊かれて、

「具体的に教えたことは無いわ。見て覚えたのでしょうね」

「半分正解です。滝川さんから先輩の映像を見せてもらって研究しました」

「そうだったの。手間を掛けたわね」

 沙也加は愛の後ろにいた万里華に礼を言った。

「見ただけでモノにできるこの二人が凄いんですよ」

 と万里華は隣に居た刹那にも話を振る。

「私はそこまで物覚えが良くないよ。覚えたことは忘れないけれど」

 鶴田愛と滝川万里華、そして沙也加の従妹もである野田刹那は同学年で、男子からの人気を三分していた。

「二人が双璧で私は不動の三番手でしたけどね」

 と自嘲気味の愛である。

「そうねえ。この二人と並べられるのは気の毒だと、私でも思うわ」

 単純に容姿だけなら決して引けは取らないが、万里華は男子バスケ部を率いて九冠を達成した美少女監督であり、刹那は高校在学中に日本記録を叩き出した超高校級のアスリートである。

「不特定多数の男子にモテなくても良いんですけれどね。意中の相手さえ振り向いてくれるならば」

「意中の相手って、希総君でしょう」

 と後半だけ声量を絞ってくる沙弥加。

「この二人は例外として、私の同級生の何割かは、彼が初恋だったと聞きますね」

 万里華にとっては年の近い弟なので恋愛の対象外。刹那は初めから矩総推しである。

 愛にとって希総への好意はバレーを始めるきっかけの一つであったが、

「中一の時、神林邸内での合同祝勝会であの希代乃様を見た瞬間に無理だと悟りました」

「些か気が早いと言うか。でも気持ちは判らなくもないわね」

 沙弥加は苦笑しつつも共感する。

「希代乃さんとうちの母とは小学生からの付き合いで、ある種のライバル関係にあったから」

 その母から、

「あれは怖い女よ」

 と言われてきた。

 高校生になって総志と正式に付き合うようになった後、

「沙也加ちゃんはうちの嫁候補の一人だったのだけれど」

 と希代乃から打ち明けられた。

「勿論当事者の意思が第一だけれどね」

 母の言葉の一端が理解できた瞬間だった。


 その次のテーブルには希総の一級下の後輩たちが集まっていた。同伴者を連れて来なかった四人に紹介されたのは大学で立ち上げた同好会のメンバーで、ここだけは一対一ではなく四対四の合コンの雰囲気になっていた。

 それを見守るのは四人の一人菊池静馬の姉である羽衣音。そして紹介者である華理那と、そのパートナーで此処に居る面々とは同学年でもある竜ヶ崎麗一。更には北女の高等部卒で羽衣音の後輩である御堂真梨世とその付き添いとなった柳原高之も加わっている。年代的には柳原兄が一番上で、次が羽衣音。そして麗一が続き、残りは同学年になる。

「うちの愚弟がお世話に成りまして」

 と年長者に礼儀を尽くす羽衣音に、

「彼らは悲願の全国制覇を成し遂げた世代だから」

 と大人の対応を見せる柳原。

 そこに割り込むように、

「直にお話しするのは初めてですね。菊池先輩」

 と右手を差し出す真梨世。二歳違いの上に畑違いとあって在学中の接触は無かったのだが、

「楓芽から名前は聞いていたわ。声楽部の歌姫さん」

 と両手で握り返す羽衣音。

「庄原先輩には色々とご指導頂きました」

 庄原楓芽は有名な音楽一家の娘で、真梨世が一年の時声楽部の部長である。

「声楽部も実態は体育会系だからねえ」

 真梨世は姉の華理那と妹の恭子に挟まれて競い合ったので、体力だけは人一倍にあった。

「で、こちらは竜ヶ崎麗一。剣道界ではちょっと名の知れた人物です」

 とぞんざいな紹介をする華理那。

「ちょっとどころじゃないでしょう。日本一を捉まえて」

 高校三連覇から大学も三連覇中。どころか日本選手権も連覇中で、今現在剣道界で一番強い男である。竜ヶ崎流は古武術一般を修めるので、無手でもそこそこ戦える。

「お姉さんの方は何度かお見掛けしました。北女の剣道部や薙刀部との試合で来校されていましたから」

 一通り紹介が終わったところで、

「それでりながまねちゃんと立ち上げたと言うのはどんな同好会なの?」

 と真梨世が訊いてきた。

「ゲーム研究会よ」

 と華理那が答える。

「一人でやるものから、二人で行う対戦型。あるいは大勢で競い合うものまで。但し扱うものは勝ち負けを決めるタイプ。勝利条件が明確なモノに限ります」

「じゃあ文化系なのね」

 と姉の羽衣音が言うと、

「カリーナ様って運動も得意な筈なのに。勿体ないなあ」

 と弟の静馬が返す。

「ゲームと言っても頭を使うものばかりではありません」

 と華理那。

「体を使うものも対象で、例えば皆さんの専門であるバレーボールも含まれます」

 ゲームと言うものを社会の要素の一部を反映したモノであると捉えて、ゲームの実戦と研究を通じて社会に必要なスキルを身に付けようと言うのがコンセプトなのである。

「相変わらず小難しい事をやっているわねえ」

 と真梨世が揶揄うと、

「要するに彼女が高校時代にやっていた事の集大成なんだ」

 と竜ヶ崎麗一がまとめる。

「画創研の活動は御堂先輩の残したモノを引き継いで、運動部の活躍をデータ分析を通してサポートする。言うなれば裏方仕事だったけれど」

 今は天音と言う相棒を得て自らもプレイヤーとして参加しているのだ。


 四つ目のテーブルには最年少組。卒業後にプロになった柳原兄弟の弟高弘はリーグ戦が佳境と言う事で欠席。残る二人、八橋尚武と藤村防人は同行者を連れていた。そこに元主将の桜塚と、遅れて到着した滝川太一が鵜野天音を連れて合流した。まだ十九でお酒が飲めない太一は乾杯が済んでから参加する手筈になっていたのだ。

「こんなところで再会するとは思わなかったわ」

 と天音。八橋と藤村の同伴者は白雪沙豊と黒姫輝夜。元南高バスケ部で、天音とはインターハイで戦った相手である。

「天下の鵜野天音さんに覚えていてもらえたなんて光栄です」

 と長身でセンターだった輝夜。

「ノーマークだと思って放ったレイアップを後ろから叩かれたのは忘れられないわ」

「センターはとにかく走れ。と言うのが南高バスケ部の共通の訓えですから」

 全員を知っている沙豊が紹介役を務めた。

 沙豊と輝夜はJ大に進学し、バレー部に入った。沙豊は元々バレー部であり、輝夜の方は高校から始めたバスケなのでそこまで思い入れが無かった。

 続いて太一と天音。下級生組の方は中央高校の元副会長として太一を知っていた。天音の方は色々と有名なので説明はほぼ不要だった。勘の良い桜塚は太一の顔を見て首を捻っていたが、太一が滝川翼校長の息子だと知って詮索を止めた。

 桜塚は自己紹介の後にて後輩二人を紹介したが、

「T大の同好会なら」

「ええ。八橋先輩とは大学の方でお目に掛かりました」

 ここで華理那が移動してきた。

「もう紹介は済んだみたいね」

「ああこれで学年三傑が勢揃いだ」

 と笑う藤村。

 彼らの学年では華ミスパーフェクトと呼ばれた理那がダントツの首席で、八橋が次席。そして沙豊が三位であった。

「ショーブと白雪嬢が打倒カリーナ様を目指して開いていた勉強会に、俺とヒロも混ぜてもらって随分と助かりました」

 八橋が文系で沙豊が理系なので互いの苦手を補い合っていた。

「ヒロはプロ入りを視野に入れていたから最低限卒業出来れば良かったが、俺は一応進学希望だったから」

「藤村君も地頭は悪くないと思うけれど」

「モリは要領が良いけれど必要最低限の努力しかしないから」

 とぼやく八橋。

「私は部活動の引退後にちょこっとだけお邪魔しました」

 と言った黒姫輝夜は高校時代は十位前後の成績で、A認定が狙えるレベルだ。Aを取れば最難関の一部の大学・学部を除けば二次試験は免除で入れる。だがその上のSとなると南高で常にトップだった希総や華理那ですら届かなかった別次元だ。

「二人ともバスケはやっていないらしいわ」

 と天音。

「勿体ない。と私が言えた義理では無いのだけれど」

「怪物のプレイを目の前で見て限界を悟ったんです」

 心強い味方としての青木沙羅、目の前に立ち塞がる強敵であった西条恭子。そして全国に君臨していた鵜野天音。

「三人が居なくなったステージで天下を取ってもあまり自慢にはならないから」

 と嘯いて、

「それにバレーなら年を取ってからでも楽しめるでしょう」

「黒姫さんの方はそれでよかったの?」

「私は沙羅さんに誘われてやっていただけだから」

 輝夜は若干コミュ障である。高身長もエキゾチックな顔立ちもコンプレックスになっていて、初対面だと必ず名前が弄られがちと言う事も影響している。バスケ部ではハーフの青木沙羅が隣で目立っていたので緩和されていた。J大は外国人留学生も多いので輝夜の顔立ちもさほど目立たない。と言うのも志願の理由らしい。

「J大のバレー部は半分が留学生で、中々の強敵だったわ」

 と羽衣音も会話に参加してきた。

「それはそうと、沙豊たちの組み合わせはどうなっているの?」

 高校時代は沙豊と八橋が交際登録していたが、あれは華理那に対する共闘の為だった。

「初めは四人で始めたRINGに後から輝夜さんが加入して、卒業後はナギヒロが多忙で休眠状態なので、結果として残った四人がグループ交際と言う感じかな」

 と八橋が纏めた。

「まあ身長を見比べれば、八橋君と黒姫さん、藤村君と沙豊の方が座りが良いけれどねえ」


 料理がほぼほぼ無くなった頃、デザートのケーキが運び込まれてきた。カートを押してきたのはメイド服の女性は、

「なんて格好をしているの、母さん」

 この家の主である希代乃であった。

「あら、似合わないかしら?」

 と言ってくるりと回る。希代乃の着る服はすべてオーダーメイドの一点モノだが、これはヴィクトリア朝風のメイド服で、腰回りが最新素材なので体への負荷が小さい。

「料理は足りたかしら?」

 と確認した上で、 

「掟さんは飲み物の方をお願い」

 希代乃はケーキを皿に移して配っていく。用意されたのはホールケーキでは無く既に切り分けられたものだ。そこにフルーツをお好みでトッピングしていく。

「お好きなだけどうぞ」

 と言われても、希代乃を目の前にして大盛で取っていく度胸のあるものは居なかった。


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